40 / 139
5話 上位魔物の素材収拾
03.メンバー編成の重要性
しおりを挟む
ナターリアを含め、戦闘系の面子ばかりが集まっているせいか討伐作業は順調過ぎる程順調に進んでいた。今回のメンバーにナターリアのお眼鏡に適う男性がいなかったせいか、彼女は積極的に狩りに勤しんでいたし、他の面々も粛々或いは淡々と魔物を次から次に討伐していった。
特にヘルフリートは刃物を使うので、彼が討伐した後の毒トカゲは毒の採集がしやすくて助かる。透明な液体を詰めた小瓶はもう8個目だ。これを全て錬金して薬に変えたとして、指示液分の費用を差し引いても黒字になる。
が、ここでナターリアが不吉な一言を漏らした。
「何かぁ、何もなさ過ぎて逆に不気味だねっ!」
「ナターリア、と言うと? こう、公僕をやっていると順調に進むのが当然でね。俺は君みたいな危機察知能力が低いんだ」
「ヘルフリートさんって、物事が思うように進まないの嫌そうだもんねっ! だけど、ギルドでその安心感は命取りかもね……」
言って薄く嗤ったナターリアだったが、次の瞬間には余所行きスマイルを顔面に貼り着ける。
「今回のクエストって、クエストが始まる前から解けてない謎が残っていたでしょう? どうして毒トカゲは爆殖したのか――勿論、誰も知らないよねっ?」
「そうだったナ。そういえば、何故いきなり増殖したのだろうカ……」
「あたし達には分からない『何か』事情があると思うのっ! で、湿地帯も大分奥まで来たけれど、あたし達って増殖の原因に、まだ出会ってないよねっ! 控え目に言って、嫌な予感しかしないよ!」
天気のせいじゃないか、とヘルフリートが今にも降り出しそうな曇り空を仰ぐ。
「最近、天気が良くなかったから、だと俺は勝手に思っているんだが」
「どうかな。ちょっとした雨が続いたくらいでトカゲが殖えるのなら、梅雨時なんかは毒トカゲで町中が溢れ返っちゃうねっ!」
「……言われてみればそうだな。安直だったか。メヴィ、君はどう思う?」
外野のつもりで話を聞いていたら、唐突に意見を求められた。ぎょっとして息を呑む。何故、ここでしがない錬金術師の意見を仰ごうと思ったのか。脈絡の無さに、実は自分が呼ばれたのではないかもしれない、とまで考えた。
しかし、一同の視線は間違い無く自分を捉えている。何も考えていなかったにも関わらず、メイヴィスは口を開いた。完全に焦っていた。
「えっ、あ、ごめん……。私、完全に金儲けと素材集めの為に参加したから、深く考えてなかったよ」
「メヴィ、最近はアロイス殿達と連むようになって気が抜けているぞ。あの人がいなくなったらどうするんだ」
「ええっ? いなくなるんですか?」
「……さあ。だけど、ギルドには長居しそうにないだろ。あの人」
言われてみれば確かにそうだ。ギルドメンバーとしての資質を備えているように思える彼だが、ギルドでどことなく浮いている理由。いつも上の空な感じが、いつか居なくなっても何らおかしくない雰囲気を醸し出している。
「――何か来るナ」
「ホントだっ!」
耳を押さえる為のカチューシャを外したナターリア。獣の耳が音を拾うべく、右や左を向く。一方で滑舌は悪いが目と魔力感知能力に長けている魚人、エサイアスはどうやら獣人より先に何が来たのかを把握したらしい。
僅かに目を見開いた彼と、あっ、と声を上げたナターリアの言葉が被った。
「上位魔物カ!」
「そろそろ雨が来るかもっ!」
待て待て、と両者の言葉を完全に聞き逃したヘルフリートが困惑したように止めに入る。
「何だって? 同時に喋ったせいで、聞こえなかった」
「上位――ロード系、と言えばイイカ。そういった類の、重い魔力を持った気配ガ、近付いてきている」
「それは大事じゃないのか!?」
ちなみにあたしは、とナターリアが口を挟んだ。
「雨が来てるって言いたかったんだよっ!」
タイミングも良く、ぽつりと上を見上げたメイヴィスの頬に雨粒が当たった。最初は空いた間隔で降って来ていた雨粒が、次第に勢いと量を増す。
しかし、ここで大きな問題が発生した。
今回のメンバーに――保護者系統の人物はいたが、リーダーシップを取るタイプの人員がいない。ヘルフリートはアロイスに準じる事が多く、また、指示を出すのが苦手。エサイアスはそもそも道順を考えて指示を出す人物ではない。
自分とナターリアなど以ての外だ。彼女は基本的にソロ向き、ガチムチ獣人であるしメイヴィス自身は戦闘のイロハが分からない技術職。
「取り敢えず、撤退した方が良いか!?」
「待て、反対方向へ逃げるト、湿地帯出口の逆へ走るコトになル!」
「雨降ってきたよっ、どこか雨風凌げる所に逃げようっ!」
「うわっ、ナタ足下、足下! トカゲちゃん踏ん付けたら、靴がダメになるよ!」
「浮き足立ってるな……」
茫然とヘルフリートが呟いた。
特にヘルフリートは刃物を使うので、彼が討伐した後の毒トカゲは毒の採集がしやすくて助かる。透明な液体を詰めた小瓶はもう8個目だ。これを全て錬金して薬に変えたとして、指示液分の費用を差し引いても黒字になる。
が、ここでナターリアが不吉な一言を漏らした。
「何かぁ、何もなさ過ぎて逆に不気味だねっ!」
「ナターリア、と言うと? こう、公僕をやっていると順調に進むのが当然でね。俺は君みたいな危機察知能力が低いんだ」
「ヘルフリートさんって、物事が思うように進まないの嫌そうだもんねっ! だけど、ギルドでその安心感は命取りかもね……」
言って薄く嗤ったナターリアだったが、次の瞬間には余所行きスマイルを顔面に貼り着ける。
