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心境の変化
秘密より実技
ジェイクに女なのかと問われて、僕はどうしたものかと目をすがめた。今のタイミングでは説明する暇も無い。僕はジェイクの手を振り払って、薄く笑って言った。
「ジェイクがそう考えた理由は分かるけどね。とりあえず、後で説明するからさ、僕もう試合だから。」
僕はジェイクの視線を背中に感じながら、気にしないように前だけを見ていた。今の時点でバレたのなら、まぁしょうがない。シドと一緒に説得しよう。そもそもジェイクはラファエルの指示で僕の味方になったんだから、僕がアンドレアだと知っても驚かないよね?
僕は深呼吸して、目の前の対戦相手を見つめた。僕よりずっと背も体格も良い男は、この一年でグッと腕を上げてきた。彼から勝ちをもぎ取るのは正直難しい。
負けても勝っても、僕にはこれが生涯最後の実技になるのかもしれない。だったら思い切りやろう。楽しまないと。僕はニヤリと笑って剣のえを握った。細くてしなる剣は先端が丸く加工されているものの、怪我をしないとは言えない。
僕はリズムよく踏み込んで相手のギリギリの所を攻めた。ガチンコで剣を合わせたら、あっという間に力づくで振り払われるのは目に見えているのだから、僕は身体の柔らかさを最大限に活かして相手のペースに入らないように剣筋を避けた。
最初は優勢だった僕の剣筋も、次第に相手が慣れてくると強い当たりが来て、僕の剣を握った手がビリビリと痺れる様だった。くそっ、やっぱり力では叶わないのか…。そんな僕の背中からシドの声が届いた。
「アル!お前の剣筋を活かせ!」
僕はハッとして、いつの間にか相手のペースになっていた事に気づいた。そうだ、僕なりの剣の道筋があったはずだ。僕は間合いを取ると、もう一度呼吸を落ち着かせて目の前の男の癖を思い出していた。
右効きのこの男は、時々左が無防備になる瞬間がある。僕は相手の得意な方の右側を攻撃しながらその瞬間を待った。そしてついにその時が僕の目の端に捉えられて、僕は不規則なステップを踏んでその左へ剣を突き立てた。その剣先は相手の喉元を捉えて、僕は審判の勝負ありの声を安堵と共に聞いた。
「くそっ、結構いい線行ってたと思ったんだが。アルはちょこまかして俺には捉えきれなかったよ。まったく綺麗な顔してやる事が悪どいんだからな。」
そう言って彼は笑いながら僕をぎゅっと抱きしめた。
僕は防具をつけていたものの、無防備な胸の状況を思い出して、慌てて身体を引き剥がすと相手の胸をパンチして言った。
「お前は手強かったよ。でも僕も負ける訳にいかなかったからな。」
そう話してると、シドとジェイクがやって来た。三人共しばらく試合がないので、僕は眉を顰めるジェイクにサクッと説明しなくちゃならないかとシドを見上げた。
「アル、ジェイクには事情を話すしかないが、今このタイミングで言うべきかはお前次第だ。」
僕は肩をすくめて、二人についてくるように目配せすると、試合の順番待ちをしている観客席の余りひと気が無い場所を選んで座った。さっきの試合のせいで、汗が止まらない。
従者が配っていた布で顔や首を拭うと、僕の言葉を待っているジェイクを見つめて口を開いた。
「はじめまして、ジェイク。僕はラファエル様の許嫁のアンドレアだよ?」
「ジェイクがそう考えた理由は分かるけどね。とりあえず、後で説明するからさ、僕もう試合だから。」
僕はジェイクの視線を背中に感じながら、気にしないように前だけを見ていた。今の時点でバレたのなら、まぁしょうがない。シドと一緒に説得しよう。そもそもジェイクはラファエルの指示で僕の味方になったんだから、僕がアンドレアだと知っても驚かないよね?
僕は深呼吸して、目の前の対戦相手を見つめた。僕よりずっと背も体格も良い男は、この一年でグッと腕を上げてきた。彼から勝ちをもぎ取るのは正直難しい。
負けても勝っても、僕にはこれが生涯最後の実技になるのかもしれない。だったら思い切りやろう。楽しまないと。僕はニヤリと笑って剣のえを握った。細くてしなる剣は先端が丸く加工されているものの、怪我をしないとは言えない。
僕はリズムよく踏み込んで相手のギリギリの所を攻めた。ガチンコで剣を合わせたら、あっという間に力づくで振り払われるのは目に見えているのだから、僕は身体の柔らかさを最大限に活かして相手のペースに入らないように剣筋を避けた。
最初は優勢だった僕の剣筋も、次第に相手が慣れてくると強い当たりが来て、僕の剣を握った手がビリビリと痺れる様だった。くそっ、やっぱり力では叶わないのか…。そんな僕の背中からシドの声が届いた。
「アル!お前の剣筋を活かせ!」
僕はハッとして、いつの間にか相手のペースになっていた事に気づいた。そうだ、僕なりの剣の道筋があったはずだ。僕は間合いを取ると、もう一度呼吸を落ち着かせて目の前の男の癖を思い出していた。
右効きのこの男は、時々左が無防備になる瞬間がある。僕は相手の得意な方の右側を攻撃しながらその瞬間を待った。そしてついにその時が僕の目の端に捉えられて、僕は不規則なステップを踏んでその左へ剣を突き立てた。その剣先は相手の喉元を捉えて、僕は審判の勝負ありの声を安堵と共に聞いた。
「くそっ、結構いい線行ってたと思ったんだが。アルはちょこまかして俺には捉えきれなかったよ。まったく綺麗な顔してやる事が悪どいんだからな。」
そう言って彼は笑いながら僕をぎゅっと抱きしめた。
僕は防具をつけていたものの、無防備な胸の状況を思い出して、慌てて身体を引き剥がすと相手の胸をパンチして言った。
「お前は手強かったよ。でも僕も負ける訳にいかなかったからな。」
そう話してると、シドとジェイクがやって来た。三人共しばらく試合がないので、僕は眉を顰めるジェイクにサクッと説明しなくちゃならないかとシドを見上げた。
「アル、ジェイクには事情を話すしかないが、今このタイミングで言うべきかはお前次第だ。」
僕は肩をすくめて、二人についてくるように目配せすると、試合の順番待ちをしている観客席の余りひと気が無い場所を選んで座った。さっきの試合のせいで、汗が止まらない。
従者が配っていた布で顔や首を拭うと、僕の言葉を待っているジェイクを見つめて口を開いた。
「はじめまして、ジェイク。僕はラファエル様の許嫁のアンドレアだよ?」
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