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私と彼の日常生活

22.協会が隠れて行なっていた実験

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「目の届く場所にいて欲しかったんだろう。保護管理課の任務はほぼ日帰りだが、特殊強襲部隊は数日間は任務で出ているし、任務地も協会のごく一部しか聞かされないくらいだからな」
「この仕事に決めたときから、危険なことは伝えていたはずなんですけど」

 そうなると、むしろ精霊使いになることを勧められなかったことが不思議である。私には適性があるので、それでもよかったはずなのに。
 首を傾げていると、ため息をつきながらオパールが継ぐ。

「だが、協会は君や家族の都合に構っていられない。君の能力を買って、特殊強襲部隊の任務に貸し出したんだな」
「そのあたりのこと、私、ごっそり記憶から抜け落ちてるみたいなんですが……えっと、その話、そもそもオパールさんの絶望と関係してくる話なんですか?」
「まあ、最後まで聞いておけ」
「はい」

 納得できないが、話は最後まで聞こう。

「君が特殊強襲部隊に貸し出されている間に、魔物化が起こる条件を掴めてきた。精霊使いに複数の鉱物人形が魔力を与えると魔物になりやすい――その可能性が高いと判断した協会は、ここで再現実験をしていた」
「ここって……ここ、ですか」

 私は前方に見える半壊した施設を指さす。
 オパールは神妙な顔で頷いた。

「ええ……」
「保護した女精霊使いと交わった鉱物人形をここでまぐわうように仕向けて、魔物がどう生まれるのか観察しようとしたんだな」
「いやいや、まさか」
「オレはそれを告発しようとした」

 そう告げて、オパールは腕組みをすると心底不満そうな顔をした。

「相棒に止められて揉めて、まあそこに運悪く魔物が割り込んできて、こういう状態になっちまって」

 左腕をぷらんぷらんと揺らす。利き腕ではなかったにせよ、皮一枚でかろうじて繋がった腕での戦闘は難しいだろう。相棒が死んでしまっては、回復も容易ではない。

「万が一のことが起きたら、信用できる君たちにすべて託そうと思っていたから、今話ができてよかったわけだけど」

 盛大に息を吐き出すと、オパールは私をじっと見つめた。

「――オレはそういう研究をコソコソやっているってのが気に食わない。結婚させたのも、表向きは複数の鉱物人形との交わりを倫理的な観点から止めるためではあるんだろうが、どの程度の交流があれば魔力が安定するのかあるいは不安定になるのかを観察するのに都合がいいからさせているんだろう」

 オパールの指摘に、私は思い出したことがあって頷いた。

「あー、たしかに毎月報告書を書かされていますけど、あれってそういう目的だったんですね」
「毎月記録を漁られるのは反乱分子を洗い出すためかと思っていたが、アレってそういう……」

 協会もいろいろ考えているようだ。
 あきれたといった様子でオパールが笑う。

「君たちは本当に真面目だな……。だから協会にいいように利用されているんだろうが」
「そこは持ちつ持たれつですよ。私は私の魔力を放出させる場を提供してもらっているので。この仕事してなくて日常的に術を使ってたら捕まっちゃいますし、それこそ実験台行きでしょう?」

 国のもとで正しく使うこと以外で術を使えば罰せられる。ライセンス制を設けているのは、国にあだなす者をあぶり出すためだろう。
 協会で仕事をすることは、私自身の立場を守るためでもある。だから両親は私が職員試験を受けることを認めたのだ。

「それはそうだな」
「私はこの仕事が続けられればいいんですよ」
「君はそう言うだろうが、協会は望んでいない」
「んん?」

 オパールは懐から拳大の魔鉱石を取り出すと、私に投げて寄越した。
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