腐りかけが一番美味い(強い)んです

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泥沼の迷宮

7.5

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───は?無理ダロ。

グレムリンは食い気味に否定した。

遡る事一ヶ月前、決心をしたゾラはその日の夜、真っ先に知人であるグレムリンの元へと訪れていた。

「オマエなぁ、逃げたいだけってならまだしも炎魔人の奴を道連れにしたいってのはどういう了見だよ」。

「いや、アイツ等に直接的に嫌がらせをしてたのは炎魔人だけなんで、その不安要素をパッと取ってやれば少し位良い職場になるんじゃあないかと」。

「オマエ、人が良過ぎるぜ、気持ちは分かるけど流石に無理難題たぞ」。

「無理でもやります。やらなきゃいけない」。

グレムリンは頭を抱えてやれやれと息を吐く。

「………脱出の算段は?」

「………一つだけ」。

「聞かせろヨ、無駄骨に終わるとは思うけどな」。

グレムリンはゾラを部屋に招き入れた。

~~~~~~

「なるほど、暴皇の逆鱗に触れると……オマエ、エグいな」。

「ははは、いや、そりゃ一ヶ月程度じゃ勝ち目無いっすもん、流石にそこは現実観てます」。

「それでその後は?オマエ消滅したら死んじまうじゃんか、どうすんだよ」。

「俺は一度死にます」。

「は?アンデッドにも再生限界ってあるんだろ、戻れる確証でもあんのか?」。

「確証は無いです、戻れる保証も無い、でもそれを逆手に取るならば、戻れ無い確証も無いんです。過去に魔道士によって消滅したとされるアンデッドも姿を消したというだけで何処かで再生した可能性もあります、俺はそれに賭けたい」。

ゾラの意を決した面持ちを目にする。過去に前例は無い、賭けに負けたら文字通りの『死』が待っている。それでもやるって言うのだから、きっとそれ程に本気なのだ。本気で自由を求めている。

グレムリンは過去に夢見た時代の自らとゾラの姿を照らし合わせる。

そんな後輩の背中を押さなくて何が先輩だ、やりたい事はやらせてやるそれが良い先輩ってもんだ。

「ははっ、オモシレェ俺も出来る限りの事は手伝ってやる、何が知りたい?」。

「俺が確実にには炎魔人が【泥沼の掟】を破る程の接戦を演じ無ければならない」。

「だから、強くなりたい……と」。

「はい」。

確か昔何かの文献で見た事がある。 

「ちょっと待ってろ」。

そう言い残したグレムリンは書斎に姿を消す。

「あぁ、あったあったこれダ」。

書斎の奥底に挟まっていた本を無理矢理抜き取る。上に積まれた本が雪崩のように倒れた。

「……大丈夫っすか?」。

「気にすんな、取り敢えずこれを見ろ」。

机の上に古びた一冊の本を差し出す。埃を被っているものの絹糸で丁重に編まれたワインレッドのカバーと八つの角に施された金色の金具は高級感を漂わせていた。

表紙の文字は霞んでいて良く見えない。

「なんですか?これ」。

「───遡る事二百年前、若かった頃の俺は……」。

「あ、それ何分掛かります?」。

「聞けよ」。

「すいません、どうぞ」。

「遡る事二百年前、若かった俺は読書を嗜む事を趣味としていたんだ、そこでアンデッドに関する興味深い文献を見つけた、それが、かつて〈不死の王ノーライフキング〉として恐れられた男によって著書されたこの本って訳だ。これにはアンデッドが力を手に入れる為のいくつかの事柄が記載されてる」。

………RAYCHELLレイチェル……NOMANノーマン…。

かろうじて読む事の出来た人物名らしき文字列、これがその〈不死の王ノーライフキング〉とやらの名前だろうか。

ゾラはゆっくりとその本を開く

「────⁉」。

永年放置されたその書物は経年劣化によりボロボロと崩れていく。

朽ち果てたそれはとても読めた物では無かった。

「グレムリン先輩、これじゃちっとも内容が──」。

すると、グレムリン得意げな顔をして

「ちっちっちっち、俺をナメんな」。

舌を鳴らして軽口を叩いた。


「安心しろよ、俺は一度覚えたことは決して忘れない体質だから本の内容は全部記憶してる」。

「おお!!スゲぇ、初めて尊敬した」。

「オマエ、一々失礼なヤツダナ」。

「それで内容は?」

「この文献の内容を要約すると───」。

ゾラは流れる緊張状態の中ツバを飲んだ。







「────めっちゃ死ね」。
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