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プロローグ
顔合わせ
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「ミリアン!まぁ、居なくなってしまったわ。セバスチャン、ミリアンがどこに行ったか知らないかしら。」
シャルレーヌは空っぽになった図書室に本や紙、つけペンが散らかっているのを眺めながら困った様に頬に手を当てた。今日は末っ子のミリアンに自分の婚約者を引き合わせるつもりだったのだ。
年の離れた弟のミリアンが自分の結婚話にあまり賛同していなかったのは気づいていたけれど、まさか逃げ出してしまう程だとは思わなかった。
「シャルレーヌ様、マキシミリアン様が馬で敷地の奥へ向かったのを庭師が見ております。勉強の息抜きに出たのではありませんか?」
シャルレーヌと家令のセバスチャンが話していると、婚約者とその弟ディランが案内された客間から顔を覗かせて顔を見合わせている。
「…マキシミリアンが居ないのですか?もし良かったら私が迎えにいきましょうか。」
そう口を開いたのはディランだった。元々ミリアンとディランは学年こそ違うものの貴族学校の顔見知りだ。利発そうなディランの顔を見つめながら、シャルレーヌは一瞬躊躇しつつも苦笑して頷いた。
シャルレーヌが今日の顔合わせに弟が乗り気でないのを知ったのは、ほんの昨日の事だった。
長期休暇の今、ディランと弟を引き合わせて未来の親族同士、仲良くなれればと思って今回の運びになったのだ。けれどミリアンは、婚約者と一緒にディランも来ると聞いて分かりやすく顔を顰めた。
それほど気が合わないのかとシャルレーヌが尋ねると、ミリアンは言いづらそうに言葉を濁した。
『姉上、誤解させたのなら謝りますが、僕は姉上の結婚話に反対している訳じゃないんです。ちょっとディランが苦手ってだけです。彼は僕を見ると妙に過保護になるって言うか…。
姉上とディランの兄上との縁談が決まってから尚のこと僕を特別扱いするから、まるで僕とディランが何かあるのかととんでもない噂をする人まで現れる始末です。
ほら、ディランはただでさえ見栄えが良くて目立つのに、僕にちょっかい掛けてくるせいで困ってしまって…。』
婚約者同様、金髪で淡いブルーの瞳を持つ見目麗しいディランが自分の可愛い弟に関心があるのだと知って、シャルレーヌは微笑みを浮かべた。辺境伯の血筋を表す柔らかな黒髪がバランスの良い印象的な顔を包み込む弟は、家族で唯一祖母譲りの珍しい灰色の瞳を持っている。
その瞳故に求婚者に事欠かなかった祖母が、国境を守るシャルバン辺境伯だった祖父に溺愛されて結婚したのは有名な話だった。その息子である現辺境伯である父上の末っ子として生まれたミリアンは、幼いと言う理由だけでなく祖母同様人々の目を惹きつける際立つ可愛さがある。
最近では見た目よりも大胆な性格の子供らしい無邪気さを残しながら、どこか大人びた表情を浮かべることもあって、そのアンバランスさが生まれつきの繊細な顔立ちと印象的な瞳をますます魅力的にした。
だから見るからに活発な14歳のディランが、どこか雰囲気のあるミリアンに惹かれる理由も分かるし、12歳の割にまだ幼いところのあるミリアンがその寄せられる感情に戸惑うのも当然と思えた。
『学校じゃ一面的なところしか分からないでしょう?ゆっくり話してみたら案外気が合うかもしれなくてよ?』
少なからず婚約者の弟と仲良くしてもらいたいと言う気持ちもあって、シャルレーヌはそう言って微笑んだ。ミリアンは諦めたように渋々頷いてくれていたのに、やはり気が乗らなかったのか逃げ出してしまったらしかった。
「…お願い出来るかしら。皆で行くよりディランが行って連れ戻してくれた方が早いのは間違いないでしょうから。セバスチャン、パーカーもディランと一緒に行かせてちょうだい。」
従者のパーカーを引き連れてディランが敷地の奥へと馬を走らせていくのを、シャルレーヌは婚約者に寄り添われながら見送った。
「ディランは元気だが強引な事をするような男じゃない。心配ないよ。」
「ええ、そうね。それは心配していないの。心配なのはあの森よ。なぜ今日に限ってあそこに行ったのかしら。行ってはいけないってミリアンも知ってる筈なのに。
やっぱり、私達も後を追った方が良さそうだわ。…嫌な予感がするの。」
シャルレーヌはどこか胸騒ぎがして、怪訝そうな表情を浮かべる婚約者と一緒に馬場へと歩き出した。ああ、何事も無ければいいけど!
