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第五話 きみとともに
きみとともに3
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「なあ。三組の三田と鈴木つきあってるんだってな」
教室での休み時間、同じクラスの宮内がそんなことを言ってきた。
「へー。そうなんだ」
特別興味もなかったが、宮内が話したくてうずうずしている様子だったので、聞いてやることにした。
「毎日手繋いでいちゃいちゃしてるって。三田のやついいよなぁ」
三田は一年のころ僕と宮内と同じクラスだった。そこそこ顔はいけてたが、中二で女の子とつきあうようになるとは思わなかった。
最近僕の周りで、そんな浮いた話がちょくちょく聞かれるようになってきた。僕も男だし、女の子にそれなりの興味はある。しかし、そんなつきあうとかそういうことを今はまだ考えられない。なんだか自分には遠い次元の話のように思えてしまう。第一、恋愛感情とかいうものを、いまだよくわかってもいないのだ。あの三田が同い年でそういう女の子とつきあうということをしていることが、とても信じられない。
「そういうのって、やっぱりいいものなのか?」
僕がそんなふうに言うと、宮内はきょとんとして僕の顔を見つめてきた。
「そりゃ、いいに決まってるだろ! 孝介はホントお子ちゃまだよなー」
「なっ。僕だってそれなりにだな!」
焦って言い返すが、宮内の言うとおり僕はお子ちゃまなのかもしれない。今は女の子より部活に夢中なのだ。しかし、それでいいと思っている。
「そういえば、沢木さんとはどうなの? いつも仲いいみたいじゃん」
どきりとした。宮内の言う沢木というのは静香のことだ。静香は昔からの幼なじみで、そういう関係とは違う。僕は宮内の言葉を慌てて否定するように言った。
「あいつとは単なる腐れ縁だよ。だいたい僕と静香がそんな関係になるわけがない」
「ふうん。そうなんだ。結構可愛いのにもったいない」
宮内がそんなことを言った。
可愛い? あの静香が?
僕は思わず目を瞬かせた。静香を形容する言葉に、そんな言葉があるなんて思わなかった。
「か、可愛いって……いったいどこが?」
「えー。なんか小動物みたいな感じだし、明るくていいじゃん」
小動物。そう言われればそう思えなくもない。キャンキャン騒ぎ立てる小犬なんて、静香っぽいと言えなくもない。そういう意味の『可愛い』ならなんとなくわかる気もする。いや、犬というより猫か? 人懐こいようでいて、どこか超然としている。いやいや、あれは犬猫なんて可愛いもんじゃない。雌豹とかそういう猛獣なんじゃないか。僕がそんな想像を巡らしていると、宮内が言った。
「たぶん孝介が思ってるより沢木さんて人気高いぜ。気をつけておいたほうがいいかも」
「なにを気をつけるっていうんだ」
宮内の意図していることがよくわからなかった僕はそう訊いた。
「だから、誰かに取られないようにってことだよ」
宮内はそう言うと、にやりと歯を見せて笑った。
宮内の言葉がずっと胸に引っかかったまま、放課後になり、部活動へと向かった。校庭の外周を部員たちとランニングしていると、校庭に陸上部の三田の姿が見えた。部活を終えたあと、鈴木さんと一緒に手を繋いで帰ったりするんだろうか。休みの日はデートしたりして過ごすのだろうか。デートってなにをするんだろう。キスとかそんなこともしたりするんだろうか。そんなことを考え、僕は頭を振った。駄目だ。こんなことを考えていたら部活に身が入らない。やめよう。
ランニングが終わると腹筋、腕立て、階段昇降などのメニューをこなした。しばらくして女子が降りてきたので、入れ替わりで体育館の二階部分にある卓球室へと入っていった。体育館が他の部で使われているときは、こんな感じで女子と交替で卓球室を使うことになっている。卓球室はそれほど広くはないので、そうなるのは仕方がないだろう。
入れ替わるときに静香の姿を見かけ、思わず視線を逸らした。宮内が妙なことを言ったせいで、変に意識してしまう。
なんなんだろう。この変な感じ。
