魔法のお守り売ります

一花カナウ

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魔法の砂時計

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 古びた扉を開けばカランカランとベルが鳴る。お香っぽい匂いがふんわりとした。
 お店……なのだろうか。
 私はショルダーバッグの紐をぎゅっと握りしめて店内を物色するように歩き出す。

***

 細い路地に入る手前に看板が置かれていた。看板には『魔法のお守り、売ります』の手描きの文字。ちょっと読みにくい。
 私は通り過ぎようとして、でも何かが引っかかって看板の前に立った。
 魔法と呼ばれるような奇跡が存在しないことは痛いほど身にしみている。とはいえ、お守りというもの自体に恨みはない。お守りであればむしろ心の安寧のために持ち歩いているくらいだ。
 スマホで今の時刻を確認し、私は足を路地に向けた。


 そして路地の行き止まりにあったのが、古びた扉である。扉の横に看板が掛かっていたが、あいにく読み取れる文字はないのだった。
 店なのか否か、そもそも開店しているのかよくわからない。扉を開けて入っても警告音が鳴り響くようなことがなかったのは幸いだ。不法侵入ではなさそうである。
 人の気配はないのに、別の妙な空気があって落ち着かない。アンティーク調の棚にはアクセサリーや雑貨とおぼしきキラキラとしたものが並ぶ。残念ながら私はアクセサリーやジュエリーに疎いので、煌びやかだなあという感想にしかならなくて申し訳ない。

「――おや、珍しいお客さんだ」

 声をかけられてそちらを見やる。
 私の真後ろに頭巾を目深に被った大柄な人影があった。男とも女とも取れる奇妙な声色の持ち主だが、この体格だとおそらく男性なのだろう。女性にしては背が高い私が見上げるほどの高身長の持ち主である。

「ここ、お店なんですよね?」
「一応はね。ギャラリーなんだ」

 彼は言いにくそうにそう説明した。
 ギャラリーということは、ここに並んでいるのは展示品ということなのだろう。彼が押し売りをするタイプなのか気になるところだが、この気だるい感じだと積極的に売っているわけではなさそうだ。

「魔法のお守り売りますって看板を見たんですが」

 そう告げれば、彼は驚いたように口元を動かし、にんまりとした。

「なるほどなるほど。あの看板が見えた人なのかぁ」
「不気味な言い方をしないでほしいんですが」
「ときどきあるんだよ。ここにいる子たちが自分に相応しい相手を呼んでしまうこと」

 呼んでしまうと言われて、私はストンと納得してしまった。ここに並ぶ雑貨たちは、そういう気配をまとっていた。

「でも君は、ちょっと違うようだ」
「はい?」
「ここにいる子たちをひと通り見てまわったのに、どの子にも触れなかったからね」

 その言葉に、彼が最初から見ていたことを知る。防犯カメラでも使ってほかの部屋から覗いていたのだろうか。

「となると、君を呼んだのはこっちの、かな」

 足音なく部屋の奥にあるカウンターに移動する。カウンターの裏に入って姿が一瞬見えなくなったかと思えば、次には小さな箱を五つ持って顔を出した。

「なんですか、これ」

 渋い色合いのカウンターに材質の異なる箱が五つ並べられた。どれも片手で持ち上げられるくらいのサイズだ。
 私はその中のひとつ、肌触りのよさそうな紺色の布が貼られた箱を手に取った。

「……って、すみません。勝手に触ったらまずいですよね」

 惹かれてしまったのだ。許可なく商品に触れるのはまずかったと少し持ち上げたところで思い直し、そっと元に戻す。

「ううん。構わないよ。それが気になるんだね」

 彼は頷いて、ほかの小箱をさっさと片付けてしまう。

「中を見てごらん」
「いいんですか?」
「見るだけならね」

 促されて少々戸惑ったが、好奇心が勝った。私は小箱を手に取り、慎重に開ける。
 中には細いガラス瓶とキラキラした小石が複数入っている。小石のように見えたものはよく見るとその中に砂が封入されているらしく、動かすと表面が揺れた。

「砂時計……?」
「おや。よくわかったね。それは魔法の砂時計さ」
「魔法の?」
「まだ未完成品なんだけど、完成すればちょっとした魔法が使えるんだよ」

 胡散臭い。
 私は彼の話は適当に聞き流すとして、小箱の中身をよく見る。チェーンも入っているから、キーホルダーにしたりペンダントにすることができるのかもしれない。

「完成させないんですか?」
「これは購入者が組み立てることではじめて意味が生まれるものだからね。僕にはその魔法は必要がないから、完成させないんだ」

 その説明は頷けなくもない。
 再び手元の材料に目を向ける。

「アクセサリーキットみたいなもの、ですか」
「そう」
「ふぅん……」

 自分で作らないといけないと聞くと、ちょっと気が引ける。工作も裁縫もあまり得意ではないのだ。

「興味があるならお安く売るよ?」

 気が進まないはずなのに、この機を逃したら後悔するような気がした。何かポジティブになれそうな情報はないだろうか。

「お守りになります? これ」
「うん。使い方次第では、ね」

 アクセサリーは要らないけれど、お守りはいくつあっても私は困らない。これは朗報だ。

「作り方はどこかに書いてあるんですか?」
「小箱の蓋の裏に紙が入ってる」
「あ、本当だ」

 言われた場所を覗くと、きっちりと折り畳まれた紙が挟まっていた。

「他に聞きたいことは?」
「……おいくらですか?」


***


 まんまと乗せられてしまった気がする。でも、小箱を買ってからは気分がよかったのでこれはよい買い物だったのだろう。
 用事を済ませて家に戻ると早速作業に取り掛かった。小学生の頃、夏休みの宿題のためにビーズで小物を作ったのを思い出す。
 私は説明書をたよりに組み立てていった。

「できた!」

 集中していたのであっという間だったが、それなりに時間はかかった。不器用な私にしてはなかなかの出来栄えだ。

「やればできるじゃん!」

 ビーズでアクセサリーを作るのが小学生の頃に流行っていた。みんなに憧れて私も挑戦したもののあまりの不格好さにバカにされて以来、ビーズだけでなくアクセサリーからも遠ざかっていたことが記憶から蘇った。

「……でもまあ、どうでもいいかな」

 完成したのは魔法の砂時計。これを持つ者の過去を覗くことができるようになる効果が発揮されるのは、もう少し先のことである。

《終わり》
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