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第九章 終わりの終わり
終わりの終わり4
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「高校に入学したとき、クラスにいたそいつは、顔をくしゃくしゃにするくらいの笑顔が印象的なやつだった。栗色のくせっ毛はなんとなく愛嬌があって、彼によく似合っていた」
京が大切な思い出をなぞるように、そんな話をする。
そんな彼と私たちは自然と仲良くなり、くだらないことをしゃべったり、一緒に帰ったりするようになっていったのだという。
「無駄だ。いくらあがこうが、彼女の記憶は戻らない。そんな話をしたって意味などない」
サクヤという人物が京にそんな忠告を言い放つが、京はそれを聞く耳はないようで、構わずに話を続ける。
「彼は陸上部に入っていて、いつも走っていた。食いしん坊で子供みたいで、けれどどこか憎めないところがあるやつだった」
京の表情が柔らかくほころぶ。それを見て、なぜだか胸の奥がちくりとした。
「一緒にいてとても楽しかった」
そんな記憶、私は知らない。京の言う思い出は、私とは重ならない。
「そんな彼と過ごす時間が当たり前となって。ずっとそんな日々が続くのだと僕たちは思っていた。いつも一緒だった。僕たち三人は」
「……知らない。わからない。私たちは二人だった。そこにもう一人いただなんて……」
「焦らなくていい。茜。あの日、茜が寝坊してバスに乗り遅れそうになった日、サクはお前の持っていたフリスクを全部食べておいて、腹の足しにならないと文句を言った。覚えてるか?」
思わずくすりと私は笑う。
「なにそれ? 確かに私はいつもフリスクを常備しているけど、そんなの普通全部食べる? 馬鹿じゃん、そいつ」
「そう。馬鹿なんだ。サクは。じゃあこれは覚えているか? 英語の小テストが返ってきたとき、僕は満点だったが、茜とサクは撃沈していた。そのせいで、なぜか二人で結託していたこと」
「ええ? じゃ、私と一緒でその人も英語苦手だったんだ? なんか親近感」
まだ思い出せないけれど、私は京がその人の話をするのを聞いているのが楽しくなってきていた。
「なら、これは? 朝陽公園で三人で待ち合わせしたとき、現れたサクの髪の毛が盛大な寝癖で爆発していたこと」
「あっはははは! なにそれー。超面白いじゃんその人! 知ってたら絶対友達になれると思うー」
思わず声をあげて笑った私に、京も嬉しそうな笑みを浮かべて言う。
「友達だったんだよ。そいつと僕たちは」
それを聞いて、私はどきりとした。そして同時に、なぜかとてつもない焦燥感にかられた。
あれ?
なんでだろう。
胸にぽっかりと空洞が開いてしまっているような。
「きみの記憶は機械によって書き換えられたかもしれないけれど、胸に宿った大切なものは、きっとどんな技術を使ったとしても、変えられない」
「その人のこと、思い出せない……。だけど……」
胸に急速に広がるのは、たったひとつの思い。
どうしようもなく突き上げる、その気持ち。
「思い出したい」
記憶にないその友人は。
くせっ毛の食いしん坊で。
陸上部に入っていて。
勉強はそんなに得意じゃないけど。
どこか憎めない明るさで。
「みんなで茜のおばあちゃんちに泊まりにも行ったぞ」
「おばあちゃんちに? そうだったっけ?」
「一緒に夕飯をご馳走になって、サクのやつは遠慮もなしに一人でめちゃくちゃ食べてた」
……そう、かも。
あばあちゃんちで夕飯食べたとき、出したそばから料理がなくなっていった……。
「僕が将棋であいつに負けて……それから一緒に星を眺めた」
美しい星空を私たちは眺めた。そこにいたのは、私と京。……だけじゃない?
「海ではしゃいで、三人ともずぶ濡れになったこともある」
「え……? 待って。なんで? 確かに京と海に行った。でも、京が自ら海に入ってはしゃぐなんて……」
ありえない。私が誘ったって、そう簡単に京がそんなことをするとも思えない。
「もしかして、その人のせい……?」
「そう。きみの記憶には欠如した部分があるはずだ。どうしたって、改ざんできない記憶の綻びがあるはず。そこにサクの記憶を嵌め込めば……」
京の言葉は、きっと空想なんかじゃない。彼がそこまで言うのなら、きっとその人は本当にいたのだろう。
なのに、なぜ。
なぜ私は彼の名前を思い出せないのだろう。その顔を思い出せないのだろう。
京が語った彼の思い出を自分の記憶だと言い聞かせてみるが、どうしても今ある自分の記憶と重ならなかった。
知らない。そんな男の子、私は知らない。
私の隣にそんな男の子が座っていた? 本当に?
