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ランプの精

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「願い事をどうぞ。3つまでかなえられます」
「えっと……」

 物置にあったランプをこすったら目の前に美女が現れた。きらびやかな銀飾りで彩られたアラビア風の衣装を着た女の子。歳は十代後半ってところか。

「ちょっと説明してほしいんだけど。君は誰?」
「わたくしの名前はアイシャ。ランプの精です。ランプをこすった方の願いを3つまでかなえます」
「よくわかんないけど、そうなんだ」
「願いは一つかなえられました。残り2つです」
「えっ! 今のもカウントされるの?」
「はい」

 ここは慎重にいかないと。とりあえず、定番のあの手を試してみるか。

「あらかじめ言っておきますが、わたくしの能力を超える願いはかなえられません。例えば、願い事の数を増やしてくれというのは無理です。わたくしは三回分の力しか神様から預かっておりません」
「ば、ばれた!」
「……」

 思い出した。物置の整理をしていたんだった。不要なものはあらかた物置から出して、最後に手にしたのがこのランプだった。

「じゃあ、物置の前にあるがらくたを消して欲しいんだけど」
「かしこまりました」

 言うや否や、彼女はがらくたに指を向けてパチンと鳴らした。すると一瞬にしてがらくたは消え去った。

「ほ、本物だ……」
「2つ目の願いはかなえられました」

 となると余計に慎重になる。俺は頭を悩ませた。

 しかし、可愛い子だなぁ。さらさらの黒髪が風になびいている。太陽を背にして立つ姿はまさに女神だ。いっそ、絶対に無理な願いを試しに言ってみるか。

「僕と結婚してください」
「無理です」
「はい、消えた。わかってたもんね。ショックじゃないもんね」

 (ひょっとしたら)という希望は無残に打ち砕かれた。それはそうだ。俺は人間。彼女は妖精。

「種族が違うからではなく、単純にあなたはわたくしの好みのタイプではなく……」
「うわぁぁぁ! それは言わないでいて欲しかった!」
「かしこまりました。3つ目の願いはかなえられました」
「えっ?」

 彼女の姿が突然まばゆい光に包まれた。俺は思わず手をかざして光をさえぎった。すると……。

「はい、消えた。わかってたもんね。ショックじゃないもんね」

 デジャヴ!? このセリフ、どこかで言ったような気がする。戸惑う俺に彼女は深々と頭を下げた。

「申し訳ありません。諸般の事情によりお話はできませんが、願い事はすべてかなえられました」
「えっ!? どういうこと」

 物置の整理は終わった。しかし、この敗北感はなんだ!?
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