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第五章 葬礼
葬礼3
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「ん? あれ?」
僕は何気なく見ていた写真の中に、意外な人物の姿を見つけて驚いた。
「どうかしましたか?」
多分間違いない。
「この子なんだけど……」
僕はある女子生徒に指を差した。ストレートの長い黒髪。端正な顔立ち。
あの日、橋の上で髪をなびかせていた少女。
「ああ、その子ですよ。うちのクラスに入ってきた転校生。ほら、ちょっと制服が微妙に違うでしょう?」
言われてみれば、セーラー服の襟のラインが他の生徒とは違っていた。他の子は二本の白い線なのに対して、その子のは一本しかなかった。
「この子が昨日話してた佐伯百合子ちゃんですよ。もうひとつの桜の絵の。彼女がどうかしたんですか?」
そう話す美鈴ちゃんは、なにか少し嬉しそうに見えた。
「いや、一度彼女を見かけたことがあってね」
「そうなんですか」
「ふーん。可愛いものねぇ」
ミナミの言い方は、たっぷりと棘が含まれている。
「そ、そういうことではなく! つまりその、池沢くんが例の人形を見たっていうのはあの川沿いでしたよね。その近くの橋の上にいたんですよ」
「それで?」
「いえ、それだけなんですけどね……」
そう。ただそれだけなわけで、今のところ一連の事件との関連性はまったくない。
ただ、僕の中ではここで彼女の写真を見ることになるとは、思いがけないことだったわけで。
「ふうん」
ミナミはそれだけ言って、写真に目を戻した。
あの夕暮れの橋の上の光景が、フラッシュバックして鮮明な記憶として蘇る。
川を見下ろす少女の襟は立ち、細く伸びた白い腕は風になびくように動いた。そしてその腕からは、なにか白いものが落ちていった。
「……なんだったんだろう?」
そのつぶやきは、声に出すつもりのものではなかった。本来聞かれるはずのなかったそのつぶやきは、僕以外の人に聞こえてしまっていた。
「なにが?」
ミナミは再び僕に視線を戻した。
「え? あ、いえ。別になんでもないことなんですけど」
「なんでもないかそうでないかは私が決めることよ」
否を言わせない迫力でそう言われたら、ひとつしか選択肢はなかった。
「つまり彼女は川になにかを投げ落としていたわけね。それでそのなにかはなんだかわからないと」
かいつまんで説明すると、ミナミは訝しむように右手を口元に当てた。
「まあ、それだけのことなんです。別にたいしたことじゃないでしょう?」
「だから、それは私が判断するって言ってるでしょう」
ミナミはそう言って、少し考えるように視線を上に向けた。
「それっていつのこと?」
「そうですね……。夏休みに入る二週間くらい前だったかな。ああ、たぶん7月に入ってすぐくらいだったと思います」
「7月に入ってすぐ、ね」
それを聞いていた熊田が、ふとつぶやいた。
「俺があの人形を見たのと同じくらいかな」
その言葉に、ミナミははっとして熊田の方を振り向いた。そして少し声のトーンを落としてこう訊ねた。
「熊田くん。もしかしてそのとき見た人形、濡れてなかった……?」
「ああ、うん、どうだったかな。そう言われれば……そうだったかもしれないですね。暗かったからはっきりとは覚えてないんですけど」
そのとき、僕はミナミの言いたいことに気付いて衝撃を受けた。胸が脈打ち跳ね返る。耳の奥の鼓動の音が、急に大きくなったみたいだった。しかし、僕の心は激しく否定していた。
違う。そんなはずはない。
彼女がそんなことをするわけがない。
ミナミが再び口を開いた。
「彼女が、川に投げ落としていたなにかっていうのは……」
「それは間違いだ!」
僕は思わず声を荒げていた。
僕は何気なく見ていた写真の中に、意外な人物の姿を見つけて驚いた。
「どうかしましたか?」
多分間違いない。
「この子なんだけど……」
僕はある女子生徒に指を差した。ストレートの長い黒髪。端正な顔立ち。
あの日、橋の上で髪をなびかせていた少女。
「ああ、その子ですよ。うちのクラスに入ってきた転校生。ほら、ちょっと制服が微妙に違うでしょう?」
言われてみれば、セーラー服の襟のラインが他の生徒とは違っていた。他の子は二本の白い線なのに対して、その子のは一本しかなかった。
「この子が昨日話してた佐伯百合子ちゃんですよ。もうひとつの桜の絵の。彼女がどうかしたんですか?」
そう話す美鈴ちゃんは、なにか少し嬉しそうに見えた。
「いや、一度彼女を見かけたことがあってね」
「そうなんですか」
「ふーん。可愛いものねぇ」
ミナミの言い方は、たっぷりと棘が含まれている。
「そ、そういうことではなく! つまりその、池沢くんが例の人形を見たっていうのはあの川沿いでしたよね。その近くの橋の上にいたんですよ」
「それで?」
「いえ、それだけなんですけどね……」
そう。ただそれだけなわけで、今のところ一連の事件との関連性はまったくない。
ただ、僕の中ではここで彼女の写真を見ることになるとは、思いがけないことだったわけで。
「ふうん」
ミナミはそれだけ言って、写真に目を戻した。
あの夕暮れの橋の上の光景が、フラッシュバックして鮮明な記憶として蘇る。
川を見下ろす少女の襟は立ち、細く伸びた白い腕は風になびくように動いた。そしてその腕からは、なにか白いものが落ちていった。
「……なんだったんだろう?」
そのつぶやきは、声に出すつもりのものではなかった。本来聞かれるはずのなかったそのつぶやきは、僕以外の人に聞こえてしまっていた。
「なにが?」
ミナミは再び僕に視線を戻した。
「え? あ、いえ。別になんでもないことなんですけど」
「なんでもないかそうでないかは私が決めることよ」
否を言わせない迫力でそう言われたら、ひとつしか選択肢はなかった。
「つまり彼女は川になにかを投げ落としていたわけね。それでそのなにかはなんだかわからないと」
かいつまんで説明すると、ミナミは訝しむように右手を口元に当てた。
「まあ、それだけのことなんです。別にたいしたことじゃないでしょう?」
「だから、それは私が判断するって言ってるでしょう」
ミナミはそう言って、少し考えるように視線を上に向けた。
「それっていつのこと?」
「そうですね……。夏休みに入る二週間くらい前だったかな。ああ、たぶん7月に入ってすぐくらいだったと思います」
「7月に入ってすぐ、ね」
それを聞いていた熊田が、ふとつぶやいた。
「俺があの人形を見たのと同じくらいかな」
その言葉に、ミナミははっとして熊田の方を振り向いた。そして少し声のトーンを落としてこう訊ねた。
「熊田くん。もしかしてそのとき見た人形、濡れてなかった……?」
「ああ、うん、どうだったかな。そう言われれば……そうだったかもしれないですね。暗かったからはっきりとは覚えてないんですけど」
そのとき、僕はミナミの言いたいことに気付いて衝撃を受けた。胸が脈打ち跳ね返る。耳の奥の鼓動の音が、急に大きくなったみたいだった。しかし、僕の心は激しく否定していた。
違う。そんなはずはない。
彼女がそんなことをするわけがない。
ミナミが再び口を開いた。
「彼女が、川に投げ落としていたなにかっていうのは……」
「それは間違いだ!」
僕は思わず声を荒げていた。
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