3 / 51
第3話 オレ様王子の恋愛授業(ラブレッスン)
しおりを挟む
★ ★ ★
この状況で逃がすつもりなんてなかった。
「今さら怖じ気づいたのかい? でも、もう手遅れだよ」
俺は焦燥と困惑の表情を浮かべる少女を壁に追い詰め、退路をふさぐ。濡れた瞳が俺を見つめる。そんな顔をしても駄目だ。
「君が誘ったんでしょ。責任、取ってもらおうか」
少女の顔を上向かせると、強引に唇を奪う。押し付けるだけじゃ済まさない。震える柔らかな唇をしつこく喰むようにすると、彼女の口から甘い吐息が零れた。
「……へぇ。可愛い顔、できるんじゃん」
初心だと思っていたが、抱き締めている腕の中の少女には匂い立つものがあった。
「か、可愛くなんて……」
ふるふると小さく首を振る。まだ逃げられると信じているらしく、身を捩って必死に抵抗しているのがいじらしい。
「俺をその気にさせるには充分って言ってるんだよ」
壁に少女の細い身体を押し付け、右手をブレザーに忍ばせる。
「や、やめてっ……んんぅっ……」
文句を言う余裕なんてやるものか。手慣れた調子でキスをし、声を封じる。それだけで終わるわけがない。開いていた唇から舌を差し込み、彼女の舌に絡めてやった。逃げ惑う甘くて柔らかいそれを執拗に追い詰めて従わせる。
「んんっ……」
俺は彼女がキスの対応に集中している隙にブレザーを脱がし、ブラウスのボタンを外していく。
いつもしている通りのことだ。この時間の化学準備室に誰かがやってくることはない。それを知っているのは、おそらく俺だけ。ここならば、最終下校時刻を知らせる放送が流れるまでは自由だ。
甘い吐息に、重なるリップ音。湿った音で満たされ――
★ ★ ★
「ひゃあっ⁉︎」
史華の悲鳴が夜の自室に響き渡る。それと同時に、手元にあったはずの文庫本が宙に舞い、ベッドの下に落下した。
「愛由美のやつ、なんつー本を……っ!」
心拍数が上がっている。それは、本の内容にドキドキしたからではない。登場人物の少年が、何故かあの朝の青年の姿と重なったからだ。
何度か深呼吸をして、文庫本を拾い上げる。ちょうど開いていたページには挿絵があって、史華は慌てて閉じた。
今のって……その、アレ、だよね……?
半裸の少女がイケメンの少年に押し倒されているイラストだったように見えた。気のせいだったと思いたいが、この本は明らかに官能小説と呼ばれている類いのものだ。おそらく、そういうことなのだろう。
スマートフォンを握りしめて、史華はショートメッセージアプリを起動する。
『愛由美っ! あの本、どういうことよっ!』
吹き出しに表示される文面。そのあとにはスタンプで怒りを示しておく。
『早速目を通すなんて勉強熱心だなぁ』
起きていたらしい。まだ二十三時を少し過ぎたあたりなんだから、当然かと史華は思う。返信は数秒ほどで表示された。
『そうじゃなくって、どういうつもりよ、あんな本をあたしに勧めるなんて!』
指先は饒舌だ。スイスイと文字が入力され、送信される。
『イマドキの女のコは、そういう小説を読んで女子力を磨くのよ~。エッチのときの盛り上がり方が違うんだって』
『エッチって、あたし、相手いないし! なんで間すっ飛ばしてるのよ!』
口に出すには抵抗がある言葉でも、文章でなら少しだけ平気だ。史華は気持ちのままに文章を書き込む。
『大丈夫ダイジョウブ。エロ可愛いオンナになれば、自然と男が寄ってくるから!』
そしてサムズアップのスタンプ。
『男だったらなんでもいいわけじゃないんだからね!』
プンプンと怒りを示すキャラもののスタンプを追加。
