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泥沼の迷宮
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「さぁ、掛かってこいよ」。
ゾラはヴォルフを煽る。
ジカイカルマ───それは生物の深層心理を囲い制御する限界を破壊する超技能。
太古、その名を大陸全土に轟かせた不死の王が扱ったとされる奥義。
通常アンデッドは只死なないというだけで特異的な能力は持ち合わせていない。
生前は只の人間であり、非力であった。しかし限界を外した人間の力は凄まじいもので岩をも平気で砕いたと言う。
限界を外せば筋肉は破壊され身体は崩れる。故にアンデッドという不死の身体を持つ者にしか使う事が出来無い。
「何をどうやったのか知らねぇがオメェのへなちょこパンチなんか効かねぇんだよ!!」
身体の隙間から獄炎が吹き出す。口からはマグマがたれ出し地面を溶かした。
炎魔人の名は伊達では無い様だ。近付ける気がしない、少しでも触れば燃え落ちてしまう様なそんな恐ろしい風貌だ。だからってここで逃げ帰る?──そんなのは俺じゃない。当たって砕けはしない、仮に砕けたってスマートに勝ってやろう。
「──消し炭にしてやる」。
刹那、掌から莫大な量のフレアを発する。
陽炎は地を刳り、材を燃やし、凄まじい轟音を立てて燃え広がる。
そのフレアに成すすべ無くゾラが燃やし尽くされたかと言うならば───
───否である。
フレアを受ける直前、思いっ切り踏み込み宙へ飛ぶ。足の骨は砕け散り曲がってはいけない方向へと曲がる、しかし瞬く間に身体を覆う灰が足に絡みつき心臓が鼓動をする程の時間でその足を元に戻した。
一切の間髪を入れずに巻き上げられた岩石を伝い一瞬で目前まで移動したかと思えば次の瞬間にはヴォルフは蹴り飛ばされていた。
刹那、ヴォルフは困惑した。先程まで頭を垂れていた弱小の種族に圧倒的強者である己が蹴り飛ばされたのだ。
昔からどんな物でも力で捻じ伏せて奪い取ってきた。地位も名誉も権力も何一つとして思い通りに成らなかった物は無かった。
「うっわヤベェ、一瞬で燃えた」。
燃え落ちる足、瞬時再生する。
外壁を刳り、溶かした。凄まじい量の煙と粉塵が巻き上がる。
閉鎖空間での追撃は危ない、あいつに捕まったら一貫の終わりだ、慎重に行かなければならない。
ゾラは動きを止めた。
そんなゾラには目も向けず未だに葛藤する。
───なんで、俺が仰向けになってあいつが俺を見下してンだ?あ?こんな訳無い、こんな事ある筈がない、俺の部下もアンデッドのカス共も皆が頭を垂れるだけの玩具だった筈なのに、これは一体何の冗談だ?これは夢か?幻か?あぁそうか、そうなのか───
幾許かの時が流れる。しかしヴォルフには一向にアクションが無い。
まさか、誘い込んでいるのか?──いや、そんな筈は無いそんな頭を持ち合わせているとは到底思え無い。
そんな事を考えていると瓦礫が崩れ砂塵が撒き起こる。
「あぁ、そうか、そうか」。
ゆっくりと立ち上がるヴォルフは何かをブツブツと呟いている様だ。
外皮がドチャドチャと崩れ落ち雲散霧消していく。存在そのものが熱を帯び空間を覆う。
煙から姿を表したその姿は先程までの溶岩を垂れ流しにした様な化物などでは無く人間の様な姿、形をしていた。
「───オマエを殺せば全部分かるか」。
ヴォルフは無邪気な子供の様に笑う、冷笑的に不気味さをかさ増しした様な顔で。
刹那──薄い刃で背を逆撫でされているかの様な戦慄がゾラを襲う。
昔から言う、『冷静になったバカが一番怖い』のだと
ヴォルフは徐ろに人差し指を向ける。
ゾラが身構えようと拳を突き出した瞬間──拳が消えた。
正確に言うならば焼け朽ちた。
──やばい、あれは絶対に喰らったら死ぬ
アンデッドは通常どんな事をされても死ぬ事は無い。ただし極矮小な程ではある物の例外はある。
身体全身を粒子以上に分解されたら身体を元に戻すことが出来なくなる。それが俺にとってのゲームオーバーってことだ。
ゾラは再生した拳を再び深く握る。
深く踏み込み地面を蹴る。単調な一直線では無く、空を蹴り複雑な動きをしながらヴォルフの背後に周る、近付き拳に力を入れた時だった───
「───!?」
周囲の熱で肌が焦げていく。酸素を燃やし尽くし息ができない。
「はっはぁ!!カスがぁ!!燃えカスにしてやるよ!!」
ゾラの顔面にフレアを放たれると同時に意識が飛ぶ。
❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖
──あれ、ここ何処だっけ。
真っ白な空間、得体の知れない浮遊感に見舞われる。
全てから解き放たれた様な心地の良い感覚
何もしたくない、やりたく無い、俺は精一杯頑張った、出来る限りの事はやった、もう嫌だ、これ以上頑張りたく無い。
端から勝ち目何か無かったんだよ。どれだけ頑張ったって種族の壁は超えられない。人間がチーターに脚で叶わないのと同じでアンデッド何かがあんな化物に勝てる訳が無いんだ。
あぁ──もういいか。
空間に身を任せ力を抜いた。全てを諦めてしまえば楽になる──そんな事考えた時だった
─── あぁ あ゛ぁ!!