「今回のクエストって、クエストが始まる前から解けてない謎が残っていたでしょう? どうして毒トカゲは爆殖したのか――勿論、誰も知らないよねっ?」
「そうだったナ。そういえば、何故いきなり増殖したのだろうカ……」
「あたし達には分からない『何か』事情があると思うのっ! で、湿地帯も大分奥まで来たけれど、あたし達って増殖の原因に、まだ出会ってないよねっ! 控え目に言って、嫌な予感しかしないよ!」
天気のせいじゃないか、とヘルフリートが今にも降り出しそうな曇り空を仰ぐ。
「最近、天気が良くなかったから、だと俺は勝手に思っているんだが」
「どうかな。ちょっとした雨が続いたくらいでトカゲが殖えるのなら、梅雨時なんかは毒トカゲで町中が溢れ返っちゃうねっ!」
「……言われてみればそうだな。安直だったか。メヴィ、君はどう思う?」
外野のつもりで話を聞いていたら、唐突に意見を求められた。ぎょっとして息を呑む。何故、ここでしがない錬金術師の意見を仰ごうと思ったのか。脈絡の無さに、実は自分が呼ばれたのではないかもしれない、とまで考えた。
しかし、一同の視線は間違い無く自分を捉えている。何も考えていなかったにも関わらず、メイヴィスは口を開いた。完全に焦っていた。
「えっ、あ、ごめん……。私、完全に金儲けと素材集めの為に参加したから、深く考えてなかったよ」
「メヴィ、最近はアロイス殿達と連むようになって気が抜けているぞ。あの人がいなくなったらどうするんだ」
「ええっ? いなくなるんですか?」
「……さあ。だけど、ギルドには長居しそうにないだろ。あの人」
言われてみれば確かにそうだ。ギルドメンバーとしての資質を備えているように思える彼だが、ギルドでどことなく浮いている理由。いつも上の空な感じが、いつか居なくなっても何らおかしくない雰囲気を醸し出している。
「――何か来るナ」
「ホントだっ!」
耳を押さえる為のカチューシャを外したナターリア。獣の耳が音を拾うべく、右や左を向く。一方で滑舌は悪いが目と魔力感知能力に長けている魚人、エサイアスはどうやら獣人より先に何が来たのかを把握したらしい。
僅かに目を見開いた彼と、あっ、と声を上げたナターリアの言葉が被った。
「上位魔物カ!」
「そろそろ雨が来るかもっ!」
待て待て、と両者の言葉を完全に聞き逃したヘルフリートが困惑したように止めに入る。
「何だって? 同時に喋ったせいで、聞こえなかった」
「上位――ロード系、と言えばイイカ。そういった類の、重い魔力を持った気配ガ、近付いてきている」
「それは大事じゃないのか!?」
ちなみにあたしは、とナターリアが口を挟んだ。
「雨が来てるって言いたかったんだよっ!」
タイミングも良く、ぽつりと上を見上げたメイヴィスの頬に雨粒が当たった。最初は空いた間隔で降って来ていた雨粒が、次第に勢いと量を増す。
しかし、ここで大きな問題が発生した。
今回のメンバーに――保護者系統の人物はいたが、リーダーシップを取るタイプの人員がいない。ヘルフリートはアロイスに準じる事が多く、また、指示を出すのが苦手。エサイアスはそもそも道順を考えて指示を出す人物ではない。
自分とナターリアなど以ての外だ。彼女は基本的にソロ向き、ガチムチ獣人であるしメイヴィス自身は戦闘のイロハが分からない技術職。
「取り敢えず、撤退した方が良いか!?」
「待て、反対方向へ逃げるト、湿地帯出口の逆へ走るコトになル!」
「雨降ってきたよっ、どこか雨風凌げる所に逃げようっ!」
「うわっ、ナタ足下、足下! トカゲちゃん踏ん付けたら、靴がダメになるよ!」
「浮き足立ってるな……」
茫然とヘルフリートが呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
縫剣のセネカ
藤花スイ
ファンタジー
「ぬいけんのせねか」と読みます。
--
コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。
幼馴染のルキウスと共に穏やかな日々を過ごしていた。
ある日、セネカとルキウスの両親は村を守るために戦いに向かった。
訳も分からず見送ったその後、二人は孤児となった。
その経験から、大切なものを守るためには強さが必要だとセネカは思い知った。
二人は力をつけて英雄になるのだと誓った。
しかし、セネカが十歳の時に授かったのは【縫う】という非戦闘系のスキルだった。
一方、ルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立ってゆく。
二人の道は分かれてしまった。
残されたセネカは、ルキウスとの約束を胸に問い続ける。
どうやって戦っていくのか。希望はどこにあるのか⋯⋯。
セネカは剣士で、膨大な魔力を持っている。
でも【縫う】と剣をどう合わせたら良いのか分からなかった。
答えは簡単に出ないけれど、セネカは諦めなかった。
創意を続ければいつしか全ての力が繋がる時が来ると信じていた。
セネカは誰よりも早く冒険者の道を駆け上がる。
天才剣士のルキウスに置いていかれないようにとひた向きに力を磨いていく。
遠い地でルキウスもまた自分の道を歩み始めた。
セネカとの大切な約束を守るために。
そして二人は巻き込まれていく。
あの日、月が瞬いた理由を知ることもなく⋯⋯。
これは、一人の少女が針と糸を使って世界と繋がる物語
(旧題:スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜)
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる