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こよみ

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♯5 空き家の貼り紙

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これは、神奈川県に住むFさん(男性)から聞いた話です。

友人のKさんから「今日の夜、お前の家行っていい?」と電話があり、Fさんも特に用があるわけでは無かったので、二つ返事でOKしたそうです。

家に遊びに来るというので、お酒やおつまみを用意して待っていましたが、19時には着くと言っていたのに来る気配がない。

もしかして事故にでも遭ったのかと心配になってきた頃。

予定より30分も遅れて、ようやくKさんが到着しました。

「遅かったじゃないか。今電話しようか迷ってたよ。」

と言うと、Kさんは「いやー。すまんすまん。」と頭を掻きながら、Fさんの部屋へと入っていく。

「実はさー。Kの家に来るの久しぶりじゃん?ちょっと道に迷っちゃってさ。」

確かにお互い仕事が忙しく、会うのは2ヶ月ぶりぐらいだったそうです。

「それでさー。ちょっと迷ってウロウロしてたら、変な空き家見つけたんだよ。」

すると、おもむろにスマホで撮影した写真を見せてきた。

それは近所でも割と有名な空き家で、玄関の扉や門に『鬼畜生!死ね!』『子供を返せ!』『死んで償え!』などの過激な文言が書かれた貼り紙がされている家の写真でした。

「あー。この辺だと有名だよ。何があったのかは知らないけど。」

「俺さー…この家の中がどうなってんのか気になって、門から覗き込もうとしたんだよね。」

「お前ほんとバカだな。下手したら、不法侵入で捕まるぞ。」

そんな話をしながらKさんが上着を脱ぐと、腕の辺りから紙の切れ端が落ちてきました。

なんだ?と思ってFさんが拾うと、梵字かお経のような…とにかく読むことが出来ないような文字が書かれた紙切れだったそうです。

「こんなの落ちてきたぞ。」とKさんに見せると、家を覗こうとした時に、貼り紙の1部を破いてしまったかもしれないとのことでした。

それから2人は、お酒を飲み話をしていると、Kさんが「気持ち悪い…。」と言い出したそうです。

久しぶりに会って盛り上がった事もあり、かなりのハイペースで飲んでいたので、「吐けるなら、吐いてこいよ。」とトイレに行かせました。

「そうする…。」と立ち上がったKさんでしたが、急に「苦しいいぃぃぃい!」と呻くような声を出して自分の首をガリガリと引っ掻き出したそうです。

そして、今度は自分の首を押さえつけながら苦しむと、その場で嘔吐してしまいました。

するとKさんは「ん゛ん゛ん゛」と自分の口の中に手を突っ込み、喉に引っかかっている何かを取り出していたそうです。

涙目になりがら、Kさんが自力でそれを取り出すと、ぐしゃぐしゃになった紙が出てきたと言います。

しかも、それは1枚では無く、必死にKさんが自力で取り出したと思ったら、また「ん゛ん゛ん゛」と言いながら1枚、また1枚…。

ついには呼吸困難に陥ったのか、もがき苦しみ出したそうです。

唖然としていたFさんでしたが、呼吸が出来なくなっているKさんを見て我に返り、救急車を呼んだあと、Kさんの喉に詰まってる紙を引っ張ったと言います。

何とか詰まってる紙を引き抜いて、もう大丈夫かとKさんの口の中を覗くと、喉の奥にあるはずのない目と、バッチリ目が合ってしまったそうです。

思わずKさんを突き飛ばしてしまったそうですが、もう一度口の中を覗いてみると、もうそこには何も無かったと言います。

それからは、無事に救急車が到着して一命は取り留めたものの、酸欠の状態が長く脳に障害が残ってしまいました。

結局Kさんは精神科に入院することになってしまい、Fさんはもっと早く動いていればという罪悪感からか、中々お見舞いに行けなかったそうです。

それから1ヶ月が過ぎて、そろそろお見舞いに行かなきゃと思っていると、精神科に入院しているKさんから一通の手紙が届きました。

そこには、「きにしないで。Fはわるくない。ありがとう。」と書かれていたそうです。

思わず涙目になりながら、その手紙を封筒に戻そうとした時、その異変に気付きました。

封筒の内側に、びっしりとあの日に見たお経のような梵字のような…読めない文字が、これでもかと言うくらい書いてあったそうです。

それ以来、FさんはKさんと一切の連絡を取って無いと言います。

ちなみに例の空き家なんですが、今でも神奈川県川崎市のとある住宅街にあるそうです。
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