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動乱 編
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「こんなものか?」
上下を黒のスーツで身を包み、姿見を見ながら独り呟く。
「芳乃~、準備できたかぁ~?」
階段下から、苺花の声が聞こえる。
「今、行くっ!」
大声で返事を返して、ドアを開けて階段を降りて苺花と合流。
苺花も俺と同じく、上下黒のレディーススーツを着ている。
「・・・・。」
無言で、俺を見る苺花。
「なんか変か?」
「あ・・。 いや。 似合ってる・・・。うん。 見惚れてた。」
顔を赤くして言う苺花。
「そっか。 スーツなんて着るの久しぶりだからな。 苺花も似合ってる。」
「普段は、ツナギの作業服だしな芳乃は。」
「楽なんだよ。 最近の作業着って結構オシャレだし。」
「さて。 そろそろ行かなきゃ。」
「了解。」
玄関から出ると、中嶋君がワゴンに乗って待機していた。
俺と苺花が車に乗り込むと。 中嶋君が車を走らせる。
目指すは、姫宮邸。
* * * * * * *
屋敷に着いて、苺花と俺は、20畳ほどの部屋に案内されて、部屋の中で座って待っている。
部屋の中から見える庭園は壮観で、素人の俺でも素晴らしいと思えるほどの整然さを保っていた。
コンッ。 コンッ。 と、鹿威しの音が小気味よく聞こえる。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
多分、10分も掛かっていない。
俺と苺花が待っていた人物が姿を見せた。
姫宮 喜一と、姫宮鳴海。
それと、もう一人。 白髪の老人。
三人は、俺たちの前に座ると言葉を切り出した。
「久しぶりだね。 七五三君。 こちらは妻の鳴海。」
「初めまして。」
軽く頭を下げる鳴海。
そして、父の・・・。」
「玄馬だ。初めまして、七五三君。」
喜一の言葉の途中で割り込みながら自己紹介を言う玄馬。
「初めまして。 七五三 芳乃です。」
そう言って、深めに頭を下げる芳乃。
「して。 今日は何用かな?」
現当主の喜一を差し置いて、前当主の玄馬が口火を切る。
「回りくどいのも、腹芸も得意じゃないので、単刀直入に言います。」
玄馬の眼を逸らす事なく見つめ返しながら言葉を紡ぐ芳乃。
「玄馬さん。 娘さんの、苺花を籍に入れました。」
芳乃の言葉に、喜一と鳴海は、目を大きく見開いて驚く。
これは、籍に入れたと言うのは知ってはいたが。 まさか、ここまで直球で言うとは思ってもいなかったからだ。
当の玄馬はと言うと。 目を瞑って腕を組み姿勢を崩さず聞いている。
「それと。苺花の、お腹の中には、俺たちの子供がいます。 順序が逆になってしまいましたが。」
「「えっ!」」
これには、さすがに喜一と鳴海も声を上げて驚いた。
これは、昨日の晩に、生理が来ない事に疑問に持った苺花が自分で調べた結果だ。
最初は遅れてる?程度だったのだが。 さすがに2週間も遅れた経験は無いので、もしかしてと思っての事だったのだが。
無言のまま、目を開けて芳乃を見る玄馬。
「七五三君。」
そこまで言って、言葉を区切る玄馬。
「はい。」
玄馬の言葉に、姿勢を正して返事をする芳乃。
「君は、それで良いのかね? 言っては何だが。 ものぐさだよ。娘は?」
厳しい表情から、一気に相好を崩して言う玄馬。
「おとっ。 玄馬様っ!」
つい、お父さん!っと言いかけて、慌てて言い直す苺花。
「なんじゃ。 別に、お父さんでも良いぞ。 公式の場でも無し。 お前の事は、娘と思って育てたんだからな。
大体、こんなのを嫁にしたら、尻に敷かれっぱなしじゃぞ?」
「覚悟してます。 その程度で、愛想を尽かせるなら、一緒に為ろうとは思いませんよ。」
そう言って、笑顔で返す芳乃。
「そうか。 娘を頼む。」
芳乃に向かって頭を下げる玄馬。
「はい。 こちらこそ、よろしくお願いします。」
芳乃も、玄馬に向かい頭を下げる。
普通なら、娘さんを幸せにとか。 悲しませるような事は、とか言う物なのだろうが。
それは、普通の世界の人たちが言うセリフで。
この世界に足を踏み入れた者たちが言うセリフではない。
いつ何処で、何が起きて。死んでしまうかも知れない世界なのだから。
それは、この世界に足を踏み入れて日の浅い芳乃でも理解している。
「さて。 堅苦しいのは此処まで。 目出度い日だ。 喜一。 十花も呼んで、皆で祝うぞ。」
上下を黒のスーツで身を包み、姿見を見ながら独り呟く。
「芳乃~、準備できたかぁ~?」
階段下から、苺花の声が聞こえる。
「今、行くっ!」
大声で返事を返して、ドアを開けて階段を降りて苺花と合流。
苺花も俺と同じく、上下黒のレディーススーツを着ている。
「・・・・。」
無言で、俺を見る苺花。
「なんか変か?」
「あ・・。 いや。 似合ってる・・・。うん。 見惚れてた。」
顔を赤くして言う苺花。
「そっか。 スーツなんて着るの久しぶりだからな。 苺花も似合ってる。」
「普段は、ツナギの作業服だしな芳乃は。」
「楽なんだよ。 最近の作業着って結構オシャレだし。」
「さて。 そろそろ行かなきゃ。」
「了解。」
玄関から出ると、中嶋君がワゴンに乗って待機していた。
俺と苺花が車に乗り込むと。 中嶋君が車を走らせる。
目指すは、姫宮邸。
* * * * * * *
屋敷に着いて、苺花と俺は、20畳ほどの部屋に案内されて、部屋の中で座って待っている。
部屋の中から見える庭園は壮観で、素人の俺でも素晴らしいと思えるほどの整然さを保っていた。
コンッ。 コンッ。 と、鹿威しの音が小気味よく聞こえる。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
多分、10分も掛かっていない。
俺と苺花が待っていた人物が姿を見せた。
姫宮 喜一と、姫宮鳴海。
それと、もう一人。 白髪の老人。
三人は、俺たちの前に座ると言葉を切り出した。
「久しぶりだね。 七五三君。 こちらは妻の鳴海。」
「初めまして。」
軽く頭を下げる鳴海。
そして、父の・・・。」
「玄馬だ。初めまして、七五三君。」
喜一の言葉の途中で割り込みながら自己紹介を言う玄馬。
「初めまして。 七五三 芳乃です。」
そう言って、深めに頭を下げる芳乃。
「して。 今日は何用かな?」
現当主の喜一を差し置いて、前当主の玄馬が口火を切る。
「回りくどいのも、腹芸も得意じゃないので、単刀直入に言います。」
玄馬の眼を逸らす事なく見つめ返しながら言葉を紡ぐ芳乃。
「玄馬さん。 娘さんの、苺花を籍に入れました。」
芳乃の言葉に、喜一と鳴海は、目を大きく見開いて驚く。
これは、籍に入れたと言うのは知ってはいたが。 まさか、ここまで直球で言うとは思ってもいなかったからだ。
当の玄馬はと言うと。 目を瞑って腕を組み姿勢を崩さず聞いている。
「それと。苺花の、お腹の中には、俺たちの子供がいます。 順序が逆になってしまいましたが。」
「「えっ!」」
これには、さすがに喜一と鳴海も声を上げて驚いた。
これは、昨日の晩に、生理が来ない事に疑問に持った苺花が自分で調べた結果だ。
最初は遅れてる?程度だったのだが。 さすがに2週間も遅れた経験は無いので、もしかしてと思っての事だったのだが。
無言のまま、目を開けて芳乃を見る玄馬。
「七五三君。」
そこまで言って、言葉を区切る玄馬。
「はい。」
玄馬の言葉に、姿勢を正して返事をする芳乃。
「君は、それで良いのかね? 言っては何だが。 ものぐさだよ。娘は?」
厳しい表情から、一気に相好を崩して言う玄馬。
「おとっ。 玄馬様っ!」
つい、お父さん!っと言いかけて、慌てて言い直す苺花。
「なんじゃ。 別に、お父さんでも良いぞ。 公式の場でも無し。 お前の事は、娘と思って育てたんだからな。
大体、こんなのを嫁にしたら、尻に敷かれっぱなしじゃぞ?」
「覚悟してます。 その程度で、愛想を尽かせるなら、一緒に為ろうとは思いませんよ。」
そう言って、笑顔で返す芳乃。
「そうか。 娘を頼む。」
芳乃に向かって頭を下げる玄馬。
「はい。 こちらこそ、よろしくお願いします。」
芳乃も、玄馬に向かい頭を下げる。
普通なら、娘さんを幸せにとか。 悲しませるような事は、とか言う物なのだろうが。
それは、普通の世界の人たちが言うセリフで。
この世界に足を踏み入れた者たちが言うセリフではない。
いつ何処で、何が起きて。死んでしまうかも知れない世界なのだから。
それは、この世界に足を踏み入れて日の浅い芳乃でも理解している。
「さて。 堅苦しいのは此処まで。 目出度い日だ。 喜一。 十花も呼んで、皆で祝うぞ。」
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