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リットン領への旅路

伯爵は異世界のお父さん

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結局僕は数日寝込んだ後、後遺症などなく無事に生還を果たした。これはもちろん主治医曰く、献身的な伯爵の回復魔法のお陰との事だった。けれども、伯爵は僕の命が助かったのは、ひとえにあの船着場で遭遇した魔剣を持った若者達のお陰だと言うんだ。

どうも僕が意識を失った時に色々なことが起きていたみたいだ。僕は伯爵や護衛長から詳しく話を聞いた。はぁ。僕、死んでたの⁉︎マジヤバ案件じゃないの?そう言えば、何処か暗くて静かな場所に漂っていた感じがあるんだよなぁ。


もしかして臨死体験したのかも!そう目を輝かせて伯爵に報告したら、非常に嫌そうな顔で二度とごめんだと僕の頬を抓られたんだけど…。兵士長も呆れた顔で伯爵にどんなに心配掛けたかと、くどくどお説教されてしまった。

「…伯爵、心配かけてごめんなさい。僕、伯爵に甘えて、つい。僕が今生きてるのは伯爵や皆さんのお陰だって充分分かってるんです。ありがとうございました。」

伯爵は僕をそっと抱き寄せると、言った。


「マモル、お前はもう私の子供のようなものだ。親の私に心配をかけるのはしょうがない。だけど、命を失うような事だけはするんじゃないぞ?お前にとっては右も左も似ている様でも、全く違う世界だ。それをよく胸に留め置いて行動しなさい。」

僕は伯爵が示してくれた親の様な愛情に感激して、ぎゅっと伯爵に抱きつくと言った。

「…はい。気をつけます。僕を守ってくれてありがとうございました、伯爵。」


僕の声は掠れて涙声だったかもしれなかった。でも後ろからも護衛長の鼻を啜る音が聞こえてきたし、誰も気にしてないよね。僕が恥ずかしくなって伯爵から離れると、伯爵は急に大きな声を出して言った。

「そうだ、魔剣で助けてくれたリチャードを待たせているんだ。マモルもお礼が言いたいだろう?それに怪生物ヌルトンについても詳しく聞きたいし。さぁ、別室へ行こう。」


そう言って先に立って歩き出した。伯爵の後をついていきながら、護衛長が僕に伯爵は照れてらっしゃるのだとこっそり教えてくれた事に少し笑った。けれど、僕は伯爵が後見人以上、父親のような存在になってくれた気がして胸が温かくなった。

それにきっとそれは、この世界で生きていくのに大きな助けになってくれるだろうし、何より家族を失った僕には得難い事だった。僕は感謝の気持ちで、獣人の中では細身の伯爵の後ろ姿を見つめていたんだ。



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