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私は今、危険だから入るなと散々言われた森に入れと言われている。
なんという矛盾。
大人ってこういうところあるから嫌いなんだよね。
魔王と平和協定を結んでから数百年が経った。
私の住んでいる村では、魔力を持った人間が稀に誕生する。
平和協定というのは、その稀な人間を魔王に引き渡すことと引き換えに、村の人間には一切手を出さないというものだ。
なんとその稀な人間が百数年ぶりに生まれた。
それが私。
決まりでは16歳になれば魔王の領域とされる森にひとりで入らなければならない。
そしてなんと今日は私の16歳の誕生日。
森は不可侵領域で、村の人間は誰もが近寄らない。
そんな場所に行かなければならない。
森に入ったあとのことは誰も知らない。
噂では、意識があるまま食われるとか、良いように弄ばれた後食われるとか、気に入らなければ食われるとか言われている。とりあえず食われるらしい。
「頼んだぞ、サラ。村の命運がかかってるからな」
「うん、わかってる」
本当は微塵も分かりたくない。
食われるという噂だけでも嫌なのに、“入ったら絶対に出られない”とか、“魔物がたくさんいて食べられる”とか、そういう噂がある森に入りたいやつが居てたまるか。
ただ、私がこのままこの村にいたら、私どころか村人全滅の危険性がある。
だから私にはこの森に入るという選択肢しかない。
「今までありがとう」
私のその言葉に、見送りに来ていた家族や村の人達がいろいろ言っていた気がするけど、吐きそうなくらいびびっていた私の耳には何も入ってこない。
多分人生でこれ以上ないくらい勇気を振り絞って、森に入る。
これが意外なことに、入口こそ鬱蒼としていて不気味だったが、少し進むとしっかりとした道がある上に、程よく日が当たって明るく、ちょっとしたピクニック気分だった。
いや、それは言いすぎたかもしれない。
“魔王”なんて呼ばれている人のところに向かっているのに、ピクニックなんてそんな気分にはさすがになれなかった。
魔王ってなんだ。魔王です!みたいな見た目のでかい怖い人?とか出てきたらさすがに泣いて逃げる。
「あなたがサラ様?」
いろいろと想像をめぐらせているうちに、結構長い距離を歩いたと思う。
前方に……、あれはなんと言えばいいんだろう。
近所の子が持っていた、可愛いくまのぬいぐるみ?みたいな物?生き物?が立っていた。
その後ろには大きな御屋敷。
「あ、はい」
「遠いところをありがとうございます。
ご主人様がお待ちです。着いてきていただけますか?」
「わかりました」
言われるままその子についていく。
玄関扉に差し掛かる少し前で扉は自動で開く。
広っ……綺麗……。
玄関ホールはだだっ広く、特にたくさんの装飾があるわけではなかったが、味気ない、というわけでもなかった。
右手側の階段を進むと、ひときわ大きな扉がある。
そこを開けた先に、その人は座っていた。
「いらっしゃい、待ってたよ。
遠いところよく来たね」
そういってこちらに微笑むその方が“魔王”らしい。
「嘘でしょ、とてつもない美形……」
人間にはいないであろう真っ白な髪に紅い瞳。顔が整っている上に肌が白く、もはや作り物だと言われた方が納得できる美しさ。
私は想像もしていなかった見た目に、挨拶もそっちのけで彼をガン見してしまった。
「私の顔が気になる?
きっと魔物のようなものを想像していたんだろうね。でも残念ながら、魔力が膨大すぎるだけで他は普通の人間と変わらないよ」
「……いや、普通の人間には持ちえない美貌をお持ちですよ」
「そう?ここにはそういう感性を持つ人がいないからなぁ。
でも君が気に入ったならそれに越したことはないね」
「あの、人間と同じってことは私を食べたりは……?」
「しないよ。
ただ以前、魔力を持った人間がここに住む魔物たちを身勝手に殺したりしたから、平和協定なんていってこんなルールを設けさせて貰ったんだ。また殺されたら堪らないからね」
ひとまず安心。
村の人の話では、弄ばれて食べられるって話だったから。
「魔物……。あの、この子もですか?」
さっき案内してくれた子を見てたずねる。
「あぁ、可愛いけど結構強いんだよ。だからこれからはその子が君の護衛。
そしてその後ろの子が君の世話係」
「よろしくお願いします、サラ様」
金髪の長い髪を結わえた、綺麗な顔立ちの女性が私に一礼する。
「こちらこそよろしくお願いします。人間の方もいるんですね」
「いや、その子人間じゃないよ。魔物」
「えっ!?」
「見た目は人間だけどそれは仮の姿で、見た目で油断させて人を食べる魔物だね」
「……っ!?」
「あ、その子は大丈夫。珍しく人間の食べ物が好きだから。
気を抜いてるときに骨になるところ以外は人間とほぼ同じ」
「骨に……」
こんなに美人さんが骨……。夜には遭遇したくないかもしれない。
「まあ他の子とか、その他諸々は追々紹介するね。今日はいろいろと疲れたでしょ?部屋でゆっくりして。
案内してあげて」
「はい。
こちらです、サラ様」
私のお世話係だという女性が一緒に部屋を出て、私の部屋まで案内してくれるようだ。
「あの……なんてお呼びすれば?」
「お好きに呼んでください」
「名前は?」
「魔物にそういったものはありません」
「あの、ご主人様?にはなんて呼ばれてるんですか?」
「魔力を使えば、名前を呼ばずとも自分に注意を向けさせることが可能ですので」
何?こっち向け~、的な?
「はい、そうです。そのような感じで」
「えっ?」
「今サラ様も使われたでしょう?」
そんなつもりは全然なかった。
この綺麗なお世話係さんに、こっち向け~って思っただけなのに。
そういえば、治れ~って念じれば怪我が治ったりしてたな。
「でもやっぱり16年間名前がある世界で暮らしてきたもので、名前があると助かります」
「ではサラ様がつけていただけますか?」
「え、私?いいんですか?」
「はい、もちろん」
そういったものの、何も思い浮かばない……。
名前なんてつけた事ないし……。
「……少し考えてもいいですか?」
「構いません。
こちらがサラ様のお部屋です」
「可愛い……」
白を基調とした部屋で、天蓋付きの大きなベッドにソファとテーブル、ドレッサー。
「そちらの扉の奥には、御手洗とバスルーム、そちらの扉はクローゼットです。
他に必要なものがあれば言ってほしいと仰っておりました。
それと。
先程の様子ですとサラ様は簡単に魔法が使えてしまうようですが、魔力が尽きれば死にます。便利ではありますが、むやみに使うのはお控えください」
え、魔力なくなったら死ぬの?嘘じゃん。
村の子達の怪我治したりしてたのに……。
そういうのはもっと早く教えてほしかった。
「はい」
「では私はこれで。
御用の際はその紐を引っ張って頂ければ、駆けつけますので」
「わかりました、ありがとうございます」
とりあえずお風呂に入りたくて、なにか着られるものはないかとクローゼットを開けてみる。
中には10着ほど洋服が掛けられていた。
今まで着ていた質素なものとは違い、手触りがよく、デザインも可愛い。
試しに一着着てみれば、魔法がかけてあるのか自分ピッタリのサイズになった。
でもそんな綺麗な洋服を着ると、パサパサの髪と手入れのされていない肌が目立って、自分のポテンシャルの低さに気持ちが下がる。
ちゃんと可愛い部屋着も用意されていたが、その日は風呂場の前に用意されていたバスローブで寝た。
なんという矛盾。
大人ってこういうところあるから嫌いなんだよね。
魔王と平和協定を結んでから数百年が経った。
私の住んでいる村では、魔力を持った人間が稀に誕生する。
平和協定というのは、その稀な人間を魔王に引き渡すことと引き換えに、村の人間には一切手を出さないというものだ。
なんとその稀な人間が百数年ぶりに生まれた。
それが私。
決まりでは16歳になれば魔王の領域とされる森にひとりで入らなければならない。
そしてなんと今日は私の16歳の誕生日。
森は不可侵領域で、村の人間は誰もが近寄らない。
そんな場所に行かなければならない。
森に入ったあとのことは誰も知らない。
噂では、意識があるまま食われるとか、良いように弄ばれた後食われるとか、気に入らなければ食われるとか言われている。とりあえず食われるらしい。
「頼んだぞ、サラ。村の命運がかかってるからな」
「うん、わかってる」
本当は微塵も分かりたくない。
食われるという噂だけでも嫌なのに、“入ったら絶対に出られない”とか、“魔物がたくさんいて食べられる”とか、そういう噂がある森に入りたいやつが居てたまるか。
ただ、私がこのままこの村にいたら、私どころか村人全滅の危険性がある。
だから私にはこの森に入るという選択肢しかない。
「今までありがとう」
私のその言葉に、見送りに来ていた家族や村の人達がいろいろ言っていた気がするけど、吐きそうなくらいびびっていた私の耳には何も入ってこない。
多分人生でこれ以上ないくらい勇気を振り絞って、森に入る。
これが意外なことに、入口こそ鬱蒼としていて不気味だったが、少し進むとしっかりとした道がある上に、程よく日が当たって明るく、ちょっとしたピクニック気分だった。
いや、それは言いすぎたかもしれない。
“魔王”なんて呼ばれている人のところに向かっているのに、ピクニックなんてそんな気分にはさすがになれなかった。
魔王ってなんだ。魔王です!みたいな見た目のでかい怖い人?とか出てきたらさすがに泣いて逃げる。
「あなたがサラ様?」
いろいろと想像をめぐらせているうちに、結構長い距離を歩いたと思う。
前方に……、あれはなんと言えばいいんだろう。
近所の子が持っていた、可愛いくまのぬいぐるみ?みたいな物?生き物?が立っていた。
その後ろには大きな御屋敷。
「あ、はい」
「遠いところをありがとうございます。
ご主人様がお待ちです。着いてきていただけますか?」
「わかりました」
言われるままその子についていく。
玄関扉に差し掛かる少し前で扉は自動で開く。
広っ……綺麗……。
玄関ホールはだだっ広く、特にたくさんの装飾があるわけではなかったが、味気ない、というわけでもなかった。
右手側の階段を進むと、ひときわ大きな扉がある。
そこを開けた先に、その人は座っていた。
「いらっしゃい、待ってたよ。
遠いところよく来たね」
そういってこちらに微笑むその方が“魔王”らしい。
「嘘でしょ、とてつもない美形……」
人間にはいないであろう真っ白な髪に紅い瞳。顔が整っている上に肌が白く、もはや作り物だと言われた方が納得できる美しさ。
私は想像もしていなかった見た目に、挨拶もそっちのけで彼をガン見してしまった。
「私の顔が気になる?