結局今日の練習はずっと身が入らないまま終わった。僕はどうしてしまったんだろう。こんなに部活に集中できないのは初めてだ。
教室での休み時間、同じクラスの宮内がそんなことを言ってきた。
「へー。そうなんだ」
特別興味もなかったが、宮内が話したくてうずうずしている様子だったので、聞いてやることにした。
「毎日手繋いでいちゃいちゃしてるって。三田のやついいよなぁ」
三田は一年のころ僕と宮内と同じクラスだった。そこそこ顔はいけてたが、中二で女の子とつきあうようになるとは思わなかった。
最近僕の周りで、そんな浮いた話がちょくちょく聞かれるようになってきた。僕も男だし、女の子にそれなりの興味はある。しかし、そんなつきあうとかそういうことを今はまだ考えられない。なんだか自分には遠い次元の話のように思えてしまう。第一、恋愛感情とかいうものを、いまだよくわかってもいないのだ。あの三田が同い年でそういう女の子とつきあうということをしていることが、とても信じられない。
「そういうのって、やっぱりいいものなのか?」
僕がそんなふうに言うと、宮内はきょとんとして僕の顔を見つめてきた。
「そりゃ、いいに決まってるだろ! 孝介はホントお子ちゃまだよなー」
「なっ。僕だってそれなりにだな!」
焦って言い返すが、宮内の言うとおり僕はお子ちゃまなのかもしれない。今は女の子より部活に夢中なのだ。しかし、それでいいと思っている。
「そういえば、沢木さんとはどうなの? いつも仲いいみたいじゃん」
どきりとした。宮内の言う沢木というのは静香のことだ。静香は昔からの幼なじみで、そういう関係とは違う。僕は宮内の言葉を慌てて否定するように言った。
「あいつとは単なる腐れ縁だよ。だいたい僕と静香がそんな関係になるわけがない」
「ふうん。そうなんだ。結構可愛いのにもったいない」
宮内がそんなことを言った。
可愛い? あの静香が?
僕は思わず目を瞬かせた。静香を形容する言葉に、そんな言葉があるなんて思わなかった。
「か、可愛いって……いったいどこが?」
「えー。なんか小動物みたいな感じだし、明るくていいじゃん」
小動物。そう言われればそう思えなくもない。キャンキャン騒ぎ立てる小犬なんて、静香っぽいと言えなくもない。そういう意味の『可愛い』ならなんとなくわかる気もする。いや、犬というより猫か? 人懐こいようでいて、どこか超然としている。いやいや、あれは犬猫なんて可愛いもんじゃない。雌豹とかそういう猛獣なんじゃないか。僕がそんな想像を巡らしていると、宮内が言った。
「たぶん孝介が思ってるより沢木さんて人気高いぜ。気をつけておいたほうがいいかも」
「なにを気をつけるっていうんだ」
宮内の意図していることがよくわからなかった僕はそう訊いた。
「だから、誰かに取られないようにってことだよ」
宮内はそう言うと、にやりと歯を見せて笑った。
宮内の言葉がずっと胸に引っかかったまま、放課後になり、部活動へと向かった。校庭の外周を部員たちとランニングしていると、校庭に陸上部の三田の姿が見えた。部活を終えたあと、鈴木さんと一緒に手を繋いで帰ったりするんだろうか。休みの日はデートしたりして過ごすのだろうか。デートってなにをするんだろう。キスとかそんなこともしたりするんだろうか。そんなことを考え、僕は頭を振った。駄目だ。こんなことを考えていたら部活に身が入らない。やめよう。
ランニングが終わると腹筋、腕立て、階段昇降などのメニューをこなした。しばらくして女子が降りてきたので、入れ替わりで体育館の二階部分にある卓球室へと入っていった。体育館が他の部で使われているときは、こんな感じで女子と交替で卓球室を使うことになっている。卓球室はそれほど広くはないので、そうなるのは仕方がないだろう。
入れ替わるときに静香の姿を見かけ、思わず視線を逸らした。宮内が妙なことを言ったせいで、変に意識してしまう。
なんなんだろう。この変な感じ。
結局今日の練習はずっと身が入らないまま終わった。僕はどうしてしまったんだろう。こんなに部活に集中できないのは初めてだ。
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