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……ここはどこだろう?見覚えのない部屋だな。
あ、部屋に誰か入ってきた。ルイ様?
ん?誰?知らない人……いや、この国の王子だ。
そうだ、私はここに連れてこられたんだ。
嫌。来ないで。触らないで。ルイ様。ルイ様のところに戻りたい。
嫌だ。嫌っ……!
「サラ!」
目を開けるといつも通りの私の部屋の天井で、あの部屋でもなければ王子もいない。
立っているのは焦っている様子のルイ様だった。
「……ルイ様。……夢だったんだ……」
「ごめんね、勝手に入って。何かあった?」
「いえ、怖い夢を見ただけなので大丈夫です」
「良かった……いや、良くはないか。
ハーブティーでも飲む?」
「はい」
目が冴えてしまった上にあの夢を見たあとで二度寝する勇気もないし、その提案に乗る。
一度部屋を出たルイ様は、わざわざお茶を容れて持ってきてくれた。
「ありがとうございます。
ところで、なぜ来てくれたんですか?ルイ様の部屋に届くほどの寝言ではないと思っていたのですが……」
寝言を言っていたのかはわからないけど、言っていたとしても、ルイ様の部屋は私の寝言が聞こえるような距離でもない。
なのに何故来てくれたんだろう。
「私の結界の中だと他者の魔力の流れが感知できるんだけど、君の魔力が大きく揺らいだから来たんだ。何か君が魔法を使うような緊急事態でも起こったのかと思ってね」
「そうだったんですね」
私って寝ている間にも魔法使おうとしちゃうのか。
確かに、夢の中でルイ様のところに戻りたいと思ってしまったけれど、それが現実の自分にも影響してるとは思ってもみなかった。
「寝ている間に無意識にとなると危ないから、早めに新しい指輪を用意するね」
「ありがとうございます」
「君さえ良ければ今日はここに居てもいいかな。魔法を無意識に使っても危ないから。
もちろん君に触れたりはしない。不安であれば契約もしよう」
契約ってあの物騒なやつだよね。
「そんなことしなくてもルイ様を信じてますから大丈夫ですよ。
それに勝手に魔法使っちゃうのも怖いし、居てくれると助かります」
ルイ様といたらさっきの夢の怖さも和らぐ。
「眠くなったらいつでも寝ていいからね」
「ルイ様は?」
「私もそこのソファを借りるよ」
「ちゃんとルイ様にもベッドがあるのに、私のせいでごめんなさい」
「どこでも寝られるから気にしないで。それに必要だったら勝手にベッド置かせてもらうから」
「はい」
「それよりも君がまた怖い夢を見ないかが心配だね」
「魔法を使おうとするかもしれないですもんね……」
「それもだけど、ただ君に怖い夢を見て欲しくない。怖い夢なんて見てもいい事ひとつもないでしょ」
「ルイ様でも怖い夢を見ますか?」
「そうだね」
「怖い夢を見ない魔法があったらいいのに」
「方法はあるんだろうけど、記憶や感情みたいに人の内面に干渉する魔法は使う方も使われる方もリスクが大きいから、私も含めて使う人はほとんどいないだろうね」
「リスク?」
「例えば私が君の記憶を操作するとしようか。
私は君の記憶を見る必要があるし、それを実際に体験したように感じるから頭が混乱してしまうんだ。自分の記憶というものがぐちゃぐちゃになって、自分が分からなくなる可能性もある。書物によると過去にはこの魔法を使って人格が大きく変化した人もいるらしい。
そして君は私の魔法に少しでもミスがあると、記憶を失ってしまう可能性がある。何もかもね。生まれたばかりの赤ん坊同様になるだろう」
「……怖い夢より怖い話ですね……」
「君の場合は前例がないから分からないけどね。
でも一応何があるか分からないから使わないで欲しい」
「今の話を聞いたあとで使う勇気は無いです」
「それもそうか」
そういえばあの部屋にいた時に思ったけど、私って魔法について何も知らないんだよね。
もっといろいろ知っておけば、役に立つこともあるかもしれない。
「魔法のこともっと知りたいです」
「何が聞きたい?私のわかる範囲で答えるよ」
「前に言っていた“魔法を使いすぎたら死ぬ”ってほんとですか?ルイ様は日常的に使ってるけど、大丈夫なんですか?」
「あ~……。あの時は説明を省いちゃったけど、魔力を使っても自然に戻るから、自分の力に見合う魔法を使う分には問題ない」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。でもあの子が君に言った魔力が尽きたら死ぬというのは本当。魔力を持って生まれた人間は体内の魔力が枯渇すれば死んでしまう。
君は無意識に魔法を使えてしまうから、気をつけて欲しいという意味でもああいう言い方をしてしまった」
「言ってもらって良かったです。でないと使いたい放題していたと思うので」
「ちなみに、一度に使いすぎると自分で回復する力もなくなってしまってしまうからね。魔法を使わずに生きていくか、寿命を削って魔法を使うことになる」
「魔力ってそんな仕組みだったんですね」
「もっと早く教えておくべきだったよね。ごめんね」
「いえ。私が聞かなかっただけなので、ルイ様が謝ることではないですよ」
「私の書斎にもそういう基本的なものが書いているのはなくて、今度買ってくるから興味があったら読んでみて。私が伝え忘れていることもあるかもしれないし、君自身のためにもある程度は知っておいた方がいいと思うから」
「わかりました」
「さあ、そろそろ寝ようか」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
あ、部屋に誰か入ってきた。ルイ様?