「───!!」
刹那──空間の流れに意識を逆立て強く踏ん張る。
何諦めようとしてんだよ、クソッタレ!!考える事を放棄してんじゃねぇよ!!
自分の足で立てよ‼重力感じて噛み締めろよ‼種族の壁何か飛び越えちまえ!!
誰かの為じゃ無い、これは俺の為の闘いだ、人のせいみたいにして言い訳するな。
始めたのは俺だし終わらせるのも俺だ、それが自らの死だってそうだ。
死んだから諦めるじゃない、死んだって諦めるな、いくらだってまた最初からやり直せ‼
戻れ、戻れ戻りやがれ!!!
❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖
階層を獄炎が覆う。全てを焼き尽くしてしまう様なそんな炎だ。
顔が熱い、熱い、熱い──けど──
「───効かねぇなぁ‼ヌリィぜ」。
ヴォルフは振り向く。地に膝を付けて崩れ落ちていったその男に激動する。
「はっは……はっはぁ‼テメェ、オモシレェよ!!名前は?」
「名乗るのは二回目だ‼第三階層統括ッデイウォーカーのゾラ、オメェを屠る者の名前だよ」
「覚えて置くぜ、テメェが燃えカスになる前になぁ!!!」
ヴォルフは大気中のあらゆる熱を凝縮し始める。爆発と創造を繰り返しそれは禍々しい黒炎に姿を変えた。
同じくゾラも精神を研ぎ澄ませる。力の本流が全身に回るよう深く深く深呼吸をする。身体のあらゆる部位、血管のリミッターを外す。これを使えば暫くは動く事さえ出来なくなるだろう。
大気が揺れ虚数階の磁場が崩壊しかけている。文字通りこれがラストアタックになる、両者がそれを悟った。
「───オラァ‼」
「───ッ‼」
両者の放つ咆哮は交わり眩い閃光を放つ。外壁は凄まじい爆発音と共に滅び朽ちる。それは迷宮その物に狂いをもたらす程の絶大な威力。
階層の全てを破壊しつくし、大きなクレーターを産み出し次元が歪む。
起こる粉塵、砂塵に分厚い煙、それらが全て晴れた後、そこに立っていたのは───
───ヴォルフだった。
ゾラはヴォルフを煽る。
ジカイカルマ───それは生物の深層心理を囲い制御する限界を破壊する超技能。
太古、その名を大陸全土に轟かせた不死の王が扱ったとされる奥義。
通常アンデッドは只死なないというだけで特異的な能力は持ち合わせていない。
生前は只の人間であり、非力であった。しかし限界を外した人間の力は凄まじいもので岩をも平気で砕いたと言う。
限界を外せば筋肉は破壊され身体は崩れる。故にアンデッドという不死の身体を持つ者にしか使う事が出来無い。
「何をどうやったのか知らねぇがオメェのへなちょこパンチなんか効かねぇんだよ!!」
身体の隙間から獄炎が吹き出す。口からはマグマがたれ出し地面を溶かした。
炎魔人の名は伊達では無い様だ。近付ける気がしない、少しでも触れば燃え落ちてしまう様なそんな恐ろしい風貌だ。だからってここで逃げ帰る?──そんなのは俺じゃない。当たって砕けはしない、仮に砕けたってスマートに勝ってやろう。
「──消し炭にしてやる」。
刹那、掌から莫大な量のフレアを発する。
陽炎は地を刳り、材を燃やし、凄まじい轟音を立てて燃え広がる。
そのフレアに成すすべ無くゾラが燃やし尽くされたかと言うならば───
───否である。
フレアを受ける直前、思いっ切り踏み込み宙へ飛ぶ。足の骨は砕け散り曲がってはいけない方向へと曲がる、しかし瞬く間に身体を覆う灰が足に絡みつき心臓が鼓動をする程の時間でその足を元に戻した。
一切の間髪を入れずに巻き上げられた岩石を伝い一瞬で目前まで移動したかと思えば次の瞬間にはヴォルフは蹴り飛ばされていた。
刹那、ヴォルフは困惑した。先程まで頭を垂れていた弱小の種族に圧倒的強者である己が蹴り飛ばされたのだ。
昔からどんな物でも力で捻じ伏せて奪い取ってきた。地位も名誉も権力も何一つとして思い通りに成らなかった物は無かった。
「うっわヤベェ、一瞬で燃えた」。
燃え落ちる足、瞬時再生する。
外壁を刳り、溶かした。凄まじい量の煙と粉塵が巻き上がる。
閉鎖空間での追撃は危ない、あいつに捕まったら一貫の終わりだ、慎重に行かなければならない。
ゾラは動きを止めた。
そんなゾラには目も向けず未だに葛藤する。
───なんで、俺が仰向けになってあいつが俺を見下してンだ?あ?こんな訳無い、こんな事ある筈がない、俺の部下もアンデッドのカス共も皆が頭を垂れるだけの玩具だった筈なのに、これは一体何の冗談だ?これは夢か?幻か?あぁそうか、そうなのか───
幾許かの時が流れる。しかしヴォルフには一向にアクションが無い。
