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プロローグ
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僕には可愛い婚約者がいる。婚約者の名前はテオドラ・マクダニエルズ。伯爵家のお嬢さんだ。
ふわふわのブロンド、真昼の空のように透き通った美しいブルーの瞳の持ち主で、たいそう美人に育ったと思う。彼女との出会いは、彼女が産まれた翌日だったから、こんなにもほかの男の目を引くような美少女――いや、もう美女か――になるとは思わなかった。そりゃあ彼女の母親はこの周辺では美人だと噂になるような人ではあったけれど、娘にまで引き継がれるかどうかは運だからね。
そんなわけで、彼女が社交場にデビューしてからはとても苦労した。僕という婚約者がいることはみんな知っているはずなのに、テオドラに声をかけたがる男があとをたたなかったからだ。だから僕は彼女が行くパーティには必ず同伴して、不埒な野郎どもを払ってまわった。必要であれば、声をかけられないように根回しをしたりもした。
そんな僕の苦労を彼女が知っているのかはよくわからない。少しぼんやりしているところがあって、どことなくおっとりしているから、ひょっとしたら気づいていないのかもしれない。
いや、それだけじゃないかも?
彼女は僕がこんなに愛していることを理解できていない可能性すらある。そりゃあ幼馴染だし、彼女からしてみたら物心がついたときには僕がくっついてまわっていたのだから、それが当然のものと思って意識していない気がする。
昔、僕が婚約者という立場についての説明をしたとき、彼女は不思議そうな顔をしていた。
「婚約者になると、その、つまり、どうなるんですか?」
「もう僕たちは婚約者同士だから、どうなるってこともないと思うけれど」
親同士が承諾していることなので、よほどのことがない限り解消されることがない契約だ。
僕の父親と彼女の父親は共同で事業をしている。彼らは寄宿舎時代からの親友だそうだ。子が産まれたら結婚させようという話はそんな時代からしていたらしい。
僕にもそういう親友を作れと言われたが、悪友はできたけど事業をしようというくらいの人物には今のところ会えていない気がする。
まあ、僕にはテオドラさえいればいいんだけど。
「婚約者とは、いずれ結婚すると聞きました。その約束だとおっしゃいましたよね? 結婚とは、お父さまとお母さまのように仲よく暮らすことだと」
「うん。そうだね。でも、難しく考える必要はないよ。単純に、僕たちはずっと――それこそ死ぬまで一緒に過ごすってことだから。僕はテアとずっと一緒にいたいって思ってるよ」
純粋で無垢な可愛いテオドラ。僕が絶対に幸せにするんだ。一生をかけて守るって、生まれたての小さな手で僕の手を握ってくれたあの日に誓ったんだ。
「私もよ、アルお兄さま」
無邪気に微笑む彼女を見ていると、ついぎゅっと抱きしめたくなる。でも、本当の兄妹ではないから、きちんと結婚するまでは触れたりしない。手を繋ぐのも、手袋越しで。肌に触れたら絶対にいけない。
うっかり一線を越えちゃったらいけないからね!
しかし、いつまでもお兄さまと呼ばせていいのだろうかと不安に思う。
今年、十八歳を迎えた彼女の中で、ずっと兄であり続けるのは少々問題だ。今でも顔を合わせればアルお兄さまと呼ばれる。人前でもそれが抜けないので、まわりも僕を婚約者だと思わないのかもしれない。
ドロテウス兄さんと同等に思われるのもなあ……。
テオドラには年の離れた――正確には僕より一つ年上で二十七歳の――兄がいる。彼女が幼少のころは三人で出かけることも多かったので、兄妹のように思われていても違和感はない。
そろそろ、異性として意識してもらわないと。
予定ではテオドラが十九歳になってから結婚することになっている。もっと早くてもよかったのだが、なにぶん事業が不穏な動きをしており、結婚式の準備に手がまわらないのだから仕方があるまい。僕も父の事業を手伝っていて忙しく、パーティに出席する時間を作るだけで精いっぱいなのだから、今はやれるだけのことを地道にやろう。
明日は久しぶりにゆっくりパーティを楽しめそうだ。少しテオドラをドキドキさせてやろうかな。
計画を立てるのは好きだ。僕はテオドラのことを思いながら目を閉じる。
ふわふわのブロンド、真昼の空のように透き通った美しいブルーの瞳の持ち主で、たいそう美人に育ったと思う。彼女との出会いは、彼女が産まれた翌日だったから、こんなにもほかの男の目を引くような美少女――いや、もう美女か――になるとは思わなかった。そりゃあ彼女の母親はこの周辺では美人だと噂になるような人ではあったけれど、娘にまで引き継がれるかどうかは運だからね。
そんなわけで、彼女が社交場にデビューしてからはとても苦労した。僕という婚約者がいることはみんな知っているはずなのに、テオドラに声をかけたがる男があとをたたなかったからだ。だから僕は彼女が行くパーティには必ず同伴して、不埒な野郎どもを払ってまわった。必要であれば、声をかけられないように根回しをしたりもした。
そんな僕の苦労を彼女が知っているのかはよくわからない。少しぼんやりしているところがあって、どことなくおっとりしているから、ひょっとしたら気づいていないのかもしれない。
いや、それだけじゃないかも?
