30 / 52
29. 本当の性別
朝、白梅は寝床に横たわった状態で、目が覚めた。
(朔夜が置いてくれたのかな?)
近くの机には、ひとり分の粥が入った椀が、置いてあった。
しかし家の中に、朔夜の姿は無かった。
(どこかに出て行っちゃったのかも……)
白梅が、少し残念に思っていたところ、戸口が開いて、人影が家の中へ入ってきた。
白梅の体は、その突然のことに驚いて、緊張した。
ゆっくりと戸口を跨ぐ人影は、外の風を受けて、さらさらと黒い髪の毛がなびいている。
白梅は、その姿を見て、唖然とした。
その者はすらりと背が高く、衣の上からでも、程よい筋肉をまとった、均整の取れた体つきであることが想像できた。
顔はいつもより少し凛々しい印象を受けるが、肩口でゆるく結ばれた黒髪と、動きのあまり無い表情、そして虹色の瞳は、非常に見覚えがあった。
「さ、朔夜……?」
白梅は後退りながら、わずかに声を上擦らせて、聞いた。
朔夜は、白梅のその反応に訝しげな眼差しを向けながら、寝床に近づいた。
「少し熱が出ていた」
そう呟いた声は、僅かに掠れているが、芯のある静かな低い声だった。
白梅は、目の前の男性を見あげた。
なんと言うか、上手く言えないが、今までの女性時の儚さや危うさのようなものが無くなり、今の姿の方が安定感を感じる。
「体調は?」
朔夜が近づきながらそう聞くと、白梅はさらに後退りながら、質問を重ねた。
「朔夜……もしかして、その姿が本来の姿だったりする?」
朔夜は口元に左手を置き、何かに考えを巡らすように、わずかに間を空けた。
そして、白梅の目を見ながら、至って真面目に頷いた。
白梅は、大変大きな衝撃を受けた。
「え、朔夜は男性だったの……?」
朔夜は、わずかに眉をひそめて答えた。
「元来、私は男だ」
その答えを聞いて、白梅は固まった。
そして、過去に起きた色々な出来事が頭をよぎり、軽く眩暈がした。
昨晩など、肌着姿になって……
そこまで考えたところで、白梅は、自分が元の衣に着替えていることに気がついた。
白梅は思わず、勢いよく立ちあがって、叫んだ。
「もしかして、み、見たの?」
それを聞いた朔夜は、最初は何のことか分からないといった様子だったが、すぐに思い至ったらしく、今更かと言わんばかりに、かぶりを振った。
「目は閉じていた」
そう朔夜が呟いたので、白梅はわずかばかり安心したが、さらに低い声で
「半分」
と続けられてしまったので、白梅は顔を赤めて、思わず、男の体をポコポコと両手で叩いた。
しかし、朔夜のたくましい体幹は、白梅の柔らかい猫パンチなどでは、微動だにしなかった。
今までのことを、走馬灯のように思い出し、白梅の恥ずかしさは頂点に達した。
混乱した白梅は、潤んだ瞳で、朔夜を睨みつけていた。
(女の子だと……思っていたのに……)
もはや頂点に達してしまった白梅は、自分はこんなにいたたまれない気持ちになっているというのに、いつもと変わらないしれっとした表情の朔夜を見て、徐々に腹立たしく思いはじめた。
そしてふいに、目の前の男の弱点を知りたくなり、白梅は朔のとある部位にさっと視線をやると、目にも止まらぬ早さで左足を上げ、そこを目掛けて思いきり蹴りあげてみた。
しかし、相手はそれよりもさらに早く体を逸らし、その攻撃を、軽い身のこなしで避ける。
結果、行き場を失った左足は、見事に虚空を蹴り上げ、頭頂よりもさらに高い位置にとどまり、天空を仰いだ。
「…………」
そのままの姿で、二人はしばらく見つめ合う。
寸刻の後、突然朔夜は白梅の腕を掴むと、するりと背後にまわって、慣れた手つきで羽交い締めにした。
そして、自身の長い片脚を白梅の股の間に通し、上を向いたままの白梅の足に絡ませながら、音も立てず地面に下ろした。
白梅の手と足は、完全に拘束されてしまった。
男の腕の中で、白梅は抜け出そうと何度かもがいたが、拘束する力は強く、びくともしなかったので、抜け出せなかった。
今の自分には無い、逞しい胸板を感じて、力の差を見せつけられた気がした。
白梅は、混乱した頭で反省した。
(きっと、蹴る前に視線をやったのがいけなかったんだ……)
そう考え、次に同じ機会があれば、目線を少し逸らしてから攻撃を仕掛けようと、浅い考えを巡らせた。
白梅の混乱は、その後しばらくの間続いた。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい
歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、
裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会
ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った
全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。
辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)