きっと魔物のようなものを想像していたんだろうね。でも残念ながら、魔力が膨大すぎるだけで他は普通の人間と変わらないよ」
「……いや、普通の人間には持ちえない美貌をお持ちですよ」
「そう?ここにはそういう感性を持つ人がいないからなぁ。
でも君が気に入ったならそれに越したことはないね」
「あの、人間と同じってことは私を食べたりは……?」
「しないよ。
ただ以前、魔力を持った人間がここに住む魔物たちを身勝手に殺したりしたから、平和協定なんていってこんなルールを設けさせて貰ったんだ。また殺されたら堪らないからね」
ひとまず安心。
村の人の話では、弄ばれて食べられるって話だったから。
「魔物……。あの、この子もですか?」
さっき案内してくれた子を見てたずねる。
「あぁ、可愛いけど結構強いんだよ。だからこれからはその子が君の護衛。
そしてその後ろの子が君の世話係」
「よろしくお願いします、サラ様」
金髪の長い髪を結わえた、綺麗な顔立ちの女性が私に一礼する。
「こちらこそよろしくお願いします。人間の方もいるんですね」
「いや、その子人間じゃないよ。魔物」
「えっ!?」
「見た目は人間だけどそれは仮の姿で、見た目で油断させて人を食べる魔物だね」
「……っ!?」
「あ、その子は大丈夫。珍しく人間の食べ物が好きだから。
気を抜いてるときに骨になるところ以外は人間とほぼ同じ」
「骨に……」
こんなに美人さんが骨……。夜には遭遇したくないかもしれない。
「まあ他の子とか、その他諸々は追々紹介するね。今日はいろいろと疲れたでしょ?部屋でゆっくりして。
案内してあげて」
「はい。
こちらです、サラ様」
私のお世話係だという女性が一緒に部屋を出て、私の部屋まで案内してくれるようだ。
「あの……なんてお呼びすれば?」
「お好きに呼んでください」
「名前は?」
「魔物にそういったものはありません」
「あの、ご主人様?にはなんて呼ばれてるんですか?」
「魔力を使えば、名前を呼ばずとも自分に注意を向けさせることが可能ですので」
何?こっち向け~、的な?
「はい、そうです。そのような感じで」
「えっ?」
「今サラ様も使われたでしょう?」
そんなつもりは全然なかった。
この綺麗なお世話係さんに、こっち向け~って思っただけなのに。
そういえば、治れ~って念じれば怪我が治ったりしてたな。
「でもやっぱり16年間名前がある世界で暮らしてきたもので、名前があると助かります」
「ではサラ様がつけていただけますか?」
「え、私?いいんですか?」
「はい、もちろん」
そういったものの、何も思い浮かばない……。
名前なんてつけた事ないし……。
「……少し考えてもいいですか?」
「構いません。
こちらがサラ様のお部屋です」
「可愛い……」
白を基調とした部屋で、天蓋付きの大きなベッドにソファとテーブル、ドレッサー。
「そちらの扉の奥には、御手洗とバスルーム、そちらの扉はクローゼットです。
他に必要なものがあれば言ってほしいと仰っておりました。
それと。
先程の様子ですとサラ様は簡単に魔法が使えてしまうようですが、魔力が尽きれば死にます。便利ではありますが、むやみに使うのはお控えください」
え、魔力なくなったら死ぬの?嘘じゃん。
村の子達の怪我治したりしてたのに……。
そういうのはもっと早く教えてほしかった。
「はい」
「では私はこれで。
御用の際はその紐を引っ張って頂ければ、駆けつけますので」
「わかりました、ありがとうございます」
とりあえずお風呂に入りたくて、なにか着られるものはないかとクローゼットを開けてみる。
中には10着ほど洋服が掛けられていた。
今まで着ていた質素なものとは違い、手触りがよく、デザインも可愛い。
試しに一着着てみれば、魔法がかけてあるのか自分ピッタリのサイズになった。
でもそんな綺麗な洋服を着ると、パサパサの髪と手入れのされていない肌が目立って、自分のポテンシャルの低さに気持ちが下がる。
ちゃんと可愛い部屋着も用意されていたが、その日は風呂場の前に用意されていたバスローブで寝た。
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