『とりあえず身近なところで男作っちゃいなよー。なんでも経験だよ?』
『愛由美の不潔! 次に会ったときに返すから!』
『食わず嫌いは良くないと思うけどなー』
愛由美のメッセージの返信に、史華は口の前でバツ印を結んでいるスタンプをつけてアプリを落とした。しばらく口をきかないことを示しているつもりだ。
「まったく……」
史華は小さくため息をつくと、文庫本を手にとってペラペラと捲った。挿絵がたくさん用いられている。だが、全部が背後を気にしないといけないようなイラストではない。史華は挿絵のチェックついでに本文にも目を通してみた。
そういうシーンを外せば、普通の恋愛小説と変わらないっぽいな……。
少女小説や一般小説ではオブラートで包んでしまうような部分を、丁寧にしっかり書いてあるというだけのようだ。描写が細かいだけあって官能シーンは全体の比率を考えるとかなり多い。
あ。
ふと目に留まる一文。それはキスの描写。触れるだけの優しい口づけに対する反応に、史華は自然とあの日の自分を重ねた。
あぁ、あたしだけじゃないんだ。
正常な反応だとわかるだけでも安心できる。物語の主人公と自分は違うけど、このお話の作者さんはキスをこう考えているのだと知れて、どこかほっとすることができた。友達とはこんな詳しい話なんて恥ずかしくてできない。でも、ここには自分が知りたいことが載っていそうだ。
ざっくりと雰囲気を掴むだけのつもりで斜め読みをしていた史華だったが、いつに間にか小説世界にのめり込んでいた。
この状況で逃がすつもりなんてなかった。
「今さら怖じ気づいたのかい? でも、もう手遅れだよ」
俺は焦燥と困惑の表情を浮かべる少女を壁に追い詰め、退路をふさぐ。濡れた瞳が俺を見つめる。そんな顔をしても駄目だ。
「君が誘ったんでしょ。責任、取ってもらおうか」
少女の顔を上向かせると、強引に唇を奪う。押し付けるだけじゃ済まさない。震える柔らかな唇をしつこく喰むようにすると、彼女の口から甘い吐息が零れた。
「……へぇ。可愛い顔、できるんじゃん」
初心だと思っていたが、抱き締めている腕の中の少女には匂い立つものがあった。
「か、可愛くなんて……」
ふるふると小さく首を振る。まだ逃げられると信じているらしく、身を捩って必死に抵抗しているのがいじらしい。
「俺をその気にさせるには充分って言ってるんだよ」
壁に少女の細い身体を押し付け、右手をブレザーに忍ばせる。
「や、やめてっ……んんぅっ……」
文句を言う余裕なんてやるものか。手慣れた調子でキスをし、声を封じる。それだけで終わるわけがない。開いていた唇から舌を差し込み、彼女の舌に絡めてやった。逃げ惑う甘くて柔らかいそれを執拗に追い詰めて従わせる。
「んんっ……」
俺は彼女がキスの対応に集中している隙にブレザーを脱がし、ブラウスのボタンを外していく。
いつもしている通りのことだ。この時間の化学準備室に誰かがやってくることはない。それを知っているのは、おそらく俺だけ。ここならば、最終下校時刻を知らせる放送が流れるまでは自由だ。
甘い吐息に、重なるリップ音。湿った音で満たされ――
★ ★ ★
「ひゃあっ⁉︎」
史華の悲鳴が夜の自室に響き渡る。それと同時に、手元にあったはずの文庫本が宙に舞い、ベッドの下に落下した。
「愛由美のやつ、なんつー本を……っ!」
心拍数が上がっている。それは、本の内容にドキドキしたからではない。登場人物の少年が、何故かあの朝の青年の姿と重なったからだ。
何度か深呼吸をして、文庫本を拾い上げる。ちょうど開いていたページには挿絵があって、史華は慌てて閉じた。
今のって……その、アレ、だよね……?
