ヴェリテ〜賢竜帝様の番は過ちを犯し廃嫡されて幽閉されている元王太子で壊れていました

ひよこ麺

文字の大きさ
19 / 77

17.全ては失われた手足のため(リリア(公爵令嬢)視点)

しおりを挟む
「まずいわね」

私の元を訪れた使者は相変わらず爬虫類のような冷たい目で私を見つめている。

それは、私の全てを監視するように確認するように見られていることが経験上わかっていた。

「そう、とても面倒くさい。あいつはやはり始末すべきか??その方が楽だが……」

「やめて、それだけは……」

私は懇願するように、その瞳を見つめる、どうしてもそれだけは、だけは守りたかった。

「ならば、うまくやることだ。お前の使える駒を使え。我々が与えたそれを生かしきる、それがお前に課せられた使命だ」

「わかったわ。ところで、そろそろ薬が切れるわ。いつも通り手配をお願い」

「ああ、もちろん。では、また連絡する」

そう言うとそれは煙のように揺らめいて消えた。

「貴方のためなら……私の大切な番。貴方のためなら私は……」

それが誰かの幸せを壊すことになっても私は、その歩みを止めることは出来ない。

「全ては、失われた手足のため。神の怒りに触れて地べたを這う者となった我々と同胞のため」

「そのためなら、同胞のためなら命など笑って捨てろ」

小さな頃から子守唄のように聞いていた、私の全てを形成するもの。

けれど……

「好きだよ」

甘やかなその声で頬を赤らめて貴方は言ってくれた。

「愛している」

砂漠にオアシスを見つけたように私は貴方を、貴方のためなら……。

(きっと、もう穏やかさなどは味わうことはないのね、それでも……)

トントン

部屋の扉を叩く音がした。

きっと彼だろう。

「はい、どうぞお入りになってください」

そこには、この国の竜帝の甥っ子であり私の婚約者のシユ様が疲れた顔をして立っていた。

「リリア、伯父上には会えなかった。あのクソ猫狂いに邪魔された」

「まぁ、だめですよ。人の悪口を言っては。誰が聞いているともしれませんから」

「大丈夫。ちゃんとここには、防音魔法をかけたもん」

少しむくれたその顔は幼い。確か180歳だと聞いている。

人間からすればおじいちゃんだけれど竜人ではまだ未成年らしい。

「そうですか。さすがですわシユ様。結局この後も竜帝様にはずっとお会いできないのですか??」

「ううん。1週間後には約束できたよ、でもその間にあのクズを始末しないと……」

ルーエリン様に対してシユ様の怒りはもっともだ。彼はルーエリン様が番を傷つけて浮気をしてさらには冤罪まで着せたクズ男だと思っているから。

さらに言えば、彼は番を助けたヒーローだとすら思っている。

幼い彼からしたらそれはきっと胸が梳くような成功体験だったに違いない。

(真実を知ったら、彼はどんな顔をするのだろう……)

そんなことを考えて苦笑する。

「シユ様、いつもありがとうございます。貴方のことを愛しています」

「大丈夫だよ。リリア、全部僕に任せて」

頬を上気させて微笑む。甘い甘いその笑顔は私に残る僅かな強さを刺激する。

「ありがとうございます」

それを飲み込んでやり過ごす。私には歩みを止めることはできない。ならばやることはひとつ……。

全てのヴェリテを白昼にさらす可能性があるルーエリン様を消す、ただそれだけだ。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

処理中です...