「サクは僕たちとずっと一緒だった。茜。未来人の思い通りに黙って記憶を塗り替えられることはない。きみにならできるはずだ。きみのなかにもきっとサクの記憶がまだどこかに眠っているはずだ」
京が必死に私に訴える。
サク?
それがその男の子の名前?
本当に、私はその男の子のことを知っているの?
「もう少しだ。絶対にきみは彼のことを思い出せる。僕が一緒に思い出させる。だから、あきらめないでくれ」
あきらめないで。京の言葉に、私は今度こそ真剣にうなずいた。
幽霊になっていたときに拾い集めていた記憶の欠片。
拾っていくうちに、いつの間にか抜け落ちてしまっていた私の記憶。
でも、さっき京が懸命に私が落としたその記憶の欠片を探してくれた。
大切な記憶の欠片を、私に見せてくれた。
その人は。
くせっ毛で、食いしん坊で。
勉強は少し苦手だけど、とても明るくて楽しい人で。
少しずつ少しずつ。
想像の中で、彼の輪郭を形作っていく。
はめをはずしすぎて危なっかしいところもあるけれど。
実は友達思いで。
優しいところもあって。
一つひとつ、パズルのピースを嵌め込むように。
私は空白の記憶に、彼の記憶を埋めていく。
最初は違和感があった。けれど、すぐにそれは私の記憶に溶け込み、馴染んでいった。
「大丈夫だ。茜なら。もうすぐ思い出せるはずだ」
「うん。なんか……もう少しでわかりそうな気がする……」
「本当か!?」
「うん。なんだっけ。その人の名前」
「サク。サクだよ。朔月の朔」
「サク。……朔」
そのとき、京が彼の後方に向かって叫んだ。
「朔! そこにいるんだろう? お前も黙ってないで、さっさと出てこいよ!」
「な、なにを言っている? 別人格はもう俺の意識の統制下にある。表に出てこられるわけないだろう!」
サクヤが慌てたように狼狽した声を出す。
「朔! 僕たちはお前を必死で捜してたんだ! 僕はどうしてもお前に訊かなくちゃいけないことがある! だから……っ」
京の魂の声を、そのとき私は聞いた。
「もう一度、僕たちの前に姿を見せてくれ!」
それを聞いた瞬間、私の全身の細胞が震えた。
怒濤のように、すべてを思い出した。
教室のなかで。
校庭の端っこで。
放課後の帰り道で。
凪いだ海辺で。
彼はいつも笑っていた。
私たちの幸せの中心に、彼はいた。
「ああ……」
滂沱と涙が溢れる。
そうだ。
彼は私たちの大切な――。
「――朔!!」
私はようやく彼のことを見つけた。
ずっとすぐそこにいたのに、どうしてわからなかったんだろう。
「朔、私たち、ずっとあなたのことを捜してたんだよ!」
彼は、はっと目を見開くと、しばらくなにが起きたかわからない様子で周囲を見回した。それから私たちの姿を認めると、ゆっくりと口を開いた。
「…………あれ? 茜、京、俺……」
すぐに朔本人だとわかった。先程までとは違う澄んだ瞳のなかに、朔の持つ輝きの色があった。
「え? 朔夜? ちょ、嘘でしょう? なんでまた……」
鈴が慌てた声を出す。彼女もまた、隣にいるのが朔夜と呼ばれていた人物とは別人だということを悟ったようだ。
私と京はすぐに朔の元に駆け寄る。再びこの三人が揃うのが、随分久しぶりのような気がした。
「京も茜も、なんで二人して泣いてんだよ。……てゆうか、なんかいろいろ迷惑かけちまったみたいだな」
朔は後ろ頭を手で掻きながら、居心地悪そうに困り顔を見せていた。
「本当だよ。急にいなくなったと思ったら、別人になってたり、こんな変な場所に来ちゃってたり……」
「まったくだ。朔の無茶苦茶に付き合わされるのも慣れたと思っていたが、さすがに今度ばかりは苦労したぞ。だが、またこうして再会できて本当によかった」
朔に文句を言いながらも、彼がここにいることの幸せを感じていた。京もきっとそうだろう。
「それで、さっそくだが、僕はお前にまだ訊いていないことがある。また突然いなくなられる前に、今訊いておきたい」
再会の喜びに浸るのも束の間、京がそんなことを言い出した。
「え? ここで? うわあ、京ってば意外と大胆だな~」
「真面目な話だ。ここまで散々迷惑かけたことがわかっているならちゃかすんじゃない」
「は、はい」
