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車好きな先輩にマフラーを編む話

車好きな先輩と私

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 私が気になっている先輩は、いつも車の話ばかりしている。
 今日も休憩所で見かけた先輩は、先日のドライブでいかに自分の愛車がいかしていたかについてを熱く語っている。
 私には車のことなんてさっぱりわからないわけだけれど、車の話をしている先輩はいつもキラキラしているし、話の内容なんて頭に入らないくせに話はうまいから楽しくなってしまう。営業成績の良さは、おそらくこの話術にあるのだろう。
 見た目も爽やかで格好いいし、一緒にいると気がきくのがよくわかるし、とにかく素敵なのだ。車の話が始まったら止まらないこと以外は、本当にいい人である。

「――ほら、先輩。次のミーティングの時間ですよ」

 コーヒー休憩で休憩室にいた先輩に声をかけにいくのが私の仕事である。先輩後輩という関係で仕事を教えてもらうようになってから半年。私はこの冬で先輩の手を離れることが決まっている。

「あ、いつもわりぃな」

 話に夢中になっていて時間が経つのを忘れていたのだろう。腕時計をチラッと見やると、先輩は私のところに駆け寄った。

「もう。私と組んでいるのもあと三ヶ月なんですよ。次のペアの子が呼びに来ないタイプだったらどうするんですか?」
「それは……まあ、どうにかするって。君と組む前に遅刻したことなんてないし」

 だったら呼びに来るまで休んでいないでくださいよ、と突っ込みたくなる気持ちを抑えて私は仕事に意識を切り替える。

「ほら、むすっとするな。契約を逃すぞ」

 ニカっと笑う顔がすごく好きだ。呼びに行ってからデスクに戻り、必要なものをまとめるとすぐにミーティングに向かうのだった。

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