AIで人気の僕は嘘つきで淫ら

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

文字の大きさ
4 / 19

チーフの提案

しおりを挟む
 片桐チーフの生々しさを出せばいいと言う言葉は、僕に首を捻らせた。AIは現実と虚像の境目を行き来しているけれど、僕の作ったAIのミコトは現実の方に取り敢えず足を突っ込んでいると言えるだろう。

でもこれ以上どうやって生々しさを出す?僕にはノーアイデアだ。すると片桐チーフはニヤリと笑って僕に言った。

「『ミコト』には生活感がなさ過ぎなんだ。多分加工のせいだと思うけどな。あと、側に誰かいる雰囲気も全然無いだろう?生々しさを出すなら、そんな第三者の匂わせも効果的だと思う。

考えるのもなかなか楽しそうだ。その結果が閲覧数とコメントで反映する事を思えば、案外仕事よりやり甲斐があるかもしれないな。画像を読み込ませてるのなら、そう言う状況の画像集めが先だな。」


 楽しげに僕のミコトのアイデアを出す片桐チーフを、僕はぼんやり眺めていた。仕事でも有能な片桐チーフは、こんな事でも有能なのが何故か可笑しかった。僕が思わずクスクス笑うと、片桐チーフは眉を上げて僕を見つめた。

「ふふ。何だかこんな風に片桐チーフと話をするなんて、全然想像できなかったなと思って。僕の変態的な投稿にも軽蔑する訳じゃなくて、ノリノリでなんかおかしくって。ふふ、…ふぅ、…。」

泣き上戸だった訳じゃ無いのに、僕は安堵感で今まで張り詰めていた気持ちが一気に解放して、唐突に涙が溢れてしまった。子供の様に堪えきれない涙が滲んできて、片手で顔を隠すと誤魔化す様に俯いた。


 目の前の片桐チーフが立ち上がる気配がして、気づけば僕が寄り掛かっていたソファに座ってティッシュを差し出してくれた。僕は黙ってティッシュを受け取ると、涙を拭って鼻をかんだ。ああ、無様な醜態を晒してしまった。

片桐チーフは僕の頭に手を置くと、聞いたことのない優しい声で囁いた。

「そんなに深刻になるな。別に俺はお前を追い詰めようとかそんな気はないから。…まぁ、あまりにも三登が経験不足で無防備だなとは思うけど。」


 僕は思わず口を尖らせて呟いた。

「経験不足だからAIに走っちゃたんです。僕みたいな人間には、リアルでお相手探しはハードル高いですから…。」

僕がそう言うと、片桐チーフは少し黙ってからボソリと尋ねた。

「…本当に経験ないのか?」

僕は酔いが回ってきたのを感じながら自虐的に笑った。

「だって、男が好きなんて誰に言えますか?自分から友達に?そんなの無理です。お仲間が集まるエリアは知ってますけど、全然知らない人といきなりエッチな事するんでしょ?絶対無理です。怖い…。」


片桐チーフは僕の話を聞きながらチューハイをゴクゴク飲んでいた。それからおもむろに僕になんて事ない様に言った。

「ミコトの表情って、三登の画像も読み込んでるんだろう?最初の頃かなり恥ずかしそうな顔してたからさ。だから実体験が伴えばもしかしたらもっと人気出るんじゃないか?まぁ、あのウブな感じだから人気あるのはそうなんだけど。」

僕は釣られる様にチューハイを喉に流し込んでケラケラと笑った。ああ、さっきまで泣いていたのに、今は笑ってる。僕相当情緒不安定だ。そう思いながらも口は滑らかに動いた。


 「だーかーらー、それが難しいんですって。それとも片桐さんが相手してくれますか?僕は片桐チーフはタイプじゃないけど、まぁ練習だと思えば片桐チーフでも大丈夫です。」

後から考えればとんでも無く失礼な事を言ったと気づくのだけど、その時は勝手に動く口は止まらなかった。するとソファに座っていた片桐チーフが、僕の顔を上から覗き込んで囁いた。

「全く好き勝手言ってくれちゃって。…ミコトの魅力アップのために、タイプじゃない俺が協力してやるよ。キスしたい?」


 僕はキスと言われて、もうキスの事しか考えられなくなった。今キスしなければ、もしかしたら一生経験できないかもしれないんだ。僕は片桐チーフの形の良い唇に目が釘付けになってしまった。

思わず喉を鳴らして頷くと、片桐チーフはクスッと笑って責任重大だなと囁いてそっと顔を寄せると、僕の唇に柔らかく触れ合わせた。僕は無意識に目を閉じていたけれど、その柔らかな感触にドキドキしてしまった。少し甘い気がしたのは梅味のチューハイのせいだろうか。


 離れたと思ったその柔らかさは、目を開ける間も無くもう一度落ちてきた。そして優しく吸い付いて、押しつけて、くすぐる様に愛撫した。ああ、キスってこんなに優しくて気持ち良いんだ。

思わず甘くため息をつくと、僕を啄んでいたその唇は僕の下唇を喰んだ。引っ張られて口元を緩めると、ぬるりとした感触が僕の唇を舐めた。僕は自然に唇を開いて、生き物の様に意志を持って動くそれの侵入を許した。


 唇の浅い場所をゆっくり撫でられて、僕は瞼を震わせた。ああ、キスって好きだ。僕がそんな風に思って微笑んで冷静でいられたのもそこまでだった。片桐チーフの舌は不意に僕を征服する様に激しくなって、文字通り僕を翻弄した。

誰かの弱々しい甘い呻き声が自分の声だと気づかなかったくらい、僕は夢中になって片桐チーフの与えてくれるキスを堪能していた。

頬の裏の柔らかな場所をくすぐられて、僕の舌を誘導する様に絡ませられて、僕は唇の端から唾液が垂れるのにも気づけなかった。


 スルリと片桐チーフの舌が僕の中から出て行って、震える瞼が重くて開けられない気がしたその時、スマホのシャッター音が何度か鳴って僕はハッと目を見開いた。

「今度はこれを読み込んだのにしろよ。…凄い色っぽいから。」

そう言ってぼんやりした僕の目の前に差し出されたのは、僕の赤らんだキス顔だった。強請る様な薄目のその顔は、確かに直視できないくらい生々しい。恥ずかしさに絶句した僕に、片桐チーフはまるで仕事の時の様に僕をじっと見つめて言った。

「出来るだろう?俺の期待を裏切るなよ?」










しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

悪魔は微笑みながら嘘をつく

ユーリ
BL
三ヶ月前ーー魔法省での死神対策の仕事中に、悪魔である蓮士はある少年を助けた。どうやら死神に記憶を取られているらしく少年は何も覚えていないがその声に蓮士は聞き覚えがあり、これを利用するしかないと全ての事柄に嘘をついたーー 「お前も悪魔になれれば連れて行けるのに」嘘をつき続ける悪魔×何も知らない記憶喪失の少年「あなたのために、早く思い出したい」ーーたった一曲から始まった悪魔の恋。だから悪魔は微笑みながら嘘をつく。

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

処理中です...