京の迫力に、さすがの朔も殊勝に返事をする。こんな二人の他愛ないやりとりの様子だけで、心がぽうっと温かくなる。
「では訊く。お前の好きな人は誰なんだ? この前約束したよな? 僕の告白のときにそれを教えるって」
直截すぎるほどの問いかけに、朔もまたためらわずに答えた。
「もちろん茜だよ」
一瞬なんの話かわからずに、私はきょとんとしていた。
「そうか。ならなぜ僕に告白をしろと迫った? 僕はそれでいくとお前のライバルということになるんじゃないのか?」
「うん。まあ、だけどさ。俺が京を応援したいって気持ちも本当だし? どっちかっていうと、京のが幸せにしてくれそうな感じもあるし」
「朔、お、お前っ。そんな大事なことまで、そんな適当な考えで……?」
「適当なわけじゃないって。本当に俺は二人には幸せになってほしいと思ってて。京の気持ちには絶対勝てそうにもないし」
「それは僕に遠慮しているとかそういうことか? だったら……」
「あ! なんだ、京。そんなこと気にしてたのかよ。ほんっとお前って馬鹿がつくほど真面目だな~。だったら今から同時にすりゃいいじゃん。告白」
「え? 同時に? そ、そうか。まあ、お前がそう言うならそれでもいいのか……」
まるきり話が見えず、私は目をぱちくりとさせるばかりだ。
なに? なんの話?
聞き間違いだと思うけど、さっき朔の好きな人がどうとか言ってたような……。そしてそのライバルが京?
「茜」
突然京がこちらを振り向き、一緒に朔もこちらに目を向けた。
なんとなくここから逃げ出したいような雰囲気が満ちている気がするが、どうやっても逃げられない雰囲気もある。ここはもう覚悟を決めるしかなさそうだった。
「は、はい。なんでしょう?」
笑顔はきっと引きつってしまっていることだろう。なれない雰囲気に背筋がむずむずする。
「僕は」
「俺は」
二人が同時に私に向けて声を発した。二人の真剣な表情に心臓の音が高鳴る。
「「きみのことが好きだ」」
京が大切な思い出をなぞるように、そんな話をする。
そんな彼と私たちは自然と仲良くなり、くだらないことをしゃべったり、一緒に帰ったりするようになっていったのだという。
「無駄だ。いくらあがこうが、彼女の記憶は戻らない。そんな話をしたって意味などない」
サクヤという人物が京にそんな忠告を言い放つが、京はそれを聞く耳はないようで、構わずに話を続ける。
「彼は陸上部に入っていて、いつも走っていた。食いしん坊で子供みたいで、けれどどこか憎めないところがあるやつだった」
京の表情が柔らかくほころぶ。それを見て、なぜだか胸の奥がちくりとした。
「一緒にいてとても楽しかった」
そんな記憶、私は知らない。京の言う思い出は、私とは重ならない。
「そんな彼と過ごす時間が当たり前となって。ずっとそんな日々が続くのだと僕たちは思っていた。いつも一緒だった。僕たち三人は」
「……知らない。わからない。私たちは二人だった。そこにもう一人いただなんて……」
「焦らなくていい。茜。あの日、茜が寝坊してバスに乗り遅れそうになった日、サクはお前の持っていたフリスクを全部食べておいて、腹の足しにならないと文句を言った。覚えてるか?」
思わずくすりと私は笑う。
「なにそれ? 確かに私はいつもフリスクを常備しているけど、そんなの普通全部食べる? 馬鹿じゃん、そいつ」
「そう。馬鹿なんだ。サクは。じゃあこれは覚えているか? 英語の小テストが返ってきたとき、僕は満点だったが、茜とサクは撃沈していた。そのせいで、なぜか二人で結託していたこと」
「ええ? じゃ、私と一緒でその人も英語苦手だったんだ? なんか親近感」
まだ思い出せないけれど、私は京がその人の話をするのを聞いているのが楽しくなってきていた。
「なら、これは? 朝陽公園で三人で待ち合わせしたとき、現れたサクの髪の毛が盛大な寝癖で爆発していたこと」
「あっはははは! なにそれー。超面白いじゃんその人! 知ってたら絶対友達になれると思うー」
思わず声をあげて笑った私に、京も嬉しそうな笑みを浮かべて言う。
「友達だったんだよ。そいつと僕たちは」
それを聞いて、私はどきりとした。そして同時に、なぜかとてつもない焦燥感にかられた。
あれ?
