竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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限定成長de学院生活

ゲオルグside異質な見学生

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 こんな時期に見学生など滅多にない事と同時に、その見学生の異質さに俺は目を見開いていた。それは俺ばかりでは無く、きっとこの教室にいる生徒達皆同じ気持ちだったろう。

 獣人だとすれば一体何の種族か分からないし、だからと言って竜人とはとても言えないその華奢な可愛らしさに、可愛いもの好きなシンディが机をガタつかせているのが何よりの証拠だった。


 俺の後ろの空いた席に、何の警戒もしないで呑気に向かって来る少年は、本当に同じ年頃なんだろうか。獣人ならこんな時は、警戒を滲ませて張り詰めた空気を纏うのが普通だ。

 サラリとした長めの黒髪を揺らして、明るい緑色の瞳は確かに目を惹く。だが目の前の少年はそれだけではない何かがあった。すれ違う時に残した甘い香りは俺の鼻腔をヒクヒクとさせて、何とも子供っぽい事をしてしまった事に気まずさを感じた。


 早速シンディが、見学生にちょっかいを掛けているのは想定内だったけれど、思わず一緒にお昼を食べる事になったのは自分でも何だか信じられない。俺はこんな軽はずみな奴だったのか。いや、肉食のシンディからこの見学生を守るためだ。そう、それだけだ。

 胸に迫るような愛の詩が、魔物のミルにびっくりした時の詩だと楽しげに笑う見学生のディーに、俺ばかりでは無く一緒にテーブルを囲んでいた生徒達が笑いを堪えるのは苦しいばかりだった。

 儚げな見かけと違って、ディーはあっけらかんとして無防備だった。シンディに腰の細さを確認させられているのを見ていた時は、何だか背中がゾクゾクしてしまった。


 だから剣の授業で借り物に着替える時に、まるでそうするのが当然とばかりに俺に着替えを手伝わせたのには、動揺を見せないようにするのが精一杯だった。それにしても筋肉などまるでないような柔らかな身体に、俺はますます眉間の皺を深くした。

 こんな力も無さそうな弱々しさで、一体どうやって生き残れると言うのだろう。既に更衣室の生徒達の視線が、獲って食おうとばかりにディーに纏わりついているのを感じていた。それだったら俺でも良くはないか…?

 しかも俺の獅子族特有の威圧感をまるで感じていないディーに、俺は何だか心がウキウキとして来ていた。


 だが、剣の授業に特別講師として来てくれていた、騎士団員のロバート様がディーと顔馴染みなのを見て、俺はハッと息を呑んだ。確かロバート様の意中の相手が黒髪と緑の瞳というのは最近では知る人ぞ知る情報だ。

 信憑性はともかく、あのロバート様のディーへの視線を見れば明らかに特別視しているのが丸わかりだった。そう言う事なのか?はっきりとは答えなかったけれど、少し困った様子のディーに詳しくは尋ねられなかった。

 しかもディーはシンディに手を繋がれて、どこまでも連れていかれる所だった。あの警戒心の無さには、見てるこちらが焦ってしまう。すっかり保護者気分になった俺は、自分もディーの柔らかな、少しひんやりした手を繋いでもいいという口実が出来たのを感じていた。


 だから更衣室で刃先避けを脱がした時に、俺にぶつかって来た柔らかな身体を抱き止めた瞬間離したくないと感じたのも、その保護者的気持ちのせいかもしれない。口が滑ってハーレムに入れてやるなんて軽口を叩いたのも、俺らしく無かった。

 知らない自分が引き摺り出されるようで、ディーは危険人物だ…。しかもこの時のことが後になってシンディに知られて揶揄われる羽目になるとか、気まずいにも程がある。

 しかも妹のリリアンが相変わらず我儘を言って、よりにもよってディーに絡んでいる。俺はいつもなら流せるのに、今回は酷くリリアンを叱ってしまった。リリアンの兄だと色眼鏡で見られたら、俺から距離を取るのではと恐ろしかったんだ。


 だがディーの口から出て来たのは俺がロバート様を狙っているとか言うとんでもない勘違いで、無邪気に笑うディーにムキになって言い返したらますます言い訳じみる気がして何も言えなくなってしまった。