シャルレーヌは空っぽになった図書室に本や紙、つけペンが散らかっているのを眺めながら困った様に頬に手を当てた。今日は末っ子のミリアンに自分の婚約者を引き合わせるつもりだったのだ。
年の離れた弟のミリアンが自分の結婚話にあまり賛同していなかったのは気づいていたけれど、まさか逃げ出してしまう程だとは思わなかった。
「シャルレーヌ様、マキシミリアン様が馬で敷地の奥へ向かったのを庭師が見ております。勉強の息抜きに出たのではありませんか?」
シャルレーヌと家令のセバスチャンが話していると、婚約者とその弟ディランが案内された客間から顔を覗かせて顔を見合わせている。
「…マキシミリアンが居ないのですか?もし良かったら私が迎えにいきましょうか。」
そう口を開いたのはディランだった。元々ミリアンとディランは学年こそ違うものの貴族学校の顔見知りだ。利発そうなディランの顔を見つめながら、シャルレーヌは一瞬躊躇しつつも苦笑して頷いた。
シャルレーヌが今日の顔合わせに弟が乗り気でないのを知ったのは、ほんの昨日の事だった。
長期休暇の今、ディランと弟を引き合わせて未来の親族同士、仲良くなれればと思って今回の運びになったのだ。けれどミリアンは、婚約者と一緒にディランも来ると聞いて分かりやすく顔を顰めた。
それほど気が合わないのかとシャルレーヌが尋ねると、ミリアンは言いづらそうに言葉を濁した。
『姉上、誤解させたのなら謝りますが、僕は姉上の結婚話に反対している訳じゃないんです。ちょっとディランが苦手ってだけです。彼は僕を見ると妙に過保護になるって言うか…。
姉上とディランの兄上との縁談が決まってから尚のこと僕を特別扱いするから、まるで僕とディランが何かあるのかととんでもない噂をする人まで現れる始末です。
ほら、ディランはただでさえ見栄えが良くて目立つのに、僕にちょっかい掛けてくるせいで困ってしまって…。』
婚約者同様、金髪で淡いブルーの瞳を持つ見目麗しいディランが自分の可愛い弟に関心があるのだと知って、シャルレーヌは微笑みを浮かべた。辺境伯の血筋を表す柔らかな黒髪がバランスの良い印象的な顔を包み込む弟は、家族で唯一祖母譲りの珍しい灰色の瞳を持っている。
その瞳故に求婚者に事欠かなかった祖母が、国境を守るシャルバン辺境伯だった祖父に溺愛されて結婚したのは有名な話だった。その息子である現辺境伯である父上の末っ子として生まれたミリアンは、幼いと言う理由だけでなく祖母同様人々の目を惹きつける際立つ可愛さがある。
最近では見た目よりも大胆な性格の子供らしい無邪気さを残しながら、どこか大人びた表情を浮かべることもあって、そのアンバランスさが生まれつきの繊細な顔立ちと印象的な瞳をますます魅力的にした。
だから見るからに活発な14歳のディランが、どこか雰囲気のあるミリアンに惹かれる理由も分かるし、12歳の割にまだ幼いところのあるミリアンがその寄せられる感情に戸惑うのも当然と思えた。
『学校じゃ一面的なところしか分からないでしょう?ゆっくり話してみたら案外気が合うかもしれなくてよ?』
少なからず婚約者の弟と仲良くしてもらいたいと言う気持ちもあって、シャルレーヌはそう言って微笑んだ。ミリアンは諦めたように渋々頷いてくれていたのに、やはり気が乗らなかったのか逃げ出してしまったらしかった。
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従者のパーカーを引き連れてディランが敷地の奥へと馬を走らせていくのを、シャルレーヌは婚約者に寄り添われながら見送った。
「ディランは元気だが強引な事をするような男じゃない。心配ないよ。」
「ええ、そうね。それは心配していないの。心配なのはあの森よ。なぜ今日に限ってあそこに行ったのかしら。行ってはいけないってミリアンも知ってる筈なのに。
やっぱり、私達も後を追った方が良さそうだわ。…嫌な予感がするの。」
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