社畜サラリーマン、異世界で竜帝陛下のペットになる

ひよこ麺

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60.正気を取り戻した僕と取り返しのつかない(リュカ殿下視点)

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それは突然訪れた。

今まで、見えていた世界が色を変えた瞬間だった。

「……僕はなんてことをしてしまったんだ、なんてことを……」

ずっと正しいとなぜか思っていた行動すべてが、間違えだと急に視界が広がるように理解してしまったのだ。

それは、そもそも、伯父上の番い様を『魂壊こんかい』したところからはじまっていた。僕はアナイスを友人として一方的に信じたばかりに何の調査もせずに番い様を悪とみなして殺してしまったのだが、その番い様であったルゼル小公爵を一方的に醜い人物だと思い込んでいた。

確かに僕の目には金髪に金の瞳の美しい人が映し出されていたはずなのになぜかアナイス話した後に、ルゼル小公爵を見るとこの国では到底ありえないまるでトロールのような醜い姿の存在に見えるようになっていた。

美醜だけで判断することは当然良くないと頭では分かっていたのに、その不快感と嫌悪感を与える見た目に引っ張られて悪だと決めつけて最初は貴族らしく友好的に接そうとしてきた彼に対して、アヴェルとふたりで嫌がらせともいえる態度と行為を行った。

その結果、本来であれば高位貴族である誰からも尊厳を傷つけられる必要のなかった、ルゼル小公爵に対して周囲の生徒達もまるで悪い行いをしている存在として嫌悪させる結果へと扇動する要因を作り出してしまった。

「どんな時も治世者は、自身の行動には責任が伴うことを忘れてはいけない」

と伯父上に教えて頂いたのに、その面目と幸福を潰してしまったのだ。

さらに、アナイスの言葉に従い、いくら伯父上を助けたかったからと言って無関係の存在を無理やりこちらの世界に召喚したあげくにまた、醜いという理由でその命まで奪おうとした。

彼は純粋な被害者でしかないのに、たとえどんな姿でも丁重に扱うべきだったのに残酷な行いをしてしまった。

「到底許されるとは思えない……どうすればいいんだ」

今まではどこかで番い様も異世界人も悪いのだと決めつけていた。その原因も要因も全てが自身が不甲斐ないばかりに術で操られていただけだという事実に思わず自身への嫌悪の笑みが浮かぶ。

「……やっと。正気に戻られたのですね」

僕の独り言に答える声がして焦って顔をあげるとそこには、アヴェルが立っていた。

地下牢の檻を挟んで対面した彼の瞳には涙が浮かんでいるのが分かった。

「アヴェル……僕は、僕は本当に酷いことをしてしまった。番い様には償えないが、異世界人には誠心誠意償いがしたい」

「……リュカ殿下、落ち着いて聞いてください。実はペット様、いいえ、シヅル様は……、番い様の生まれ変わりだったのです」

その言葉に忘れていた、アナイスが言った言葉を思い出す。

『ずっとずっとはじめてお会いした時からたったひとりお慕いしていた。けれど、あの方の尊い魂には傷ひとつなくこのままでは私のようなにはついぞ手に入らないはずだった。しかし、リュカ様、貴方があの方の魂を砕いてくださったおかげて、その魂を堕としてくださったおかげで、やっとやっと手に入る。ああ、下級世界に堕ちたあの方の魂を欠けた私とおそろいの魂を呼び戻すことができました。本当に本当にありがとうございます。後はこのまま地下牢で朽ち果てて下さいませ』

「あっ……アナイスが……あんな、あんな!!あああ、僕が全て僕が悪いんだぁあああああああ」

自身の罪の重さと裏切られた苦しみに髪を掻きむしりながら牢の床に崩れそうになった僕の体を力強い両腕が受け止めた。

「貴方だけの罪じゃありません。一番近くで貴方を見ていたのに気付くのがおくれてしまった俺も同罪です!!だから、自分だけをせめないでください!!」

檻の外から伸ばされたアヴェルの両腕の体温に涙がボロボロと零れ落ちた。そういえば、アヴェルとはずっと一緒に居たのに体が触れ合ったのははじめてかもしれない。

「でも……ぼくは……償いきれない罪を犯した、犯したんだ!!」

「番い様が許してくれなくともふたりで償いましょう、まずは謝りましょう。ふたりで……」

地下牢にいたことにより汚れた手を、アヴェルは躊躇なく自身の口元に触れさせた。それは忠実を誓う騎士の仕草だったが次の言葉に思わず目を見開く。

「リュカ殿下、いいえ。たったひとりの番……」

牢の柵越しに、僕はアヴェルとキスを交わした。それはとても苦い味がした。アヴェルのおかげで僕はある決意をした。

「……ありがとう。僕は、番い様に、異世界人、いやシヅル殿に謝罪したい。たとえ許されなくてもまずはしっかりと伝えないと……」
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