半裸の少女がイケメンの少年に押し倒されているイラストだったように見えた。気のせいだったと思いたいが、この本は明らかに官能小説と呼ばれている類いのものだ。おそらく、そういうことなのだろう。
スマートフォンを握りしめて、史華はショートメッセージアプリを起動する。
『愛由美っ! あの本、どういうことよっ!』
吹き出しに表示される文面。そのあとにはスタンプで怒りを示しておく。
『早速目を通すなんて勉強熱心だなぁ』
起きていたらしい。まだ二十三時を少し過ぎたあたりなんだから、当然かと史華は思う。返信は数秒ほどで表示された。
『そうじゃなくって、どういうつもりよ、あんな本をあたしに勧めるなんて!』
指先は饒舌だ。スイスイと文字が入力され、送信される。
『イマドキの女のコは、そういう小説を読んで女子力を磨くのよ~。エッチのときの盛り上がり方が違うんだって』
『エッチって、あたし、相手いないし! なんで間すっ飛ばしてるのよ!』
口に出すには抵抗がある言葉でも、文章でなら少しだけ平気だ。史華は気持ちのままに文章を書き込む。
『大丈夫ダイジョウブ。エロ可愛いオンナになれば、自然と男が寄ってくるから!』
そしてサムズアップのスタンプ。
『男だったらなんでもいいわけじゃないんだからね!』
プンプンと怒りを示すキャラもののスタンプを追加。
『とりあえず身近なところで男作っちゃいなよー。なんでも経験だよ?』
『愛由美の不潔! 次に会ったときに返すから!』
『食わず嫌いは良くないと思うけどなー』
愛由美のメッセージの返信に、史華は口の前でバツ印を結んでいるスタンプをつけてアプリを落とした。しばらく口をきかないことを示しているつもりだ。
「まったく……」
史華は小さくため息をつくと、文庫本を手にとってペラペラと捲った。挿絵がたくさん用いられている。だが、全部が背後を気にしないといけないようなイラストではない。史華は挿絵のチェックついでに本文にも目を通してみた。
そういうシーンを外せば、普通の恋愛小説と変わらないっぽいな……。
少女小説や一般小説ではオブラートで包んでしまうような部分を、丁寧にしっかり書いてあるというだけのようだ。描写が細かいだけあって官能シーンは全体の比率を考えるとかなり多い。
あ。
ふと目に留まる一文。それはキスの描写。触れるだけの優しい口づけに対する反応に、史華は自然とあの日の自分を重ねた。
あぁ、あたしだけじゃないんだ。
正常な反応だとわかるだけでも安心できる。物語の主人公と自分は違うけど、このお話の作者さんはキスをこう考えているのだと知れて、どこかほっとすることができた。友達とはこんな詳しい話なんて恥ずかしくてできない。でも、ここには自分が知りたいことが載っていそうだ。
ざっくりと雰囲気を掴むだけのつもりで斜め読みをしていた史華だったが、いつに間にか小説世界にのめり込んでいた。
11
あなたにおすすめの小説
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
祖父の遺言で崖っぷちの私。クールな年下後輩と契約結婚したら、実は彼の方が私にぞっこんでした。
久遠翠
恋愛
広告代理店で働く仕事一筋のアラサー女子・葉月美桜。彼女の前に突きつけられたのは「三十歳までに結婚しなければ、実家の老舗和菓子屋は人手に渡る」という祖父の遺言だった。崖っぷちの美桜に手を差し伸べたのは、社内で『氷の王子』と噂されるクールな年下後輩・一条蓮。「僕と契約結婚しませんか?」――利害一致で始まった、期限付きの偽りの夫婦生活。しかし、同居するうちに見えてきた彼の意外な素顔に、美桜の心は揺れ動く。料理上手で、猫が好きで、夜中に一人でピアノを弾く彼。契約違反だと分かっているのに、この温かい日だまりのような時間に、いつしか本気で惹かれていた。これは、氷のように冷たい契約から始まる、不器用で甘い、とろけるような恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる