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動乱 編

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中島君の運転で連れてこられたのは、住んでいる所からかなり離れた山の中。

この場に居るのは、俺と、土の大精霊ベヒモス、水の大精霊ローレライ。

中島君は、俺たちを降ろしたら距離を取った所に待機している。


「さて、結界を張るね。」

土の大精霊ベヒモスが言ったと同時に結界が張られる。

景色から色が無くなり灰色の世界に為る。

世界魔術士協会の使う術式と同じだが違和感を少しだけ感じる。


「どうかしたの?」

いぶかしな顔をする俺に向かって、水の大精霊ローレライが聞いてくる。

「あ、いや。 こう、なんと言うか。 俺たちの結界と違う?てきな?」

「へぇ~、流石に感じるのね。 そうね、正確に言うと。 君たちの使う結界とは密度が違うのよ。」

「密度?」

「そう。 君たちの使う結界は、私たち大精霊クラスだと壊す事が出来るけど。

 私達が造った結界は、結界を造った者が死ぬか解除するかしないと解けないのよ。」

「それって。 今から来る奴は、それくらいにヤバい奴なんですよね?」

「そうねぇ。 五天がタッグを組んで倒せる?って感じかしら?」

苺花まいかクラスが二人集まってやっとかよ。)

「大丈夫よ。 その為に、大精霊の私たちが出張って来てるんだから。

 芳乃よしの君は。 そこで見てるだけで良いの。 貴方の役目は、私たちの側に居る事。

それだけで、私たちの能力ちからが、地球に及ぶ被害を小さくできるの。」

「安心してください。 芳乃よしのさんは私が護りますので。」

土の大精霊ベヒモスが言う。

「来るわよ。」

水の大精霊ローレライの言葉に視線を上げると。 地上と上空に次元の亀裂が広がっていく。

地上の亀裂は、芳乃よしのが、何いつも見ている5~6メートルくらいの亀裂たが。

この上空の亀裂の大きさは、20メートルくらいはあると思われる。

そして、上空の亀裂の中から出てきたのは 人。

地上の亀裂からは、豚人オーク大鬼オーガに悪魔族。

豚人オーク大鬼オーガに至っては、恐らく100体づつを超えているだろうと思われる。

悪魔族は30くらいという感じだ。

だが、魔物達に動きは無かった。

いつもなら、獲物を見つけると即座に襲い掛かって来ると言うのに。

まるで、上空の人物の命令でも待っているかのように。

「別の次元か?」

上空に出てきた人は、そのままの位置で周囲を見渡し呟く。

「ちょっと行ってくるわね。」

そう言って、水の大精霊ローレライが宙に浮いて、次元の亀裂から出てきた人物の間に移動する。

「はぁい。 異界の方。」

と、手をフリフリ物凄く気軽に声をかける水の大精霊ローレライ。

「精霊?」

亀裂から出た人物が、水の大精霊ローレライを見て言う。

「そっ。 私は、水の大精霊ローレライ。 で、貴方は?」

真名しんめい以外の名は無い。」

「あら、名前が無いなんて不便ね。 まぁ、良いわ。

 それじゃ、聞くけど名無しさん。 下のは貴方の眷属なのかしら?」

チラリと下を見て首を振る。

「その割には、大人しくしてるけど?」

「私の圧に押されて動けないだけでしょう。」

「じゃあ、始末しても問題ないと?」

「お好きに。」

その瞬間。

土の壁が魔物達を覆い尽くして地面と一体化する。

時間にすれば、僅か2秒にも満たない時間だろう。 魔物達の姿は奇麗に無くなっていた。

「すげ・・・・。」

芳乃よしのは隣に居る、土の大精霊ベヒモスに視線を向けて素直に愕く。

「それで、名無しの魔族さん。 貴方は、どうするの?」

水の大精霊ローレライの言葉に名無しの魔族が俺を見る。

そして、そのまま高度を下げて、俺の方に向かって来る。

俺の方に向かって来る魔族に、水の大精霊ローレライが立ち塞がる。

「彼に手を出すのかな?」

ニッコリと、笑顔で言う水の大精霊ローレライだが。 その目は笑ってなどいない。

「人間を護るのか?」

「ええ。」

「そうですか。」

しばし、無言で視線を交わし合う二人。

「そこの人間! 私に名を付けてくれませんか!?」

「え?」

突然の事に、芳乃よしのの思考も身体もフリーズする。

「私に、名を付けてくださいと言っているのです!」

そう言うと、魔族の身体を黒い何かが包み込み。

次に魔族の姿が見えた時には、背中に白と黒い翼が生えた人が立っていた。

「貴方。 堕天したのね。」

* 堕天 *

神の命令に背いた事で、本来は白い翼が黒くなる事を堕天と言う。

自身の念を持たずに堕天した場合は両翼が黒くなるのだが。

自身の念を貫いて堕天した時は片方だけが黒くなる。

「これが、私の真の姿です! 人の子よ! 私に名を付けてください!」

「ルシファー・・・。」

その姿を見て、芳乃よしのは思わず呟いていた。

天使でありながら。 神の命に背いて堕天をした天使に重ねて。

「ふっ。 ルシファーですか。 感謝します。 人の子よ。」

白と黒の翼を折り畳み、ルシファーが芳乃の元に向かう。

その後を追う様に、水の大精霊ローレライも芳乃よしのの元に。

土の大精霊ベヒモスも、水の大精霊ローレライも、警戒の色は解かないものの。

芳乃よしのに名を付けられたのだ。 よほどの事は起こらないと思っている。

精神世界スピリチュアルの者にとって。 物質世界マテリアルサイドで姿を保つには名を付けて貰う必要がある。

これは、名が物質世界マテリアルサイドでの固有定義となり繋ぎ止めるからだ。

だからこそ、名を付けられた者は、名を付けた者に敬意をもって接する。

物質世界マテリアルサイドでの名を授けてくれて有り難うございます。人の子よ。 私の名はルシファー。 貴方の名は?」

七五三しのしめ 芳乃よしのです。」

「では。 シノシメ ヨシノさん。 宜しく。」

「え?え?」

意味が分からず狼狽うろたえる芳乃よしの

「ルシファー。 貴方に敵意は無いのね?」

「ありませんよ。」

水の大精霊ローレライの目を見て答えるルシファー。

「そう。 それじゃあ、場所を変えましょうか。」

「そうですね。 結界を解きますよ。」

水の大精霊ローレライの言葉に同意して、土の大精霊ベヒーモスが結界を解く。

「続きは家に着いてからね。 良いでしょう。ルシファー。」

「分かりました。」

「ほら。 芳乃よしの君。 中島君を呼んでくれるかな?」

「え?あ、はい。」

絶賛混乱中の芳乃よしのだったが、土の大精霊ベヒモスに言われて、中嶋に連絡を入れるのだった。


ψ 追記 ψ

中島に迎えに来てもらい。 帰りの車の中で、震度3程の地震が起こったのを聞いた芳乃よしのであった。

* 5月11日から月末まで、毎日19時30分 更新です
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