母が死んだ

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母が死んだ

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ある日仕事をしていると突然父からメールが届いた。
「必ず連絡を」
いつにない切羽詰まった感じを受け何事かと思ったが仕事の後でいいという文面からまた入院の話かな?などと思っていた。

しかしそんな文面を受け取ってしまったので仕事にならずその日は早退の形で夕方に仕事を終えた。

帰り道。
しずかな公園に行って父に連絡した。
「驚かずに聞いてくれ」
「母さんが…亡くなっちゃったんだ」

一瞬何言ってんだこの人、と思ったが電話口の声は泣いてるんだか震えてるんだかとにかくただごとじゃないのが伝わってきた。

父が声を振り絞り必死に説明してくれていたが呆然自失でなにも言葉が入ってこなかった。

その日はどうやって家に帰ったのかよく覚えていない。

次の日、意外と冷静に朝の支度をすませ会社に向かった。
会社で上司に直接報告しもろもろの引き継ぎをすませ、その足で実家に向かった。

とにかく実家に向かうバス、電車の中がものすごくきつかった。

変なことをいうかもしれないが実家に着いたら母の死が本当になってしまうのではみたいな思いをずっと抱えていた。

実家についた。

父は笑顔で迎えてくれた。

母の顔をよくみてあげろ、といった。

母は一室に寝かされていた。

自然とその時はなにも思えずただただ呆然としてしまった。

母の死因は急性心不全だそうだ。

買い物に行った帰り、車を運転中に発症し車が変な動きをしているのを警察が発見したらしい。

対向車線を超えず歩道側に車を擦るような形になったのは不幸中の幸いか、また母が迷惑をかけまいと最後の力を振りしぼった結果なのかもしれない。

母は逝ってしまった。

つい数日前まで電話で話していたのに。

最近気に入って聞いているというピアニストyoutuberの CDを予約注文してあげたばっかりだったのに。

その日はなにもする気が起きず寝た。

通夜はなしで家から出棺させてあげたいという父の提案で通夜はしないことになった。

ギリギリまで家に母をいさせてあげたいという父の思いを尊重した。

葬儀は3日後になった。

驚いたのはその間の弔問客の多さだ。

3日で60人近くの客がきた。
母は人が好きで色んな人と関わっていた。

自分の知らない母を知っている人が次から次へときた。

子供の頃遊んだ友人たちも駆けつけてくれた。

ある晩、1人で留守番をすることになった時ふと冷たくなって横たわる母に語りかけた。

仕事のこと生活のことこれから心配なこと。

自然と涙が出た。

涙が止まらなかった。

親孝行などなにもできなかった。

また東京に招待していろんなところに連れて行ってあげたかった。

3日後、葬儀はたんたんと終わった。

葬儀の時色んな人に話しかけられたのだがほとんど上の空でなにも覚えていない。

灰になってしまった母を見てこれで本当にお別れなのかとなにかそんなことを思っていた。

葬儀の次の日、早々に東京に戻ってきた。

このまま実家にいては自分の心が持たないと思った。

東京のアパートにつき暗い部屋に電気をつけると膝から崩れた。
自分でも気がつかないうちに気を張っていたらしい。


俺は生きていてこれからも生きなくてはいけない。

母のいないこの世界を生きていかなくはならない。

とにかく寂しさが襲ってきて気が狂うのかと思った。

母がもういないことを考えるととにかく
寂しい。

幽霊は信じないがこの時ばかりは幽霊でもいいからまた会いたいと思った。

一言言いたいことがあったんだ。

ありがとう。お母さん。って
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