魔導師として宮廷入りしたので、殿下の愛人にはなりません?

一花カナウ

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すべての始まり

魔力の暴走

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 私一人だけ部屋に残されてしまった。とりあえず、男性客を巻き込む心配が減って良かったとは思えたのだが、光の陣は消える気配がない。

「ね、ねえ。もう大丈夫だから。消えてくれないかしら?」

 あの男性客を追い払うために出現したのではないかという予想は合っているのだろう。あの男性客がそれを匂わせるようなことを告げて去っていることもあり、私は確信していた。
 だが、あいにく私には魔法方面の知識がない。魔法の一種だろうと推測される私の周囲に浮かぶこの光の陣を、どう扱うべきなのかわからないのだ。

「過剰防衛だから。もう、あのお客さんはいなくなったみたいだし、もう消えていいのよ?」

 魔法は聖霊によって生み出される奇跡であると伝え聞いている。だからと思って呼びかけているのだが、光の陣は減らないどころか増すばかりだ。
 次第に部屋を埋めつくし、壁が軋むような音までしてきた。それは先ほど男性客を弾き飛ばした魔法の残滓ではないだろう。質量があるわけではないが、陣から発せられる魔力の影響を受けて空間を歪ませているのだ。

「待って、待って。このままじゃ私もろとも、この店まで潰してしまうから」

 パラパラと天井から壁の一部が落下し始めた。いよいよこの部屋がもたない。逃げようにも身体の震えで足に力が入らず、動きようがなかった。

 私はどうなってもいいけど、お店は……このお店だけは……

 世話になった人たちが今日も働いている。もし、この部屋を吹き飛ばすようなことになったら、お姉さんがたもタダじゃ済まないだろう。店も営業できなくなるかもしれない。
 嫌な妄想が広がって、私の鼓動は早くなる。一刻も早く、陣を消さないといけない。

「ねえ、お願い。止まって……止まって、止まれ、止まれ止まれ止まれ! 止まってよっ!」

 腹筋に力を込めて、出せる限りの大きな声で私は叫んだ。願いを込めて、自分の生命と引き換えにしても構わないからと、必死に。
 私の声が部屋に響いた次の瞬間、ドアが蹴破られ一人の少年が転がり込むようにして入ってきた。

 え、誰?

 木漏れ日のように輝く金髪がまず目に入る。続いて意識が向いた彼が身に纏う黒っぽいローブに、私は見覚えがあった。宮廷魔導師の制服だ。
 頭が上がり、顔が見える。丸い眼鏡とその奥にあるのは空色の瞳。綺麗な顔立ちには、かつてこの店で見かけたある人物の面影が重なった。

「――遅くなりました」

 長めの金髪が乱れるのには構う様子なく少年はそう告げるなり、両手を素早く動かした。するとたちまちに光の陣は霧散する。キラキラと輝く霧となった陣は、すっとその光を失っていった。

 すごい……

 周囲に満ちていた不気味な気配も消え去っている。私はほっと息をついた。

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