腐りかけが一番美味い(強い)んです

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エルゼビュートの牢

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私は自分が誰でここが何処なのかを知らない。

冷たい石壁で囲まれた檻の隅で少女はパサパサの古いパンを齧った。少女の名はルピシア。

透き通った透明感のある白肌にぼやっと眠そうな三白眼、琥珀色の瞳が印象的だ。永年の牢屋生活でろくに手入れのされて無い銀髪はボサっと乱れており、石ナイフで散髪したせいか毛先があまりにも不揃いだ。

狭い檻の中、只でさえ窮屈だというのに少女の周りには壁でもあるかの様に寄り付こうとしない。

奴隷仲間や看守達は私に侮蔑の目を向ける。

だけど何かをしようとはしない。恐れているのだ、齢たった十五程度の少女に恐れを抱いている。

その空間は言うなれば『異常』であった。まるで少女そのものでは無く、その後ろのに怯えている様な。


そんな、『異常』を含む檻の中に今日もまた一人、奴隷が増える。

ボロ雑巾みたいなスカーフを羽織った男、檻に放られてから三時間死んだ様に眠っている。

私達売れ残りは商品価値無しとみなされ炭鉱採掘の労働によって僅かな食料を与えられる。

そして、その時間が刻一刻と迫っていた

「オイ奴隷共、採掘の時間だ!!出て来やがれ!」。

監守の催促に重い足をあげる奴隷達、そこから生気は感じられない。足に繋がれた鎖をカラカラと引きずる音がする。

皆が房を離れる中、眠る男とルピシアだけが残った。

死んだ様に寝転がる男を見て思う
これは私が起こさないといけないのかな──と。


「ねぇ……」。

返事は無い。

「ねぇねぇ…」。

されど返事は無い。

「ねぇ起きて」。

人に自分から話掛けたのは何ヶ月、いや何年振りだったっけ、思う様に舌が動かない。

「ん……あれ……ここ、何処だ」。

男は気怠そうに目を開く。自らが置かれた状況が理解できていない様だ。身なりからして攫われたのだろう……そんな事を考えた。

「…………誰」。

「知らない、私が聞きたい」。

「そうか、俺はゾラ=エルトダウン、ん……うん……今、眠い」。

「私はルピシア、奴隷、これから仕事、だから来て。」

少女の話などまるきし聞かずに二度寝を始める男のみぞおちにローキックを喰らわせた。

「なっにすんだよテメェ!!痛えだろうが!!」

「それはあなたが私を無視して眠ったから、あなたが来ないと牢の人達皆の連帯責任になる」。

「はっ、知らねぇよそんなの、俺に何のメリットがあると」。

大あくびを一つついた後、適当に流す、まだ眠そうだ。

「私はごはんが食べたい」。

「……おぉ…そうか……まぁ……そうか……」。

「そろそろ行かないと私まで怒られる」。

ルピシアは動く気の無さそうな男の姿を見て諦めたように腰を上げる。
トボトボと牢の鉄格子に手を掛けた時だ。

「───飯っていうのは?」。

少女はトボつかせた足を停め男の方を振り向く。

「労働の対価に配給される食事の事。」

「それは……俺も食えたりするのか?」

「?……うん、食べられるでしょ」。

次の瞬間、男は人が変わった様に跳ね起きる。

「しょうがねぇな!!行ってやるよ、こんちくしょう」。

「・・・・・」。

ルピシアは嬉しそうに文句を言う男を見て思う。


────この人多分面白い人だ。
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