なんでだろう。
胸にぽっかりと空洞が開いてしまっているような。
「きみの記憶は機械によって書き換えられたかもしれないけれど、胸に宿った大切なものは、きっとどんな技術を使ったとしても、変えられない」
「その人のこと、思い出せない……。だけど……」
胸に急速に広がるのは、たったひとつの思い。
どうしようもなく突き上げる、その気持ち。
「思い出したい」
記憶にないその友人は。
くせっ毛の食いしん坊で。
陸上部に入っていて。
勉強はそんなに得意じゃないけど。
どこか憎めない明るさで。
「みんなで茜のおばあちゃんちに泊まりにも行ったぞ」
「おばあちゃんちに? そうだったっけ?」
「一緒に夕飯をご馳走になって、サクのやつは遠慮もなしに一人でめちゃくちゃ食べてた」
……そう、かも。
あばあちゃんちで夕飯食べたとき、出したそばから料理がなくなっていった……。
「僕が将棋であいつに負けて……それから一緒に星を眺めた」
美しい星空を私たちは眺めた。そこにいたのは、私と京。……だけじゃない?
「海ではしゃいで、三人ともずぶ濡れになったこともある」
「え……? 待って。なんで? 確かに京と海に行った。でも、京が自ら海に入ってはしゃぐなんて……」
ありえない。私が誘ったって、そう簡単に京がそんなことをするとも思えない。
「もしかして、その人のせい……?」
「そう。きみの記憶には欠如した部分があるはずだ。どうしたって、改ざんできない記憶の綻びがあるはず。そこにサクの記憶を嵌め込めば……」
京の言葉は、きっと空想なんかじゃない。彼がそこまで言うのなら、きっとその人は本当にいたのだろう。
なのに、なぜ。
なぜ私は彼の名前を思い出せないのだろう。その顔を思い出せないのだろう。
京が語った彼の思い出を自分の記憶だと言い聞かせてみるが、どうしても今ある自分の記憶と重ならなかった。
知らない。そんな男の子、私は知らない。
私の隣にそんな男の子が座っていた? 本当に?
「サクは僕たちとずっと一緒だった。茜。未来人の思い通りに黙って記憶を塗り替えられることはない。きみにならできるはずだ。きみのなかにもきっとサクの記憶がまだどこかに眠っているはずだ」
京が必死に私に訴える。
サク?
それがその男の子の名前?
本当に、私はその男の子のことを知っているの?
「もう少しだ。絶対にきみは彼のことを思い出せる。僕が一緒に思い出させる。だから、あきらめないでくれ」
あきらめないで。京の言葉に、私は今度こそ真剣にうなずいた。
幽霊になっていたときに拾い集めていた記憶の欠片。
拾っていくうちに、いつの間にか抜け落ちてしまっていた私の記憶。
でも、さっき京が懸命に私が落としたその記憶の欠片を探してくれた。
大切な記憶の欠片を、私に見せてくれた。
その人は。
くせっ毛で、食いしん坊で。
勉強は少し苦手だけど、とても明るくて楽しい人で。
少しずつ少しずつ。
想像の中で、彼の輪郭を形作っていく。
はめをはずしすぎて危なっかしいところもあるけれど。
実は友達思いで。
優しいところもあって。
一つひとつ、パズルのピースを嵌め込むように。
私は空白の記憶に、彼の記憶を埋めていく。
最初は違和感があった。けれど、すぐにそれは私の記憶に溶け込み、馴染んでいった。
「大丈夫だ。茜なら。もうすぐ思い出せるはずだ」
「うん。なんか……もう少しでわかりそうな気がする……」
「本当か!?」
「うん。なんだっけ。その人の名前」
「サク。サクだよ。朔月の朔」
「サク。……朔」
そのとき、京が彼の後方に向かって叫んだ。
「朔! そこにいるんだろう? お前も黙ってないで、さっさと出てこいよ!」
「な、なにを言っている? 別人格はもう俺の意識の統制下にある。表に出てこられるわけないだろう!」
サクヤが慌てたように狼狽した声を出す。
「朔! 僕たちはお前を必死で捜してたんだ! 僕はどうしてもお前に訊かなくちゃいけないことがある! だから……っ」
京の魂の声を、そのとき私は聞いた。
「もう一度、僕たちの前に姿を見せてくれ!」
それを聞いた瞬間、私の全身の細胞が震えた。
怒濤のように、すべてを思い出した。
