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夏の夜

皇太子side夏の夜

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今日は私のための【夏の夜】だ。二年前から、王や王妃には早く自分で好ましい相手を見つけるようにとせっつかれていたが…。結局、誰もピンとくる獣人が居なくて、この日を迎える事になってしまった。

今までは限られた交友関係の中での付き合いだったから、自分でもこの大々的な見合いの宴で少しでも好ましく思える相手が見つかれば良いと思っている。


王からは複数人見繕えと言われているものの、私はどうもそのような獅子的生き様には賛同できないのだ。一人でも良い、心から惹かれる相手と愛し合えたのなら、どんなに人生は美しいものになるだろう。

そんな事を考えながら、私は従者に身支度を整えてもらっていた。

「マックス、今日の夏の夜には、何か話題になっている事はあるかい?」


マックスは手を動かすのを止めずに、話し始めた。

「アスラン様、15年振りの夏の夜については、王都中がいわばお祭り騒ぎになっております。この1~2ヶ月、王都の仕立て屋は満員御礼でございました。これもまた政策のひとつと考える者もいるほどです。

私の従兄弟が仕立て屋をしておりまして、今回タイピンに、真珠を使う者が増えたと申しておりました。」


私はふと、鏡越しにマックスを見つめて言った。

「…それは何を意味しているんだ?単なる流行りなら、私にわざわざ言わないだろう?」

マックスはニヤリと笑って勿体ぶって言った。

「真珠の君です。」

マックスは良くこうやって私を揶揄うのだ。乳母兄弟のせいか、二人だけの時は、マックスには遠慮がなくなる。私は早く続きを言うように片眉を上げた。


「最近王都に、魔法でのコピーでは無い質の良い本物の真珠の流通が増えました。元々は海の宝玉の産地のひとつであるリットン領からの宝玉を真珠と呼ぶようになった事と関係があります。

真珠は形、色、等級、どれをとっても素晴らしいものです。大きさも様々で、それぞれが懐に見合ったものを手に入れる事が出来るようになりました。


それだけ数多く流通してるのです。それと一緒に噂されているのが、真珠の君です。その流通量を増やしたのが若くて美しい真珠の君と呼ばれる獣人だと噂されています。

ただ、それが何者なのか、誰なのかはっきりしないのです。貴族の一員だと言う者も居れば、そうではないと言う者も。ただし、その者はタイピンに真珠を使用しているという事が噂されているんです。


ですから、多くの獣人がそれにあやかろうと、あるいは自分こそが真珠の君であると、タイピンに真珠を使用するのが流行りになったのでございます。

きっと今日、アスラン様の前に、沢山の真珠の君が現れるでしょう。その中に本物の真珠の君が居るかもしれません。」

そう言って、私にウインクしたのだった。私もまたニヤリと笑ってマックスに言った。


「では、今夜の宴では本物の真珠の君を見つけるよう頑張るとしよう。ハハハ。」

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