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環境
戸惑い
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イシスの為に自分で整えた真っ新なシーツの上にぐったりと転がりながら、セスは閉じた目を開けられなくなっていた。結局具合が悪かったはずのイシスに抱き抱えられて、湯浴み場から部屋に戻された自分の不甲斐なさに何も言えない。
部屋の中を歩き回るイシスの足取りに耳を澄ませば、いつも通りに元気を取り戻したのは間違いなかった。
カップのカチャカチャ言う音を耳で拾いながら、イシスが近づいて来るのを何処か居心地悪く感じながらセスは目を閉じ続けた。
「セデアス、喉が渇いたろう?…。起きてお茶を飲んだら?」
イシスの好意を無視できずに、そもそも狸寝入りもバレている様だったので、セスは諦めてゆっくり目を開けた。
凝った袖付き椅子に優雅に座り、ツルリとした紫とも紺色とも言い難い美しい色のガウンからなめらかな素肌をのぞかせたイシスが、自分のカップを傾けるところだった。
首筋に濡れた黒髪が少し張り付いて、それでもいつも通りに人より少し青白い顔に伏せた長い睫毛がゆっくり持ち上がるのを、セスは何処か絵画を見る気分で眺めた。
イシスは綺麗な男だ。僕も綺麗と言われることが増えたけれど、そう言う普通の綺麗とは違う。吸血族あるあるなのかもしれないが、凄みのある温度を感じない綺麗さだ。
だからあの時湯船で自分と交わった時のイシスの、興奮で上気した顔が年相応に感じられて、普段よりずっと身近に感じられたのかもしれない。…だからと言って、迂闊にも同室者と欲望に流されて関係した言い訳にはならない。
気怠い身体を引き起こすと、自分が全裸であることに気づいてセスはシーツを引き寄せた。上半身はともかく、この状況で下半身を曝け出すのは違う気がする。普通に恥ずかしい。
口元に笑みを含ませたイシスがセスにソーサーごとお茶を手渡してくれた。
セスは黙ってお茶を喉に流し込みながら、ホッとため息をついた。美味しい。自分でもお茶くらい淹れるけれど、どうしてもイシスが淹れたものとは差ができるのだ。
「セデアスは私の淹れたお茶が好きだろう?…無理させたかい?」
やっぱりさっきあった事が無かったことにはならないみたいだ。セスはイシスがどう言う気持ちで自分と関係したのか聞いたほうがいいのか、それとも触れないほうがいいのか迷っていた。
少なくとも自分はハッキリとした答えなど持っていないのだ。
「…大丈夫。僕、イシスの看病してた筈なのに、あの、それどころじゃない事になってしまって。…イシスこそ具合はどう?」
イシスは面白い事を聞いたとでも言う様に眉を少し上げて、ニコリと微笑んだ。
「ああ、なぜか凄く調子が良い。汗をかいたのが良かったのかもしれないね。そもそも私がこんな風に調子を崩す事など滅多にないんだ。…思い当たる原因としたら、嫌な事を聞いてストレスを感じたからかもしれないね。」
こんなイシスにも体調を崩す様なストレスがあるのかと妙な感心をしながら、セスはイシスの元気そうな様子に頬を緩めた。
「そっか、良かった。…あの、お茶ご馳走様。えっと、僕、自分のベッドで寝るよ。」
なんでもない様に振り絞った言葉にイシスは微笑むと、立ち上がってセスからソーサーを受け取った。セスは見下ろすイシスの目の前で全裸のまま移動するしか無さそうだった。
ここで恥ずかしがるのも男気が無い気がして、セスは身体をぎこちなく動かしながらできるだけ俊敏に立ち上がった。けれども前に立ち塞がったイシスは避けようとはせずに、セスの頬を人差し指でゆっくりとなぞりながら呟いた。
「交わったのに、そんな風にぎこちないともう一度蕩けさせたくなるね。ああ、勿論今夜はもうしないよ。ね、セデアス。君ってどうしてこんなに特別に感じるんだろう。
私は君の血統が濃いのを感じる。でもどんな血族なのかまるでわからない。こんなのは初めてなんだ。…教えてくれないか、君のこと。」
セスは明らかにギクリと身を強張らせた。誤魔化すやり様などいくらでもあった筈なのに、思いがけない事を言われて正直に反応してしまったのだ。イシスはそんなセスを見つめながらピクリと目元を動かした。
さっきまでの和やかな空気は一変して、今や張り詰めた空気を感じる。セスはイシスと目を合わせながらぐるぐると考えを巡らせていた。
部屋の中を歩き回るイシスの足取りに耳を澄ませば、いつも通りに元気を取り戻したのは間違いなかった。
カップのカチャカチャ言う音を耳で拾いながら、イシスが近づいて来るのを何処か居心地悪く感じながらセスは目を閉じ続けた。
「セデアス、喉が渇いたろう?…。起きてお茶を飲んだら?」
イシスの好意を無視できずに、そもそも狸寝入りもバレている様だったので、セスは諦めてゆっくり目を開けた。
凝った袖付き椅子に優雅に座り、ツルリとした紫とも紺色とも言い難い美しい色のガウンからなめらかな素肌をのぞかせたイシスが、自分のカップを傾けるところだった。
首筋に濡れた黒髪が少し張り付いて、それでもいつも通りに人より少し青白い顔に伏せた長い睫毛がゆっくり持ち上がるのを、セスは何処か絵画を見る気分で眺めた。
イシスは綺麗な男だ。僕も綺麗と言われることが増えたけれど、そう言う普通の綺麗とは違う。吸血族あるあるなのかもしれないが、凄みのある温度を感じない綺麗さだ。
だからあの時湯船で自分と交わった時のイシスの、興奮で上気した顔が年相応に感じられて、普段よりずっと身近に感じられたのかもしれない。…だからと言って、迂闊にも同室者と欲望に流されて関係した言い訳にはならない。
気怠い身体を引き起こすと、自分が全裸であることに気づいてセスはシーツを引き寄せた。上半身はともかく、この状況で下半身を曝け出すのは違う気がする。普通に恥ずかしい。
口元に笑みを含ませたイシスがセスにソーサーごとお茶を手渡してくれた。
セスは黙ってお茶を喉に流し込みながら、ホッとため息をついた。美味しい。自分でもお茶くらい淹れるけれど、どうしてもイシスが淹れたものとは差ができるのだ。
「セデアスは私の淹れたお茶が好きだろう?…無理させたかい?」
やっぱりさっきあった事が無かったことにはならないみたいだ。セスはイシスがどう言う気持ちで自分と関係したのか聞いたほうがいいのか、それとも触れないほうがいいのか迷っていた。
少なくとも自分はハッキリとした答えなど持っていないのだ。
「…大丈夫。僕、イシスの看病してた筈なのに、あの、それどころじゃない事になってしまって。…イシスこそ具合はどう?」
イシスは面白い事を聞いたとでも言う様に眉を少し上げて、ニコリと微笑んだ。
「ああ、なぜか凄く調子が良い。汗をかいたのが良かったのかもしれないね。そもそも私がこんな風に調子を崩す事など滅多にないんだ。…思い当たる原因としたら、嫌な事を聞いてストレスを感じたからかもしれないね。」
こんなイシスにも体調を崩す様なストレスがあるのかと妙な感心をしながら、セスはイシスの元気そうな様子に頬を緩めた。
「そっか、良かった。…あの、お茶ご馳走様。えっと、僕、自分のベッドで寝るよ。」
なんでもない様に振り絞った言葉にイシスは微笑むと、立ち上がってセスからソーサーを受け取った。セスは見下ろすイシスの目の前で全裸のまま移動するしか無さそうだった。
ここで恥ずかしがるのも男気が無い気がして、セスは身体をぎこちなく動かしながらできるだけ俊敏に立ち上がった。けれども前に立ち塞がったイシスは避けようとはせずに、セスの頬を人差し指でゆっくりとなぞりながら呟いた。
「交わったのに、そんな風にぎこちないともう一度蕩けさせたくなるね。ああ、勿論今夜はもうしないよ。ね、セデアス。君ってどうしてこんなに特別に感じるんだろう。
私は君の血統が濃いのを感じる。でもどんな血族なのかまるでわからない。こんなのは初めてなんだ。…教えてくれないか、君のこと。」
セスは明らかにギクリと身を強張らせた。誤魔化すやり様などいくらでもあった筈なのに、思いがけない事を言われて正直に反応してしまったのだ。イシスはそんなセスを見つめながらピクリと目元を動かした。
さっきまでの和やかな空気は一変して、今や張り詰めた空気を感じる。セスはイシスと目を合わせながらぐるぐると考えを巡らせていた。
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