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心境の変化
寮室を出る日
「…結局僕は自分の本来の身体の運命からは逃れられないね。この一年でどんどん剣の実力を皆に追い抜かされて、敵わなかった。」
僕がそう言うと、シドとジェイクは顔を見合わせて顔を顰めた。ジェイクは呆れた様に言った。
「一体何番だったらアルの気が済んだんだ?お前は十分健闘したと思うけどなぁ。」
僕はギロリとジェイクを睨んで言った。
「どうせ僕が女だからってそんな感想になるんでしょ。僕はせめて10本の指に入りたかったんだ。」
するとシドが僕の荷物を箱にしまいながら言った。
「16番なら十分だろう?ジェイクはギリギリ15番で、お前の彼氏としてのメンツを保てたんだ。」
僕はシドを睨んで口を尖らせた。
「さすが1番の人は余裕しゃくしゃくだね。さぁ、その実力で僕の部屋の荷物を下に運んでね。」
僕は空になりかけたこの部屋をぐるりと見回して呟いた。
「僕、本当にここで一年間過ごすことができたんだね。それって凄く感動ものだよ。やり遂げた自分が誇らしい。それにシドやジェイクの助けあってだって、よく分かってる。ありがとう、二人とも。」
僕たちが笑いながら荷物を箱に詰めていると、開いた扉をノックする人がいた。
「リカルド様!」
今年で卒業するリカルド様は、もう先週この寮を出て行ったはずだったので、僕たちはびっくりしてしまった。扉も開いていて、まさか今の話を聞かれたのではないかと顔を引き攣らせたのは確かだった。
するとリカルド様は、近づいた僕の手を握って言った。
「アルが学院を辞めると聞いてね、居てもたっても居られなかったんだ。一体どう言うことなんだい?まだ一年間あるはずだろう?…国に帰るのかい?」
僕はこんな風に僕を可愛がってくれたリカルド様を、すっかり騙している事に胸を痛めながら頷いた。
「リカルド様にはお世話になりました。本当に僕が慣れない学院生活を軌道に乗せることができたのは、ほとんどリカルド様のお陰です。」
実際リカルド様が贔屓にしている新入生という肩書きが無ければ、ずっとトラブルに巻き込まれていた気がする。するとリカルド様は僕の顔をじっと見つめて言った。
「…最後に、別れの口づけをしても良いかい?きっと君には二度と会えない気がするから。」
僕はリカルド様に、もう一度会えますよとは言えなかった。アンドレアとして顔を合わせても、アルベルトとしてはもう二度と姿を現さないって僕もよく分かっていたから。僕が頷くと、リカルド様は僕を掬う様に抱きしめて、息をつかせぬ口づけをした。
それは決して長くはなかったはずだけど、リカルド様の僕への情愛が感じられた。そして応える事も出来ないと知っている僕らにとっては、切り取られた青春の美しい一瞬の様だった。
薄く開いた瞼の奥の青い眼差しで僕を見つめながら、リカルド様は僕だけに聞こえる様に囁いた。
「…彼より君にもっと早く会えていたら、何か違ったのかな。」
僕がそう言うと、シドとジェイクは顔を見合わせて顔を顰めた。ジェイクは呆れた様に言った。
「一体何番だったらアルの気が済んだんだ?お前は十分健闘したと思うけどなぁ。」
僕はギロリとジェイクを睨んで言った。
「どうせ僕が女だからってそんな感想になるんでしょ。僕はせめて10本の指に入りたかったんだ。」
するとシドが僕の荷物を箱にしまいながら言った。
「16番なら十分だろう?ジェイクはギリギリ15番で、お前の彼氏としてのメンツを保てたんだ。」
僕はシドを睨んで口を尖らせた。
「さすが1番の人は余裕しゃくしゃくだね。さぁ、その実力で僕の部屋の荷物を下に運んでね。」
僕は空になりかけたこの部屋をぐるりと見回して呟いた。
「僕、本当にここで一年間過ごすことができたんだね。それって凄く感動ものだよ。やり遂げた自分が誇らしい。それにシドやジェイクの助けあってだって、よく分かってる。ありがとう、二人とも。」
僕たちが笑いながら荷物を箱に詰めていると、開いた扉をノックする人がいた。
「リカルド様!」
今年で卒業するリカルド様は、もう先週この寮を出て行ったはずだったので、僕たちはびっくりしてしまった。扉も開いていて、まさか今の話を聞かれたのではないかと顔を引き攣らせたのは確かだった。
するとリカルド様は、近づいた僕の手を握って言った。
「アルが学院を辞めると聞いてね、居てもたっても居られなかったんだ。一体どう言うことなんだい?まだ一年間あるはずだろう?…国に帰るのかい?」
僕はこんな風に僕を可愛がってくれたリカルド様を、すっかり騙している事に胸を痛めながら頷いた。
「リカルド様にはお世話になりました。本当に僕が慣れない学院生活を軌道に乗せることができたのは、ほとんどリカルド様のお陰です。」
実際リカルド様が贔屓にしている新入生という肩書きが無ければ、ずっとトラブルに巻き込まれていた気がする。するとリカルド様は僕の顔をじっと見つめて言った。
「…最後に、別れの口づけをしても良いかい?きっと君には二度と会えない気がするから。」
僕はリカルド様に、もう一度会えますよとは言えなかった。アンドレアとして顔を合わせても、アルベルトとしてはもう二度と姿を現さないって僕もよく分かっていたから。僕が頷くと、リカルド様は僕を掬う様に抱きしめて、息をつかせぬ口づけをした。
それは決して長くはなかったはずだけど、リカルド様の僕への情愛が感じられた。そして応える事も出来ないと知っている僕らにとっては、切り取られた青春の美しい一瞬の様だった。
薄く開いた瞼の奥の青い眼差しで僕を見つめながら、リカルド様は僕だけに聞こえる様に囁いた。
「…彼より君にもっと早く会えていたら、何か違ったのかな。」
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