彼女は僕がこんなに愛していることを理解できていない可能性すらある。そりゃあ幼馴染だし、彼女からしてみたら物心がついたときには僕がくっついてまわっていたのだから、それが当然のものと思って意識していない気がする。
昔、僕が婚約者という立場についての説明をしたとき、彼女は不思議そうな顔をしていた。
「婚約者になると、その、つまり、どうなるんですか?」
「もう僕たちは婚約者同士だから、どうなるってこともないと思うけれど」
親同士が承諾していることなので、よほどのことがない限り解消されることがない契約だ。
僕の父親と彼女の父親は共同で事業をしている。彼らは寄宿舎時代からの親友だそうだ。子が産まれたら結婚させようという話はそんな時代からしていたらしい。
僕にもそういう親友を作れと言われたが、悪友はできたけど事業をしようというくらいの人物には今のところ会えていない気がする。
まあ、僕にはテオドラさえいればいいんだけど。
「婚約者とは、いずれ結婚すると聞きました。その約束だとおっしゃいましたよね? 結婚とは、お父さまとお母さまのように仲よく暮らすことだと」
「うん。そうだね。でも、難しく考える必要はないよ。単純に、僕たちはずっと――それこそ死ぬまで一緒に過ごすってことだから。僕はテアとずっと一緒にいたいって思ってるよ」
純粋で無垢な可愛いテオドラ。僕が絶対に幸せにするんだ。一生をかけて守るって、生まれたての小さな手で僕の手を握ってくれたあの日に誓ったんだ。
「私もよ、アルお兄さま」
無邪気に微笑む彼女を見ていると、ついぎゅっと抱きしめたくなる。でも、本当の兄妹ではないから、きちんと結婚するまでは触れたりしない。手を繋ぐのも、手袋越しで。肌に触れたら絶対にいけない。
うっかり一線を越えちゃったらいけないからね!
しかし、いつまでもお兄さまと呼ばせていいのだろうかと不安に思う。
今年、十八歳を迎えた彼女の中で、ずっと兄であり続けるのは少々問題だ。今でも顔を合わせればアルお兄さまと呼ばれる。人前でもそれが抜けないので、まわりも僕を婚約者だと思わないのかもしれない。
ドロテウス兄さんと同等に思われるのもなあ……。
テオドラには年の離れた――正確には僕より一つ年上で二十七歳の――兄がいる。彼女が幼少のころは三人で出かけることも多かったので、兄妹のように思われていても違和感はない。
そろそろ、異性として意識してもらわないと。
予定ではテオドラが十九歳になってから結婚することになっている。もっと早くてもよかったのだが、なにぶん事業が不穏な動きをしており、結婚式の準備に手がまわらないのだから仕方があるまい。僕も父の事業を手伝っていて忙しく、パーティに出席する時間を作るだけで精いっぱいなのだから、今はやれるだけのことを地道にやろう。
明日は久しぶりにゆっくりパーティを楽しめそうだ。少しテオドラをドキドキさせてやろうかな。
計画を立てるのは好きだ。僕はテオドラのことを思いながら目を閉じる。
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