雨ニモマケヌ、野ニ咲ク花ノヨウニ〜魅了魔法で全てを失った元王子の拙者は前世推しに貢いで爆ぜたアイドルオタクだと思い出した

ひよこ麺

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46:愛は血の雨とともに01(マティーニ視点)

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(……よしかかったな)

私は心の中で僅かに微笑む。

『暗示』というスキルは相手に掛かりさえすれば絶対的なスキルであるが、掛けるまでがとにかく難しいのだ。

『暗示』はスキルを掛けた対象に特定のトリガーを引かせて、無意識に対して働きかけてある観念を与えるものだ。このあたりは『強迫』のスキルにも似ているが、『強迫』はあくまでその人物の中に元々ある『疑心』を増幅して自主的に『そうだ』と思わせる能力に対して、『暗示』はトリガーを引かせられれば相手がどう思おうが考えていようが掛けることができる。

ただ、『暗示』は本来ない観念を埋め込むため、『強迫』より解けやすいという難点がある。そのため、最近はまず『暗示』を掛けてからその暗示に対して『強迫』で強化するような方法を取っていた。

しかし、時間がなかったのと、トリガーを植え付けるのが中々難しかったため目の前の男に対しては『暗示』しかかけられていない。

(この男は、帝国の中枢ともかかわっているようだし、ギムレット様、いいえ、のためにもなんとしても……)

そう考えながら、男、魔法師団長の横にいる若い男の顔を見た。見覚えのないその男からなぜか、遠い故郷の懐かしい花の匂いがする。

それは甘ったるい香水になるような花の匂いではない。故郷に秋に咲いている小さな、しかし香り高い花のような懐かしい匂いと共に郷愁を誘う。

(私は、レイン様と出会わなければ死んでいた)

私は、元々は蛇と言われた一族の血を引いている。しかし、遠い昔、蛇の一族は竜の一族との闘いに敗れてしまい以降ゆるやかに衰退していったと言われている。

それでも数少ない生き残りたちは肩を寄せ合い人々の中に混ざりながらも静かに生きていた。

特に『暗示』のような精神的なスキルを発現するものが多かったため、家族のためにその力を使ううちに国の暗黒部で働く者が多くなった。

私の両親も、この王国の暗部、影として働いていた。しかし、その事実を知ったのは全てが失われてからだったけれど……。

今、香っているのこ花は母の故郷で祖母の家に預けられていた時に嗅いだ花の香りだ。花の名前は思出せないけれど匂いははっきりと覚えていた。

オレンジの小さな花が咲くその木は祖母の家では柵の代わりに沢山植えられていたのをはっきりと覚えている。祖母はだいぶ昔にこの地に流れ着いたようだったが、周りの村人達からはずっとよそ者として扱われていたし、私もずっと他の村人となじむことはなかった。

それでも、あそこで暮らしていた時が私にとって一番心穏やかだったのは間違いない。

友達は誰もいなかった。けれど、祖母がいつも色々な話をしてくれた。その話を聞きながら広大な山里の自然の中で過ごしていた平和な日は、突然、顔も写真でしか見たことのなかった母親がボロボロになって帰ってきたことで終わりを告げた。

母親は、ひとりの少年を連れてこの村へやってきた。私と年の変わらないその少年はとてもとても美しい顔をしていた。

彼の名前はレイン・メビウス。王国の王様の庶子だという。庶子のためセカンドネーム、祝福の名を貰えなかった気の毒な王子様は本来なら王様が貴族の家に養子などに出すのだが、彼の母上の身分があまりに低かったこともあり、養子先が決まらなかったのだという。

本当は、それだけではなく王様の寵愛を一身に受けていた、レイン様の母親を嫌った正妃様の実家の策略で養子先になりそうな家には圧力がかかっていたのだ。この段階で既にレイン様はとても不遇な境遇だったが、さらにレイン様は王族の色をひとつも持って生まれてこなかった。

この国の王族は金髪碧眼の特徴を持つが、レイン様は黒い髪に赤い瞳をしていた。それは全て彼の母上の色なのだが正妃は王様に、彼は不貞の子ではないかと言い募っていたという。

そうして、色々なことが重なり、レイン様は敵国の人質に出されることになってしまったのだ。敵国とは当然良好な関係などなくいつ戦争が起こるかという緊張状態が続いていた。そのため、レイン様が人質に出されればほぼ生きて帰るのは絶望的だった。

そんな状況を嘆いたレイン様の母上がなんとか食い止めたが、もちろん簡単に王侯貴族を止めることなどできない。

ならどうやって止めたかと言えば、自らの命を贄に呪詛を掛けたのだ。

『もしレインを隣国に受け渡したりその命を危険にさらした場合、王国に多大なる不幸が襲い掛かるだろう』

その結果、レイン様は隣国へ人質としては出されはしなかった。しかし、生きていれば問題ないと判断した正妃によりそれはそれは酷い扱いを受けていた。

下男としてこき使われてボロボロにされていた、レイン様を偶然、異母兄弟の兄である現カルナック公爵が発見して、彼を私の両親に預けなければ体は死ななくても心は殺されてしまったかもしれない。

しかし、カルナック公爵が私の両親に預けたことで正妃は両親に追っ手を放った。今まで王国の影として尽くしてきた両親は1日でお尋ねものになってしまったのだ。

そして、祖母の元へたどり着いたのは母親だけだった。しかも瀕死の状態でやってきたのだ。
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