まさか、誘い込んでいるのか?──いや、そんな筈は無いそんな頭を持ち合わせているとは到底思え無い。
そんな事を考えていると瓦礫が崩れ砂塵が撒き起こる。
「あぁ、そうか、そうか」。
ゆっくりと立ち上がるヴォルフは何かをブツブツと呟いている様だ。
外皮がドチャドチャと崩れ落ち雲散霧消していく。存在そのものが熱を帯び空間を覆う。
煙から姿を表したその姿は先程までの溶岩を垂れ流しにした様な化物などでは無く人間の様な姿、形をしていた。
「───オマエを殺せば全部分かるか」。
ヴォルフは無邪気な子供の様に笑う、冷笑的に不気味さをかさ増しした様な顔で。
刹那──薄い刃で背を逆撫でされているかの様な戦慄がゾラを襲う。
昔から言う、『冷静になったバカが一番怖い』のだと
ヴォルフは徐ろに人差し指を向ける。
ゾラが身構えようと拳を突き出した瞬間──拳が消えた。
正確に言うならば焼け朽ちた。
──やばい、あれは絶対に喰らったら死ぬ
アンデッドは通常どんな事をされても死ぬ事は無い。ただし極矮小な程ではある物の例外はある。
身体全身を粒子以上に分解されたら身体を元に戻すことが出来なくなる。それが俺にとってのゲームオーバーってことだ。
ゾラは再生した拳を再び深く握る。
深く踏み込み地面を蹴る。単調な一直線では無く、空を蹴り複雑な動きをしながらヴォルフの背後に周る、近付き拳に力を入れた時だった───
「───!?」
周囲の熱で肌が焦げていく。酸素を燃やし尽くし息ができない。
「はっはぁ!!カスがぁ!!燃えカスにしてやるよ!!」
ゾラの顔面にフレアを放たれると同時に意識が飛ぶ。
❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖
──あれ、ここ何処だっけ。
真っ白な空間、得体の知れない浮遊感に見舞われる。
全てから解き放たれた様な心地の良い感覚
何もしたくない、やりたく無い、俺は精一杯頑張った、出来る限りの事はやった、もう嫌だ、これ以上頑張りたく無い。
端から勝ち目何か無かったんだよ。どれだけ頑張ったって種族の壁は超えられない。人間がチーターに脚で叶わないのと同じでアンデッド何かがあんな化物に勝てる訳が無いんだ。
あぁ──もういいか。
空間に身を任せ力を抜いた。全てを諦めてしまえば楽になる──そんな事考えた時だった
─── あぁ あ゛ぁ!!
「───!!」
刹那──空間の流れに意識を逆立て強く踏ん張る。
何諦めようとしてんだよ、クソッタレ!!考える事を放棄してんじゃねぇよ!!
自分の足で立てよ‼重力感じて噛み締めろよ‼種族の壁何か飛び越えちまえ!!
誰かの為じゃ無い、これは俺の為の闘いだ、人のせいみたいにして言い訳するな。
始めたのは俺だし終わらせるのも俺だ、それが自らの死だってそうだ。
死んだから諦めるじゃない、死んだって諦めるな、いくらだってまた最初からやり直せ‼
戻れ、戻れ戻りやがれ!!!
❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖
階層を獄炎が覆う。全てを焼き尽くしてしまう様なそんな炎だ。
顔が熱い、熱い、熱い──けど──
「───効かねぇなぁ‼ヌリィぜ」。
ヴォルフは振り向く。地に膝を付けて崩れ落ちていったその男に激動する。
「はっは……はっはぁ‼テメェ、オモシレェよ!!名前は?」
「名乗るのは二回目だ‼第三階層統括ッデイウォーカーのゾラ、オメェを屠る者の名前だよ」
「覚えて置くぜ、テメェが燃えカスになる前になぁ!!!」
ヴォルフは大気中のあらゆる熱を凝縮し始める。爆発と創造を繰り返しそれは禍々しい黒炎に姿を変えた。
同じくゾラも精神を研ぎ澄ませる。力の本流が全身に回るよう深く深く深呼吸をする。身体のあらゆる部位、血管のリミッターを外す。これを使えば暫くは動く事さえ出来なくなるだろう。
大気が揺れ虚数階の磁場が崩壊しかけている。文字通りこれがラストアタックになる、両者がそれを悟った。
「───オラァ‼」
「───ッ‼」
両者の放つ咆哮は交わり眩い閃光を放つ。外壁は凄まじい爆発音と共に滅び朽ちる。それは迷宮その物に狂いをもたらす程の絶大な威力。
階層の全てを破壊しつくし、大きなクレーターを産み出し次元が歪む。
起こる粉塵、砂塵に分厚い煙、それらが全て晴れた後、そこに立っていたのは───
───ヴォルフだった。
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