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精霊の使い魔 編

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姫宮ひめみや 喜一きいちの左側に、十花とうかが座る。

「初めまして。 七五三しのしめ 芳乃よしのと言います。」

「志野締《しのしめ》君。で良いかな?」

「あ~、多分。 しのしめって、漢字違いしてると思いますので一応。

漢数字で、七五三しちごさんと書いて、七五三しのしめです。」

「これはまた。 珍しい苗字だな。」

「よく言われます。」

「それでは。 改めて、七五三しのしめ君。

娘の十花とうかと、中嶋君からの報告も聞いているのだが。

君に聞きたい事が在る。」

「はい。」

「まずは。 こちらの中嶋君だが。」

そう言って、先ほどのワゴン車を運転していた運転手に目を配らせる。

「車の中で顔は合わしましたが。

私は、内閣特殊調査課に所属する、中嶋なかじま 紘一こういちと言います。」

そう言って、軽く礼をする。

「内閣特殊調査課とは。 現代日本に置いての。

心霊現象。 超常現象。 等と言った。

非現実的な事柄を秘密裏に調査して処理を行う機関です。

表立っての公表はしておりませんが。

その歴史は古く。 平安の時代から組織されていたと言われています。が、事実は不明です。」

そう言って、にこりと笑う中嶋。

緊張感を出しておいて、気を抜きに来るとは。

なかなかに食えない人だ。

まぁ、国仕えの人が食われるようじゃ、それはそれで困るのだが。

「ぶっちゃけ。 内閣特殊調査課 なんて仰々ぎょうぎょうしい看板を出してますが。
 つま弾きにされている部署と言った方が早いかもしれませんね。」

そう言って、肩をすぼめる中嶋。

「姫宮家の方たちとは、国を挟んでの共同戦線を構えさせて戴いております。
 とは言いましても。 情報収集とバックアップが主な仕事ですが。」

「卑屈になるな。 中島君たちが裏で動いていてくれているから、我ら姫宮が表舞台に出ないで済んでいるんだ。
 持ちつ持たれつ。 適材適所。 だろ。」

喜一が、中嶋を見ながら言う。

「それでは、改めて。 七五三しのしめさん。
 今までの情報を整理しますと。
貴方は、孝也くんと、美優紀ちゃんの姿を、宝橋たからばし駅に向かう途中で見かけて声を掛けたと。

間違いは在りませんか?」

「はい。 迷子かと思って声を掛けました。」

「そして、次に。七五三しのしめさんは、2人の名前を尋ねた。

その時に、2人の真名しんめいを聞いてしまった。」

「はい。 言葉と言うよりも。 音と言った方が良いでしょうか。

イフリートさんと、ジンさんから。 その意味を聞くまでは、私自身が理解しておりませんでした。」

「そうでしょうねぇ。

なにせ、私達も。 親御さんである大精霊さま達でも初めてなんですから・・・。」

その言葉に、思わずイフリートとジンの顔を見てしまう。

2人は、大きく頷いて見せた。

「元来。 我ら精霊と呼ばれる、精神世界スピリチュアル側の存在は。

産まれ出た瞬間に真名しんめいを授かる。

その真名しんめいは、自分以外に知られない様にするのが普通だ。

と、言うか。 真名しんめいを知られると言う事は。

自分の命を握らせている様なものだ。

真名しんめいを知られると。

真名しんめいを言った者の言葉には逆らえなくなる。」

そう言って、芳乃よしのの顔を見詰めるイフリート。

「ですが、幸いと言うべきか。
 七五三しのしめさんには、私たち精神世界スピリチュアル側の言葉は、人間には音として聞こえて伝わり。

孝也と美優紀の正確な真名しんめいは、伝わっていないのが救いとも言ってもいいでしょう。」

ジンも芳乃よしのの顔を見て言う。

芳乃よしのは黙ったまま。

「しかし、理解していないとは言え。
 真名しんめいを名乗った事で。

孝也と美優紀の加護が、コイツに宿ってしまった。」

「覚醒していないとは言え。

仮にも、精霊の王と女王の加護を受けてしまった七五三しのしめさんは。

私たち、大精霊にも匹敵する能力ちからを持ってしまったとも言えます。」

イフリートと、ジンの言葉で。 芳乃よしのに視線が集中する。

「特に、変わった様子は・・・。」

無い。 と、言いかけて。

芳乃よしのは思い出す。

2人を抱きかかえて走った時の記憶を。

意識せずに、2人を抱いたまま難なく走った事を。

日頃から、身体を鍛えているのなら別だが。

生憎と、自分よしのは特に身体を鍛えている訳では無い。

お腹も出ているし、身体に張りも無く。

まさに、何処にでも居る おっさん そのものだ。

「意識せずに、あの身体能力だ。
 きちんと、意識をして使いこなせるように為ったら。
それこそ、人間離れした動きも可能だ。」

「それに加えて。
 私たち、大精霊の能力ちからと同等の能力ちからも自由に使えるようになるでしょう。」

「・・・・。 俺、どうなるんでしょうか?」

「はい。 そこが、一番の問題点でして。
 もう、言い作ろうが。 オブラートに言おうが。
遠回しに言っても仕方が無いので。 率直に言わせて貰います。

七五三しのしめさんには、私たち内閣特殊調査課の監視下の元で、内閣特殊調査課で働いて貰う事に為ります。」

「はっ?」

中嶋の言葉に、間の抜けた声が出てしまう。

「先に言って置きますが。

七五三しのしめさんには拒否権は在りません。
 これは、決定事項です。 拒否すると言うなら。
姫宮ひめみやと大精霊たちが、命を懸けて貴方を消しにかかります。」

「物騒だな! おいっ!」

思わず突っ込む。

「冗談では在りませんからね。
 能力ちからを制御して使いこなしだしたら。

七五三しのしめさん1人で、世界を敵に回せる戦力に為ってしまうのですから。

そんな事に為らないように。

内閣特殊調査課の監視下の元で、大精霊様達と姫宮ひめみやの側で監視できる方が都合が良いのです。」

中嶋の説明に、返す言葉も無くなってしまう。

頭を抱えて転がり回りたい気分だ。

「拒否権は無いんだな・・・。」

「はい。 有りません。 人生を終わらせたいなら。 どうぞ、拒んでくださっても構いませんよ。」

笑顔で言う中嶋。

「・・・・・。」

「安心してください。 きちんと給料は出ますし。
 休みも有ります。 有休も有りますし。
残業手当もつきますので。」

「給料って、いくらくらい?」

俺の言葉に、中嶋がツーっと寄って来る。

「これを。」

何か書かれた紙を置く。

書かれた内容を良く読む。

3度ほど見直す。

「宜しく、お願いしますっ!」

手の平を返して返事をする俺だった。
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