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二人の距離
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鋼美紅は、出水晶汰に惚れている。
美紅が彼の存在を知ったのは高校一年生になって少し経ったゴールデンウイークの直前だ。必ずどこかには所属しなくてはならない部活動を決めかねてふと教室から校庭を眺めたとき、彼はふわりと宙を舞っていた。棒高跳びの選手らしい。素人が見てもすごく綺麗なフォームで、もちろんバーも動いていない。
――人って、あんなふうに跳べるんだ……。
もっと間近で見てみたいと思ったときには、入部届けに陸上部と書いていた。美紅の運動神経はお世辞でも優秀とは言えない。むしろ、成績は悪い。それでも、美紅は彼を見ていたいがために望んだ。
結局は、マネージャーとして落ち着いたのだけども。
完全に一目惚れだった。
出水晶汰は美紅と同じ学年で隣のクラスの人気者。中学時代は棒高跳びで全国大会まで進んだことがあるらしい。
できるならこういう話は本人から直接聞きたかったのだけど、美紅は他の人を介して情報を手に入れる。なぜなら、晶汰を前にすると舞い上がってしまってドジを踏むからだ。
マネージャーとして晶汰と接するときでも意識してしまい、彼にいろいろと迷惑を掛けた。だけどそのたびに「ドンマイ」とか「深呼吸してから行動すると良いよ」だとか、爽やかな笑顔で許してくれる。誰にでもそんな調子の彼なのだけど、美紅にはそれがとても嬉しかった。
夏の大会のとき、彼がお守りのような物を大事に握り締めて成功を祈っている場面に遭遇した。さすがに精神統一をしているだろうところに話し掛けるわけにはいかない。タイミングを見計らっていたら大会は終わっていた。
好成績をおさめて帰宅する電車の中、帰り道が同じで二人きりになった。なので、それとなくあのとき何をしていたのか訊ねた。
「あぁ、あれはね……」
少し恥ずかしそうにして、晶汰は言いよどんだ。美紅が黙ったまま様子を窺っていると、彼はスポーツバッグの中から薄汚れたフェルトの巾着袋を取り出した。手のひらにすっぽり収まるくらいのサイズで、中に何かが入っているらしくふっくらと盛り上がっている。
「――悪い気を祓って、運が巡って来ますようにっていうおまじないなんだ」
美紅に巾着袋を渡すと、中を確認するようにジェスチャーで示してくる。訝しく思いながらも、慎重に中身を取り出してみた。
「……ビー玉?」
直径ニセンチほどの球体が転がり出てきた。透明で曇りもない。凹みや歪みのない綺麗な球体である。
「これは水晶だよ」
プッと小さく吹き出した声が近くに聞こえた。思いのほか距離が近い。
「って、え、水晶!?」
危うく転がしてしまいそうになり、慌てて巾着袋の中に球体をしまった。これでまずは安心だ。
美紅の動揺っぷりを楽しそうに見ていた晶汰は、巾着袋を受け取ると話を続ける。
「僕の誕生石だからって、パワーストーンにハマっている兄貴から貰ってね。なんでも、浄化の力が強くて運気を呼び込んでくれるから、持っていて損はないんだと。はじめは半信半疑だったんだけど、試しに大会に持って行ったら成績が上がって。――それ以来、お世話になりっぱなし」
「へぇ……不思議なこともあるんだね」
まるで、魔法みたいだ――美紅は思う。
そして、彼のそんな一面を意外に感じた。練習に熱心だから本番は実力勝負で行くだけ、というタイプに見えていた。だから、自分の出番の前に『運が巡って来ますように』などと願っているとは考えなかったのだ。
「あ。この話はみんなには内緒にしておいてね。神頼みしてるだなんて思われるの、なんか恥ずかしいし」
本当に恥ずかしそうにしているのと、二人だけの秘密ができたみたいなドキドキ感があって、美紅はすぐに頷いた。
美紅が彼の存在を知ったのは高校一年生になって少し経ったゴールデンウイークの直前だ。必ずどこかには所属しなくてはならない部活動を決めかねてふと教室から校庭を眺めたとき、彼はふわりと宙を舞っていた。棒高跳びの選手らしい。素人が見てもすごく綺麗なフォームで、もちろんバーも動いていない。
――人って、あんなふうに跳べるんだ……。
もっと間近で見てみたいと思ったときには、入部届けに陸上部と書いていた。美紅の運動神経はお世辞でも優秀とは言えない。むしろ、成績は悪い。それでも、美紅は彼を見ていたいがために望んだ。
結局は、マネージャーとして落ち着いたのだけども。
完全に一目惚れだった。
出水晶汰は美紅と同じ学年で隣のクラスの人気者。中学時代は棒高跳びで全国大会まで進んだことがあるらしい。
できるならこういう話は本人から直接聞きたかったのだけど、美紅は他の人を介して情報を手に入れる。なぜなら、晶汰を前にすると舞い上がってしまってドジを踏むからだ。
マネージャーとして晶汰と接するときでも意識してしまい、彼にいろいろと迷惑を掛けた。だけどそのたびに「ドンマイ」とか「深呼吸してから行動すると良いよ」だとか、爽やかな笑顔で許してくれる。誰にでもそんな調子の彼なのだけど、美紅にはそれがとても嬉しかった。
夏の大会のとき、彼がお守りのような物を大事に握り締めて成功を祈っている場面に遭遇した。さすがに精神統一をしているだろうところに話し掛けるわけにはいかない。タイミングを見計らっていたら大会は終わっていた。
好成績をおさめて帰宅する電車の中、帰り道が同じで二人きりになった。なので、それとなくあのとき何をしていたのか訊ねた。
「あぁ、あれはね……」
少し恥ずかしそうにして、晶汰は言いよどんだ。美紅が黙ったまま様子を窺っていると、彼はスポーツバッグの中から薄汚れたフェルトの巾着袋を取り出した。手のひらにすっぽり収まるくらいのサイズで、中に何かが入っているらしくふっくらと盛り上がっている。
「――悪い気を祓って、運が巡って来ますようにっていうおまじないなんだ」
美紅に巾着袋を渡すと、中を確認するようにジェスチャーで示してくる。訝しく思いながらも、慎重に中身を取り出してみた。
「……ビー玉?」
直径ニセンチほどの球体が転がり出てきた。透明で曇りもない。凹みや歪みのない綺麗な球体である。
「これは水晶だよ」
プッと小さく吹き出した声が近くに聞こえた。思いのほか距離が近い。
「って、え、水晶!?」
危うく転がしてしまいそうになり、慌てて巾着袋の中に球体をしまった。これでまずは安心だ。
美紅の動揺っぷりを楽しそうに見ていた晶汰は、巾着袋を受け取ると話を続ける。
「僕の誕生石だからって、パワーストーンにハマっている兄貴から貰ってね。なんでも、浄化の力が強くて運気を呼び込んでくれるから、持っていて損はないんだと。はじめは半信半疑だったんだけど、試しに大会に持って行ったら成績が上がって。――それ以来、お世話になりっぱなし」
「へぇ……不思議なこともあるんだね」
まるで、魔法みたいだ――美紅は思う。
そして、彼のそんな一面を意外に感じた。練習に熱心だから本番は実力勝負で行くだけ、というタイプに見えていた。だから、自分の出番の前に『運が巡って来ますように』などと願っているとは考えなかったのだ。
「あ。この話はみんなには内緒にしておいてね。神頼みしてるだなんて思われるの、なんか恥ずかしいし」
本当に恥ずかしそうにしているのと、二人だけの秘密ができたみたいなドキドキ感があって、美紅はすぐに頷いた。
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