〝吾輩は小説である。|題名(なまえ)はまだにゃい〟な小説の供養場

月夜桜

文字の大きさ
11 / 11

滅びの世界

しおりを挟む
 その昔、【災厄】と呼ばれた男が居た。
 その男は、二つの国を滅ぼした。
 一つは聖ロザリアーヌ教皇国。
 彼の国は【災厄】の気紛れによって滅ぼされた。
 他方はガラータ帝国。
 彼の国は【災厄】の実験によって滅ぼされた。
 彼が【災厄】と呼ばれるのには理由がある。
 それは上記のことに加え──

 ☆★☆★☆

 僕は読んでいた本を閉じる。
 なんだい? この歴史書は。
 書いてある事がめちゃくちゃじゃないか。
 僕が滅ぼした国は、総じて向こう側に問題があったんだけどねぇ。
 例えば、クソッタレのロザリアーヌは僕の弟子を殺そうとしてきたし、無能の集まりの帝国はあろう事か僕を殺そうと来てきたし。
 二つとも返り討ちにした上で滅ぼしたけど、今では復活してるし。
 どこの出版だろ? ……帝国文部省。
 ふふ、やっぱりもう一度滅ぼすべき──いいや。
 もう、僕はこの世界と関わらないと決めたんだ。遺灰を掘り起こすような真似をしなければ、だけど。

「お師匠~、何読んでるの?」
「ああ、エル。おかえり。なに、ちょっとした歴史書だよ。書いてあることは九部九厘間違えてるけど。最早、これは創作物語だね」
「むぅ~~お師匠の悪口を書くような本は消えちゃえ~~」

 瞬間、虚空から黒い焔が出現──僕が先程まで読んでいた本を灰すら残さず消滅させる。

「こーら、こんなことで【黒灰】なんて使わないの」

 近寄ってきたエルの頭を撫でると、猫のように目を細めて抱き着いてくる。

「おっと。僕の弟子はとてもとても甘えたさんだね」
「えへへ~」

 顔がふにゃっとして、頭からは獣耳と尻尾。
 双方共にぴこぴこぱたぱたと動いている。

「さて、僕はこれからお茶をするけど、エルは要るかい?」
「いるぅ~!」
「了解」

 冷めてしまった紅茶に魔法を掛け、再加熱。ゆっくりと混ぜていき飲みやすい温度に調節する。

「ごめんね、これから行くところがあるから、ここでお留守番をしていてくれるかい?」
「うんっ!」
「ふふ、良い子だ。それじゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃいっ!」

 その日、彼が帰ってくることは無かった。

 ☆★☆★☆

 彼が出掛けてから一週間。
 エルは足をぶらぶらさせながら彼の帰りを待っていた。

「お師匠が帰ってこない……」

 彼女の顔は曇り、今にも泣き出しそうだ。

「うぅ……私、何かお師匠を怒らせるようなこと、したのかなぁ……」

 魔力を使って退屈を凌ぎ始めた所に、空間転移の波動を感じ取る。

「──っ!? お師匠っ!」

 だが、そこには誰もいない。その代わりに、一枚の紙が落ちていた。

「なにこれ……?」

 それを手に取り、裏面を読む。
 そこには『災厄、我らの手に有り。汝、教皇領教会へ来られたし』と書かれていた。

「お師匠──っ!!」

 その文面を見た彼女は直ぐに行動を起こす。
 普段は使わない、世界樹の頂上で採れる木材を使用した長杖を取り出し、魔力を流して即時使用可能状態へ移行。鍔の広い先の尖った黒い帽子を被り、マントを羽織る。
 手には魔法の反動から身を守る為の黒い手袋。
 靴には、隠し武器として複数個の大規模殲滅魔法と反転術式を記憶させた魔晶石を嵌め込む。

