夜風の紳士と恥じらう純白乙女 〜春告げ唄〜

黒鳥 静漣

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29. 本当の性別


 朝、白梅は寝床に横たわった状態で、目が覚めた。

(朔夜が置いてくれたのかな?)

 近くの机には、ひとり分の粥が入った椀が、置いてあった。
 しかし家の中に、朔夜の姿は無かった。

(どこかに出て行っちゃったのかも……)

 白梅が、少し残念に思っていたところ、戸口が開いて、人影が家の中へ入ってきた。
 白梅の体は、その突然のことに驚いて、緊張した。
 ゆっくりと戸口を跨ぐ人影は、外の風を受けて、さらさらと黒い髪の毛がなびいている。

 白梅は、その姿を見て、唖然とした。

 その者はすらりと背が高く、衣の上からでも、程よい筋肉をまとった、均整の取れた体つきであることが想像できた。

 顔はいつもより少し凛々しい印象を受けるが、肩口でゆるく結ばれた黒髪と、動きのあまり無い表情、そして虹色の瞳は、非常に見覚えがあった。

「さ、朔夜……?」

 白梅は後退りながら、わずかに声を上擦らせて、聞いた。
 朔夜は、白梅のその反応に訝しげな眼差しを向けながら、寝床に近づいた。

「少し熱が出ていた」

 そう呟いた声は、僅かに掠れているが、芯のある静かな低い声だった。

 白梅は、目の前の男性を見あげた。
 なんと言うか、上手く言えないが、今までの女性時の儚さや危うさのようなものが無くなり、今の姿の方が安定感を感じる。

「体調は?」

 朔夜が近づきながらそう聞くと、白梅はさらに後退りながら、質問を重ねた。

「朔夜……もしかして、その姿が本来の姿だったりする?」

 朔夜は口元に左手を置き、何かに考えを巡らすように、わずかに間を空けた。
 そして、白梅の目を見ながら、至って真面目に頷いた。

 白梅は、大変大きな衝撃を受けた。

「え、朔夜は男性だったの……?」

 朔夜は、わずかに眉をひそめて答えた。

「元来、私は男だ」

 その答えを聞いて、白梅は固まった。
 そして、過去に起きた色々な出来事が頭をよぎり、軽く眩暈がした。

 昨晩など、肌着姿になって……

 そこまで考えたところで、白梅は、自分が元の衣に着替えていることに気がついた。
 白梅は思わず、勢いよく立ちあがって、叫んだ。

「もしかして、み、見たの?」

 それを聞いた朔夜は、最初は何のことか分からないといった様子だったが、すぐに思い至ったらしく、今更かと言わんばかりに、かぶりを振った。

「目は閉じていた」

 そう朔夜が呟いたので、白梅はわずかばかり安心したが、さらに低い声で

「半分」

 と続けられてしまったので、白梅は顔を赤めて、思わず、男の体をポコポコと両手で叩いた。
 しかし、朔夜のたくましい体幹は、白梅の柔らかい猫パンチなどでは、微動だにしなかった。

 今までのことを、走馬灯のように思い出し、白梅の恥ずかしさは頂点に達した。

 混乱した白梅は、潤んだ瞳で、朔夜を睨みつけていた。

(女の子だと……思っていたのに……)

 もはや頂点に達してしまった白梅は、自分はこんなにいたたまれない気持ちになっているというのに、いつもと変わらないしれっとした表情の朔夜を見て、徐々に腹立たしく思いはじめた。

 そしてふいに、目の前の男の弱点を知りたくなり、白梅は朔のとある部位にさっと視線をやると、目にも止まらぬ早さで左足を上げ、そこを目掛けて思いきり蹴りあげてみた。

 しかし、相手はそれよりもさらに早く体を逸らし、その攻撃を、軽い身のこなしで避ける。

 結果、行き場を失った左足は、見事に虚空を蹴り上げ、頭頂よりもさらに高い位置にとどまり、天空を仰いだ。

「…………」

 そのままの姿で、二人はしばらく見つめ合う。

 寸刻の後、突然朔夜は白梅の腕を掴むと、するりと背後にまわって、慣れた手つきで羽交い締めにした。
 そして、自身の長い片脚を白梅の股の間に通し、上を向いたままの白梅の足に絡ませながら、音も立てず地面に下ろした。

 白梅の手と足は、完全に拘束されてしまった。

 男の腕の中で、白梅は抜け出そうと何度かもがいたが、拘束する力は強く、びくともしなかったので、抜け出せなかった。
 今の自分には無い、逞しい胸板を感じて、力の差を見せつけられた気がした。

 白梅は、混乱した頭で反省した。

(きっと、蹴る前に視線をやったのがいけなかったんだ……)

 そう考え、次に同じ機会があれば、目線を少し逸らしてから攻撃を仕掛けようと、浅い考えを巡らせた。

 白梅の混乱は、その後しばらくの間続いた。
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