 大体どうしたらそんな勘違いをするんだ。確かにロバート様は男女の区別なくモテる方だけど、俺は明らかにロバート様側だろうに。…ディーはその手の事がよく分かっていないのかもしれない。

 大人びたところと、ちっちゃな子供っぽいところが見え隠れするディーは、なんとも言い難い見学生だ。


 しかし魔法学でディーが見せた魔力は、とんでもないものだった。あれを見せつけられたらやはりディーは竜人なのだと納得するものがある。

 燃え上がる炎の威力は置いておいても、水を器用にコントロールするのを目にすれば口も閉じるのを忘れてしまう。空に登っていく水が弾けると、辺り一面に水飛沫が広がって涼しさが広がった。

 ディーを見ると気持ちよさそうに微笑んでいる。まるで大した事ではないと言わんばかりのディーに、俺たちは呆然と見つめることしか出来なかった。


 結局ディーにベタつくシンディを引き剥がして、当然のように手を差し出したディーの柔らかい手を繋いで歩けば、妙に浮かれた気持ちになった。しかしシンディにも、俺にも抵抗なく手を繋いでくるディーはどんな育ち方をしたのだろう。下手すれば、疲れたから抱っこしてくれと言って来そうな勢いだ。

 俺は思わず口元が緩みつつ、皆の視線が俺達の手元に集まるのを感じながらも気にしないようにした。こんな役得は出来るだけ引き延ばしておきたいものだ。


 けれど、見学生であるディーが着替えに取り出したのはまるで恋人との逢瀬に着るような色っぽいものだった。俺は内心ドキドキしながらも、王都で作ってもらったというそのブラウスが、ディーにピッタリハマるのをボンヤリと眺めていた。

 はぁ、めちゃくちゃ可愛いじゃねぇか。だけどディーは気に入らないのか顔を顰めてぶつぶつ文句を言うのを我に返って聞いたけれど、ディーの言うジゴロとやらにピッタリ当てはまっていたのは賛同できなかったみたいだな。

 ジゴロが誘惑する男だとすれば、そのまんまなんだが。


 それから教室でシンディがうるさい程ディーのジゴロぶりに興奮して、抱きしめて息が詰まるディーを助け出したのは笑える話だが、案の定ディーをチラチラ見る生徒が続出して俺の威圧を使わざるを得なかったのは内緒だ。

 ほんとこの威圧にディーが全然反応しないのが何とも言えないんだ。良いような、悪いような。ちょっと自信無くすな、俺。

 欠伸の出る歴史の授業はディーがやる気満々で質問ばかりするから、すっかり教師のお気に入りになったのは笑えるけど、問題はその後だった。


 「真っ直ぐ家に帰るのか。て言うか、ディーは何処に住んでるんだ。」

 すると一瞬迷った表情をして、ディーは誤魔化すように言った。

「実は僕、月に一週間しかここに居ないんだ。だからこれからも通うとしてもそんなペースだよ。領主様の所か宿泊所に滞在してると思うよ。今日は領主様の所に一旦戻るんだけどね。…あ。お迎えが来てるみたい。じゃあ、また明日ね。」

 そう言って俺たちに手を振って走っていってしまった。門のところにはディーを迎えに来たのかロバート様が立っていた。


 「やっぱりロバート様のお目当てはディーなのかしらね。ディーはロバート様の事は意識してないみたいだけど、ほら、ああやって手を繋いでさ。ロバート様って普段ほとんど笑わないって評判だったのに、全然そんな事ないじゃないの。ねぇ、ゲオルグ?」

 そうシンディに言われて、俺は睨むように見つめていた二人の後ろ姿から視線を外して言った。

「知らねえよ。ディーは誰とでも手を繋ぐだろ?深い意味はないさ。じゃあな、俺も帰る。」

 何か言いたげに俺を見るシンディから逃げるように、俺は家路を急いだ。帰ったらリリアンにロバート様の事を聞かなくては。ロバート様とディーがそう言う関係でない所を探して安心したい。俺はすっかりディーにハマってしまった自分に思わず苦笑していた。







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