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第二話 花の記憶
花の記憶6
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次の日の朝、友恵はいつものバスに乗ってこなかった。休みなのかと思っていたら、学校で友恵の姿を見かけた。きっと私と顔を合わせたくなくて、一本早いバスに乗ったのだろう。私の姿に気づいても、友恵は私に声をかけてこなかった。
クラスが違うため、教室で顔を合わせるようなことはなかったのが、せめてもの救いだった。こんな気まずい気持ちで、一日過ごすのは苦痛だった。しかし、放課後の部活ではさすがに避けてはいられないだろう。
私は部活の時間に、もう一度ちゃんと友恵に説明して謝ろうと思った。しかし、その日の部活に、友恵は姿を現さなかった。
先輩に事情を聞かれたが、私を避けているからなんて言えるわけもなかった。わかりませんと、そう言った。
その翌日も同じだった。バスも一緒に乗らなかったし、部活にも友恵は顔を出さなかった。
駄目だよ友恵。このまま、テニス部を辞めてしまうつもり? 谷村先輩に会えなくなっちゃってもいいの?
友恵が辞めることなんてない。辞めるなら私だ。私がいなくなれば、友恵はテニス部に戻れる。
私はその日のうちにテニス部に退部届けを出した。そして、家に帰って友恵にそのことをメールで報告した。返事は来なかったが、これで友恵がテニス部に戻ってくれればいいと、そう願った。
携帯電話につけていたあのストラップは、今はもうついていない。ベッドの上でストラップのなくなった携帯電話をじっと見ていたら、じわりと涙が溢れてきた。
しばらくして、友恵がテニス部に再び出るようになったことを知った。良かったと心から思った。友恵は本当にテニスが好きだったのだ。私なんかよりずっと。
だから、私の選択はこれで間違ってなかったんだと思った。
夏休みが過ぎても、私と友恵の関係が以前のように戻ることはなかった。
今でも谷村先輩のことを見かけると、少し胸が苦しくなる。でも以前のように、谷村先輩のことで頭が占められるというようなことはなくなった。きっとそのうち、この気持ちも忘れることができるだろう。
そのうち、谷村先輩が以前の彼女と一緒に帰っているところを見かけるようになった。よりを戻したのだろう。それを見ても、思ったよりつらくはなかった。それよりも、友恵のことが気になった。
このことを知って、泣いているのではないだろうか。すぐに立ち直ることができるだろうか。
以前なら、すぐに駆けつけて慰めることもできた。しかしもう今は、以前のようにはできない。谷村先輩が別の人とつきあうことになったからといって、それで私と友恵が簡単に元のように戻れるなんてことにはなれなかった。
冬休みに入ってすぐのその日は、朝から雪が降っていた。空からちらちらと舞い落ちてくる雪片を、私は手に受け止めながら歩いた。手に冷たい感触があり、じわりと解けていく。友恵の家の前まで辿り着き、少し迷って、郵便受けにそれを入れた。
受け取ってくれるといい。そう願って二階にある友恵の部屋を眺めた。
「誕生日おめでとう」
つぶやくようにそう言って、私はそこをあとにした。
クラスが違うため、教室で顔を合わせるようなことはなかったのが、せめてもの救いだった。こんな気まずい気持ちで、一日過ごすのは苦痛だった。しかし、放課後の部活ではさすがに避けてはいられないだろう。
私は部活の時間に、もう一度ちゃんと友恵に説明して謝ろうと思った。しかし、その日の部活に、友恵は姿を現さなかった。
先輩に事情を聞かれたが、私を避けているからなんて言えるわけもなかった。わかりませんと、そう言った。
その翌日も同じだった。バスも一緒に乗らなかったし、部活にも友恵は顔を出さなかった。
駄目だよ友恵。このまま、テニス部を辞めてしまうつもり? 谷村先輩に会えなくなっちゃってもいいの?
友恵が辞めることなんてない。辞めるなら私だ。私がいなくなれば、友恵はテニス部に戻れる。
私はその日のうちにテニス部に退部届けを出した。そして、家に帰って友恵にそのことをメールで報告した。返事は来なかったが、これで友恵がテニス部に戻ってくれればいいと、そう願った。
携帯電話につけていたあのストラップは、今はもうついていない。ベッドの上でストラップのなくなった携帯電話をじっと見ていたら、じわりと涙が溢れてきた。
しばらくして、友恵がテニス部に再び出るようになったことを知った。良かったと心から思った。友恵は本当にテニスが好きだったのだ。私なんかよりずっと。
だから、私の選択はこれで間違ってなかったんだと思った。
夏休みが過ぎても、私と友恵の関係が以前のように戻ることはなかった。
今でも谷村先輩のことを見かけると、少し胸が苦しくなる。でも以前のように、谷村先輩のことで頭が占められるというようなことはなくなった。きっとそのうち、この気持ちも忘れることができるだろう。
そのうち、谷村先輩が以前の彼女と一緒に帰っているところを見かけるようになった。よりを戻したのだろう。それを見ても、思ったよりつらくはなかった。それよりも、友恵のことが気になった。
このことを知って、泣いているのではないだろうか。すぐに立ち直ることができるだろうか。
以前なら、すぐに駆けつけて慰めることもできた。しかしもう今は、以前のようにはできない。谷村先輩が別の人とつきあうことになったからといって、それで私と友恵が簡単に元のように戻れるなんてことにはなれなかった。
冬休みに入ってすぐのその日は、朝から雪が降っていた。空からちらちらと舞い落ちてくる雪片を、私は手に受け止めながら歩いた。手に冷たい感触があり、じわりと解けていく。友恵の家の前まで辿り着き、少し迷って、郵便受けにそれを入れた。
受け取ってくれるといい。そう願って二階にある友恵の部屋を眺めた。
「誕生日おめでとう」
つぶやくようにそう言って、私はそこをあとにした。
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