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第四章 二つの桜
二つの桜3
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それからしばらくして、ミナミは美鈴ちゃんに呼び掛けた。
「さて、美鈴ちゃん。探し物は見つかった?」
もうそろそろ引き上げましょうという合図でもあった。美鈴ちゃんは自分の机の中からノートを一冊取りだして、「ありました!」と笑顔で言った。もちろんそれは本当に忘れたものではなく、ついさっき来たときに美鈴ちゃんが自分の手提げ袋から出して、机の中に仕込んだものである。
「見つかったのならもうここ閉めるぞ」
青山先生もなんの疑問も持っていないようだ。美鈴ちゃんの名演技に感謝といったところか。
僕たちは教室をあとにし、青山先生に礼を言って校舎を出た。
「とりあえず、教室を見ることはできたわね」
「どうでした? なにか気になることとかありました?」
校庭を歩きながら、僕たちは先程の教室でのことを話した。美鈴ちゃんの言葉に、ミナミは少し考えてから答えた。
「特別に変わったことはなかったわね。呪いの原因になるようなものも別になかったと思うけど。誠二くんはどう?」
「僕も特に気になったことはありませんでしたけど。まあ、あの桜の絵は印象深かったですけどね」
今も鮮明に浮かんでくる。あの二枚の桜の絵。
「そうね。あの絵は惹きつけられたわ。池沢くんて絵、上手いのね」
「はい。あたしもあれを見たときはすごいなって思いました。もう一人の佐伯百合子ちゃんのもすごく上手いんですよね。どちらが上手いかって、クラスでちょっとした話題になってましたよ。でもあたしはどちらか選べって言われても選べなかったな」
「好みの問題でもあると思うけど、どちらかを選ぶのは難しいわよね」
「二人とも美術部なんですよ。百合子ちゃんのほうは転校生だから、今年からですけど」
「転校生? それって昨日言ってた子?」
「あ、そうなんです。佐伯百合子ちゃんって言うんです」
「確かすごく良い子だって言ってたわよね。それにあんな絵を描く子なら、一度会ってみたいわね」
「きっと百合子ちゃんも、ミナミさんみたいな素敵な人なら会ってみたいって言うと思いますよ!」
何気に美鈴ちゃんはミナミに懐いている。昔からそうだが、ミナミは特に年下からは非常に人気がある。ミナミの姉御肌な部分が、後輩に慕われるのだろうか。
「とりあえず、今日は教室が見られて良かったわ。それでこのあと、昨日のリベンジで池沢くんの家に行こうと思うんだけど。美鈴ちゃん大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
そういうわけで僕たちは来たとき同様、それぞれの自転車に乗ると(ミナミは僕の自転車)、池沢くん宅へと向かった。
池沢家は昨日と変わらず、静かだった。通りも人通りがもともと少ない場所のようで、人の気配はない。
「今日も留守みたいですね」
インターホンを押してしばらく待っていたが、応答は昨日と同様返ってこなかった。
「しょうがないわね。残念だけど、またの機会にしましょうか」
僕たちはそうして池沢家をあとにした。二回来て、二回とも駄目だったことが、少し悔しかった。次こそは会えるだろうか。
帰る間際、なんとなく後ろ髪が引かれる思いがした。
※ ※ ※
今日は学校からテストが返ってきた。私は百点を取って先生にほめられた。叔母さんに見せたら自慢するなと逆に怒られた。千夏のテストはかなり悪かったようだ。しかし、おやつは私だけ抜きにされた。
部屋に戻っても、勉強しかやることがない。唯一の心の拠り所は人形の由美だけだ。
心なしか、前より由美に似てきたような気がする。
(少女の日記15ページ目より)
「さて、美鈴ちゃん。探し物は見つかった?」
もうそろそろ引き上げましょうという合図でもあった。美鈴ちゃんは自分の机の中からノートを一冊取りだして、「ありました!」と笑顔で言った。もちろんそれは本当に忘れたものではなく、ついさっき来たときに美鈴ちゃんが自分の手提げ袋から出して、机の中に仕込んだものである。
「見つかったのならもうここ閉めるぞ」
青山先生もなんの疑問も持っていないようだ。美鈴ちゃんの名演技に感謝といったところか。
僕たちは教室をあとにし、青山先生に礼を言って校舎を出た。
「とりあえず、教室を見ることはできたわね」
「どうでした? なにか気になることとかありました?」
校庭を歩きながら、僕たちは先程の教室でのことを話した。美鈴ちゃんの言葉に、ミナミは少し考えてから答えた。
「特別に変わったことはなかったわね。呪いの原因になるようなものも別になかったと思うけど。誠二くんはどう?」
「僕も特に気になったことはありませんでしたけど。まあ、あの桜の絵は印象深かったですけどね」
今も鮮明に浮かんでくる。あの二枚の桜の絵。
「そうね。あの絵は惹きつけられたわ。池沢くんて絵、上手いのね」
「はい。あたしもあれを見たときはすごいなって思いました。もう一人の佐伯百合子ちゃんのもすごく上手いんですよね。どちらが上手いかって、クラスでちょっとした話題になってましたよ。でもあたしはどちらか選べって言われても選べなかったな」
「好みの問題でもあると思うけど、どちらかを選ぶのは難しいわよね」
「二人とも美術部なんですよ。百合子ちゃんのほうは転校生だから、今年からですけど」
「転校生? それって昨日言ってた子?」
「あ、そうなんです。佐伯百合子ちゃんって言うんです」
「確かすごく良い子だって言ってたわよね。それにあんな絵を描く子なら、一度会ってみたいわね」
「きっと百合子ちゃんも、ミナミさんみたいな素敵な人なら会ってみたいって言うと思いますよ!」
何気に美鈴ちゃんはミナミに懐いている。昔からそうだが、ミナミは特に年下からは非常に人気がある。ミナミの姉御肌な部分が、後輩に慕われるのだろうか。
「とりあえず、今日は教室が見られて良かったわ。それでこのあと、昨日のリベンジで池沢くんの家に行こうと思うんだけど。美鈴ちゃん大丈夫?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
そういうわけで僕たちは来たとき同様、それぞれの自転車に乗ると(ミナミは僕の自転車)、池沢くん宅へと向かった。
池沢家は昨日と変わらず、静かだった。通りも人通りがもともと少ない場所のようで、人の気配はない。
「今日も留守みたいですね」
インターホンを押してしばらく待っていたが、応答は昨日と同様返ってこなかった。
「しょうがないわね。残念だけど、またの機会にしましょうか」
僕たちはそうして池沢家をあとにした。二回来て、二回とも駄目だったことが、少し悔しかった。次こそは会えるだろうか。
帰る間際、なんとなく後ろ髪が引かれる思いがした。
※ ※ ※
今日は学校からテストが返ってきた。私は百点を取って先生にほめられた。叔母さんに見せたら自慢するなと逆に怒られた。千夏のテストはかなり悪かったようだ。しかし、おやつは私だけ抜きにされた。
部屋に戻っても、勉強しかやることがない。唯一の心の拠り所は人形の由美だけだ。
心なしか、前より由美に似てきたような気がする。
(少女の日記15ページ目より)
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