ん?誰?知らない人……いや、この国の王子だ。
そうだ、私はここに連れてこられたんだ。
嫌。来ないで。触らないで。ルイ様。ルイ様のところに戻りたい。
嫌だ。嫌っ……!
「サラ!」
目を開けるといつも通りの私の部屋の天井で、あの部屋でもなければ王子もいない。
立っているのは焦っている様子のルイ様だった。
「……ルイ様。……夢だったんだ……」
「ごめんね、勝手に入って。何かあった?」
「いえ、怖い夢を見ただけなので大丈夫です」
「良かった……いや、良くはないか。
ハーブティーでも飲む?」
「はい」
目が冴えてしまった上にあの夢を見たあとで二度寝する勇気もないし、その提案に乗る。
一度部屋を出たルイ様は、わざわざお茶を容れて持ってきてくれた。
「ありがとうございます。
ところで、なぜ来てくれたんですか?ルイ様の部屋に届くほどの寝言ではないと思っていたのですが……」
寝言を言っていたのかはわからないけど、言っていたとしても、ルイ様の部屋は私の寝言が聞こえるような距離でもない。
なのに何故来てくれたんだろう。
「私の結界の中だと他者の魔力の流れが感知できるんだけど、君の魔力が大きく揺らいだから来たんだ。何か君が魔法を使うような緊急事態でも起こったのかと思ってね」
「そうだったんですね」
私って寝ている間にも魔法使おうとしちゃうのか。
確かに、夢の中でルイ様のところに戻りたいと思ってしまったけれど、それが現実の自分にも影響してるとは思ってもみなかった。
「寝ている間に無意識にとなると危ないから、早めに新しい指輪を用意するね」
「ありがとうございます」
「君さえ良ければ今日はここに居てもいいかな。魔法を無意識に使っても危ないから。
もちろん君に触れたりはしない。不安であれば契約もしよう」
契約ってあの物騒なやつだよね。
「そんなことしなくてもルイ様を信じてますから大丈夫ですよ。
それに勝手に魔法使っちゃうのも怖いし、居てくれると助かります」
ルイ様といたらさっきの夢の怖さも和らぐ。
「眠くなったらいつでも寝ていいからね」
「ルイ様は?」
「私もそこのソファを借りるよ」
「ちゃんとルイ様にもベッドがあるのに、私のせいでごめんなさい」
「どこでも寝られるから気にしないで。それに必要だったら勝手にベッド置かせてもらうから」
「はい」
「それよりも君がまた怖い夢を見ないかが心配だね」
「魔法を使おうとするかもしれないですもんね……」
「それもだけど、ただ君に怖い夢を見て欲しくない。怖い夢なんて見てもいい事ひとつもないでしょ」
「ルイ様でも怖い夢を見ますか?」
「そうだね」
「怖い夢を見ない魔法があったらいいのに」
「方法はあるんだろうけど、記憶や感情みたいに人の内面に干渉する魔法は使う方も使われる方もリスクが大きいから、私も含めて使う人はほとんどいないだろうね」
「リスク?」
「例えば私が君の記憶を操作するとしようか。
私は君の記憶を見る必要があるし、それを実際に体験したように感じるから頭が混乱してしまうんだ。自分の記憶というものがぐちゃぐちゃになって、自分が分からなくなる可能性もある。書物によると過去にはこの魔法を使って人格が大きく変化した人もいるらしい。
そして君は私の魔法に少しでもミスがあると、記憶を失ってしまう可能性がある。何もかもね。生まれたばかりの赤ん坊同様になるだろう」
「……怖い夢より怖い話ですね……」
「君の場合は前例がないから分からないけどね。
でも一応何があるか分からないから使わないで欲しい」
「今の話を聞いたあとで使う勇気は無いです」
「それもそうか」
そういえばあの部屋にいた時に思ったけど、私って魔法について何も知らないんだよね。
もっといろいろ知っておけば、役に立つこともあるかもしれない。
「魔法のこともっと知りたいです」
「何が聞きたい?私のわかる範囲で答えるよ」
「前に言っていた“魔法を使いすぎたら死ぬ”ってほんとですか?ルイ様は日常的に使ってるけど、大丈夫なんですか?」
「あ~……。あの時は説明を省いちゃったけど、魔力を使っても自然に戻るから、自分の力に見合う魔法を使う分には問題ない」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。でもあの子が君に言った魔力が尽きたら死ぬというのは本当。魔力を持って生まれた人間は体内の魔力が枯渇すれば死んでしまう。
君は無意識に魔法を使えてしまうから、気をつけて欲しいという意味でもああいう言い方をしてしまった」
「言ってもらって良かったです。でないと使いたい放題していたと思うので」
「ちなみに、一度に使いすぎると自分で回復する力もなくなってしまってしまうからね。魔法を使わずに生きていくか、寿命を削って魔法を使うことになる」
「魔力ってそんな仕組みだったんですね」
「もっと早く教えておくべきだったよね。ごめんね」
「いえ。私が聞かなかっただけなので、ルイ様が謝ることではないですよ」
「私の書斎にもそういう基本的なものが書いているのはなくて、今度買ってくるから興味があったら読んでみて。私が伝え忘れていることもあるかもしれないし、君自身のためにもある程度は知っておいた方がいいと思うから」
「わかりました」
「さあ、そろそろ寝ようか」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
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