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第八章 世界の狭間で
世界の狭間で4
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映画や小説などでよくあるタイムトラベルもので、もし織田信長が本能寺で殺されなかったらとか、坂本龍馬が明治以降も生きていたらということを取りざたされたりするが、やはり大きな問題として、過去が大きく変わることによって、現在が変わってしまう、あったはずの現在のあり方が変わってしまうということがある。
タイムパラドックスと呼ばれるこの歴史の書き換えは、世界のありようを根幹から揺るがす出来事と言えるだろう。
「俺たちは、世界を崩壊へと導く要素を含んだ出来事をバグと呼んでいる。タイムパトロールの一番重要な仕事は、そのバグを修正すること。まさか俺自身がそのバグの一つに組み込まれようとは思いもしなかったことだが」
朔夜は話を続けていた。
「バグが起きたのがこの時代の暦でいう西暦2016年10月25日の陽が沈んだ時間。バグが起きたときのため、あらかじめ俺のなかに組み込んであったプログラムが働いてタイムリープが起こった。崩壊を食い止めるため、その日から三日前の日付に戻って修正箇所を探していたのが鈴がしていたことだ。しかし、なぜかこの時代のお前たちまでもが鈴のタイムリーププログラムにも組み込まれてしまっていた。たぶん、俺のなかにいた朔という存在と深く関わっていたことが原因なのだろう」
タイムリーププログラム。まるで信じられないことだが、タイムマシンが発明された世界では、そんなことも可能になっているのかもしれない。
「しかし、一度目の修正では間に合わなかったらしく、再び世界は崩壊した。そして今度は朔のいない世界という、本来あるべき姿に世界を戻した。けれど、それでもバグは起こった。だとしたら、やはり他に考えられる原因はお前たちの存在だ。お前たちの記憶の修正ができていなかったことが、今回のバグの原因だとするなら、すぐにでも手を加えなければならない。そのためにナノマシンをお前の脳に送り込んだのだが、どうやら故障してしまったらしいな」
朔夜はかがんで僕の方へと手を伸ばした。その瞬間を僕は見逃さなかった。
「……っわ!」
ぐいっとその腕を掴み、すばやく立ちあがって朔夜の背後へと回り込んだ。彼の腕を捻りあげ、身動きが取れなくなるよう、もう片方の腕も掴んでそのまま羽交い締めにした。
「朔夜!」
「な、なにをする! 離せ!」
鈴は悲鳴をあげ、朔夜は暴れてもがく。僕はそんな彼らに、なんの感情も込めずにただ一言訊いた。
「事情はわかった。だか、こちらにはこちらの言い分がある。まず、きみたちに訊ねるべきことがある。茜はどこだ? 彼女も僕と一緒だったはずだ。彼女になにか危害を加えるつもりなら、僕はお前になにをするかわからない」
ぐっと腕に力を込め、朔夜を締め上げる。途端に朔夜は苦しげなうめき声をあげた。
「貴様! 古代人の分際で!」
鈴が隠し持っていたらしい小型の銃のようなものを懐から取り出した。しかし僕はそんなものには動じなかった。
「未来の光線銃かなにかか? だが、そのまま撃ってみろ。朔夜にも当たるぞ。それに、僕になにかあったら困るのは、むしろきみたちのほうなんじゃないのか? この世界に僕がいなくなったら、世界の修正どころか崩壊の手助けをすることになるはずだ。だろう?」
僕の言に鈴はたじろぎ、朔夜は舌打ちをした。この場の主導権は今、完全に僕の手に渡ったようだ。
「とりあえず、秋野さん。その銃はこちらに渡してもらおうか。それからゆっくり話をしよう」
鈴は少しの間迷うそぶりを見せていたが、朔夜が促したことで、持っていた銃を地面に置くと、こちらに蹴って寄こした。僕は朔夜を羽交い締めにしたまま、足で銃を近くに寄せると、ゆっくりとそれを拾い上げた。
「さあ、ではもう一度訊ねよう。茜はどこだ? 彼女は無事なんだろう?」
タイムパラドックスと呼ばれるこの歴史の書き換えは、世界のありようを根幹から揺るがす出来事と言えるだろう。
「俺たちは、世界を崩壊へと導く要素を含んだ出来事をバグと呼んでいる。タイムパトロールの一番重要な仕事は、そのバグを修正すること。まさか俺自身がそのバグの一つに組み込まれようとは思いもしなかったことだが」
朔夜は話を続けていた。
「バグが起きたのがこの時代の暦でいう西暦2016年10月25日の陽が沈んだ時間。バグが起きたときのため、あらかじめ俺のなかに組み込んであったプログラムが働いてタイムリープが起こった。崩壊を食い止めるため、その日から三日前の日付に戻って修正箇所を探していたのが鈴がしていたことだ。しかし、なぜかこの時代のお前たちまでもが鈴のタイムリーププログラムにも組み込まれてしまっていた。たぶん、俺のなかにいた朔という存在と深く関わっていたことが原因なのだろう」
タイムリーププログラム。まるで信じられないことだが、タイムマシンが発明された世界では、そんなことも可能になっているのかもしれない。
「しかし、一度目の修正では間に合わなかったらしく、再び世界は崩壊した。そして今度は朔のいない世界という、本来あるべき姿に世界を戻した。けれど、それでもバグは起こった。だとしたら、やはり他に考えられる原因はお前たちの存在だ。お前たちの記憶の修正ができていなかったことが、今回のバグの原因だとするなら、すぐにでも手を加えなければならない。そのためにナノマシンをお前の脳に送り込んだのだが、どうやら故障してしまったらしいな」
朔夜はかがんで僕の方へと手を伸ばした。その瞬間を僕は見逃さなかった。
「……っわ!」
ぐいっとその腕を掴み、すばやく立ちあがって朔夜の背後へと回り込んだ。彼の腕を捻りあげ、身動きが取れなくなるよう、もう片方の腕も掴んでそのまま羽交い締めにした。
「朔夜!」
「な、なにをする! 離せ!」
鈴は悲鳴をあげ、朔夜は暴れてもがく。僕はそんな彼らに、なんの感情も込めずにただ一言訊いた。
「事情はわかった。だか、こちらにはこちらの言い分がある。まず、きみたちに訊ねるべきことがある。茜はどこだ? 彼女も僕と一緒だったはずだ。彼女になにか危害を加えるつもりなら、僕はお前になにをするかわからない」
ぐっと腕に力を込め、朔夜を締め上げる。途端に朔夜は苦しげなうめき声をあげた。
「貴様! 古代人の分際で!」
鈴が隠し持っていたらしい小型の銃のようなものを懐から取り出した。しかし僕はそんなものには動じなかった。
「未来の光線銃かなにかか? だが、そのまま撃ってみろ。朔夜にも当たるぞ。それに、僕になにかあったら困るのは、むしろきみたちのほうなんじゃないのか? この世界に僕がいなくなったら、世界の修正どころか崩壊の手助けをすることになるはずだ。だろう?」
僕の言に鈴はたじろぎ、朔夜は舌打ちをした。この場の主導権は今、完全に僕の手に渡ったようだ。
「とりあえず、秋野さん。その銃はこちらに渡してもらおうか。それからゆっくり話をしよう」
鈴は少しの間迷うそぶりを見せていたが、朔夜が促したことで、持っていた銃を地面に置くと、こちらに蹴って寄こした。僕は朔夜を羽交い締めにしたまま、足で銃を近くに寄せると、ゆっくりとそれを拾い上げた。
「さあ、ではもう一度訊ねよう。茜はどこだ? 彼女は無事なんだろう?」
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