教室のなかで。
校庭の端っこで。
放課後の帰り道で。
凪いだ海辺で。
彼はいつも笑っていた。
私たちの幸せの中心に、彼はいた。
「ああ……」
滂沱と涙が溢れる。
そうだ。
彼は私たちの大切な――。
「――朔!!」
私はようやく彼のことを見つけた。
ずっとすぐそこにいたのに、どうしてわからなかったんだろう。
「朔、私たち、ずっとあなたのことを捜してたんだよ!」
彼は、はっと目を見開くと、しばらくなにが起きたかわからない様子で周囲を見回した。それから私たちの姿を認めると、ゆっくりと口を開いた。
「…………あれ? 茜、京、俺……」
すぐに朔本人だとわかった。先程までとは違う澄んだ瞳のなかに、朔の持つ輝きの色があった。
「え? 朔夜? ちょ、嘘でしょう? なんでまた……」
鈴が慌てた声を出す。彼女もまた、隣にいるのが朔夜と呼ばれていた人物とは別人だということを悟ったようだ。
私と京はすぐに朔の元に駆け寄る。再びこの三人が揃うのが、随分久しぶりのような気がした。
「京も茜も、なんで二人して泣いてんだよ。……てゆうか、なんかいろいろ迷惑かけちまったみたいだな」
朔は後ろ頭を手で掻きながら、居心地悪そうに困り顔を見せていた。
「本当だよ。急にいなくなったと思ったら、別人になってたり、こんな変な場所に来ちゃってたり……」
「まったくだ。朔の無茶苦茶に付き合わされるのも慣れたと思っていたが、さすがに今度ばかりは苦労したぞ。だが、またこうして再会できて本当によかった」
朔に文句を言いながらも、彼がここにいることの幸せを感じていた。京もきっとそうだろう。
「それで、さっそくだが、僕はお前にまだ訊いていないことがある。また突然いなくなられる前に、今訊いておきたい」
再会の喜びに浸るのも束の間、京がそんなことを言い出した。
「え? ここで? うわあ、京ってば意外と大胆だな~」
「真面目な話だ。ここまで散々迷惑かけたことがわかっているならちゃかすんじゃない」
「は、はい」
京の迫力に、さすがの朔も殊勝に返事をする。こんな二人の他愛ないやりとりの様子だけで、心がぽうっと温かくなる。
「では訊く。お前の好きな人は誰なんだ? この前約束したよな? 僕の告白のときにそれを教えるって」
直截すぎるほどの問いかけに、朔もまたためらわずに答えた。
「もちろん茜だよ」
一瞬なんの話かわからずに、私はきょとんとしていた。
「そうか。ならなぜ僕に告白をしろと迫った? 僕はそれでいくとお前のライバルということになるんじゃないのか?」
「うん。まあ、だけどさ。俺が京を応援したいって気持ちも本当だし? どっちかっていうと、京のが幸せにしてくれそうな感じもあるし」
「朔、お、お前っ。そんな大事なことまで、そんな適当な考えで……?」
「適当なわけじゃないって。本当に俺は二人には幸せになってほしいと思ってて。京の気持ちには絶対勝てそうにもないし」
「それは僕に遠慮しているとかそういうことか? だったら……」
「あ! なんだ、京。そんなこと気にしてたのかよ。ほんっとお前って馬鹿がつくほど真面目だな~。だったら今から同時にすりゃいいじゃん。告白」
「え? 同時に? そ、そうか。まあ、お前がそう言うならそれでもいいのか……」
まるきり話が見えず、私は目をぱちくりとさせるばかりだ。
なに? なんの話?
聞き間違いだと思うけど、さっき朔の好きな人がどうとか言ってたような……。そしてそのライバルが京?
「茜」
突然京がこちらを振り向き、一緒に朔もこちらに目を向けた。
なんとなくここから逃げ出したいような雰囲気が満ちている気がするが、どうやっても逃げられない雰囲気もある。ここはもう覚悟を決めるしかなさそうだった。
「は、はい。なんでしょう?」
笑顔はきっと引きつってしまっていることだろう。なれない雰囲気に背筋がむずむずする。
「僕は」
「俺は」
二人が同時に私に向けて声を発した。二人の真剣な表情に心臓の音が高鳴る。
「「きみのことが好きだ」」
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