「お師匠に手を出したこと、後悔させてやるっ!」

 次の瞬間、設置型空間転移魔法が起動。
 聖ロザリアーヌ教皇国の教会──その正面玄関へと移動するのであった。

 ☆★☆★☆

「何奴──っ!!」

 彼女が転移を終えるとすぐ様、甲冑を着た男に誰何される。

「【流星】のエル。教皇の命によって参上した。我が師を返してもらおう」

 突然、(見た目は幼い)美少女から振り撒かれた肌を突き刺すような魔力に後退りをしながら「し、暫し待たれよ」と大扉の中へ駆け込んでいく聖騎士。
 暫く待機すると、先程の男が出てきて「中へ」と先導していく。
 エルは素直に従い、連れていかれるままにされ、大広間──恐らくは王座の間のような場所であろう所に通された。
 そこには太りに太った一人の大男が豪華な椅子に座っていた。
 この男こそ、教皇である。
 教皇とは思えない程に肥えているが。

「それで、私に何用だ。いや──早く我が師を返──」

 言い終わる前に小さな爆発音が複数回。
 彼女の身体には血が付着している。
 独特な焦げた臭いが鼻腔を擽る。

「くくく……ふふふ……あはははははははははははっ!! やったぞ! 漸く、【災厄】を殺せた!!」

 彼女の目の前には、血の滲んだ服を纏っている見知った背中が立っていた。

「お、し、しょう?」
「卑劣な手を、使うもんだね。このをもってしてでも、無効化するのに、三日も掛かる拘束具なんて。けほっ」

 口から血を吐き、片膝を突く。

「お師匠っ!」
「え、る。俺はもうダメだ。元気に、生きるんだよ」

 血に染った手をエルに向け、その幼い頬を撫でる。

「そんなこと言わないでっ! まだ、生きられる!」
「ダメなんだ。さっきの銃弾の中に、魂そのものを攻撃する魔法も、混ざっていた。魂の集合体である、俺は存在を維持できない。エル、逃げて、自由に・・・生きるんだ」

 そう言い終えると、彼はその生命活動を終了した。

「くくく、もう用事は終えたから帰ってもいいぞ、【流星】よ」
「──うを」
「ん?」
「お師匠をっ!!!! 《返せ!!!!!!!!!!!!!》」

 次の瞬間、幾千もの魔法が全方位展開し、発動。氷や風、炎、雷、雪、更には物理的な槍や矢などによる攻撃が行われる。
 先程、災厄を撃ち抜いたと思しき銃を持っていた兵士を殺し、その上で教皇を睨み付ける。

「あはは。ねぇ、なんでボク・・が【流星】なんて呼ばれているか、体験してみるかい?」

 魔力の膨張によって、尻尾の毛が逆立ち、魔法の発動兆候を見せる。

「なっ、なっ、なっ、ど、何処にこんな魔力をっ!」
「ボクってね、お師匠より魔力隠蔽が得意なんだ。まぁ、そんなこと、これから滅ぶ世界・・のニンゲンに教えたって意味ないよね。くくっ、恨むなら、お師匠の居ない世界を作った自分を恨むんだねっ! 《廻れ廻れ、逆位へ廻れ・エル=リンネスターの名の許に──》」

 ──世界に滅びを与え給え。

 天に向け構えられた長杖の先から光が伸び、消失する。

「……はは、これ、だけか? 見掛け倒しにも程が──」
「《墜ちろ》」

 エルの魔法が完成し、世界中の重力が倍増する。
 突如として増えた重力は、惑星の近くを通っていた宇宙のゴミや小惑星群を引き寄せ、大気圏突入針路を執らせる。

「お師匠の居ない世界なんて──滅びてしまえばいいっ!!」
「な、何故だ! なぜ、体が動かんっ!?」
「【流星群ミーティア・フォール】は、一度発動したら止められない。これで、終わりだよ。くくく、くくくくく、あははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!!! ざまぁみやがれ! クソッタレの女神! お前が──お前が【勇者】を殺したニンゲンを赦すからこうなるんだよッ!! どうせ見てるんだろっ? 出てこいよっ!! この場で直ぐに殺してやるからっ!! アハハハハハハハハハハハッ」

 彼女は、災厄の死体を抱え、血塗れになることも厭わずに抱き締める。

「何が【災厄】だッ! 【勇者】を罠に掛け、反撃させたのはそっちじゃないかっ!」

 先程から支離滅裂な発言ばかりを繰り返し続けるエルに後退りしか出来ない教皇。
 崩落し始めた大広間の天井の隙間から少しだけ見えたそれは──

 ──赤く染った巨大な岩が墜ちてきている光景だった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...