宝石寝物語【短編集】

一花カナウ

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ヘマタイトの物語

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「俺が勝ったら、結婚を受け入れていただけますか?」
「どういう条件だ、それは」

 最強の魔術師である私のもとに弟子入りしてきた少年が言い放った不意の宣言に、私は苦笑するしかなかった。

「あなたの隣にずっといるには、足手纏いになるような人間は相応しくはないと考えたのです」

 私を見上げる瞳には熱がこもっている。
 ふむ……魅了の術は使っていないはずだが。
 私は困惑していた。
 本気でプロポーズしてきたらしいことは伝わってくる。冗談ではないのだ。結婚するにはまだまだ若すぎる年齢だが、鍛え上げて私と同等になる頃にはちょうどいい年頃になりそうではある。
 私から勝利をもぎ取る頃には、プロポーズ自体を忘れているかね。

「なるほど。ならばしっかりと鍛え抜かねばならんな」

 王宮で仕事をすることを拒むならば、せめて弟子を育成しろとの国王陛下からの命令である。子育てじみたことは勘弁願いたいと思って選んだのがこの少年だったのだが、想定外の宣言である。
 まあ、お互いに目標があった方が張り合いがあっていいか。名ばかりの弟子では、命令に従っているとは言い難いからな。
 私の思惑を知ってか知らずか、弟子は嬉しそうに笑うのだった。


***


 目的に向かって前進しているのがよくわかる。弟子はもともと向上心が強い性格だったようだ。みるみるうちに魔術師らしい技能を身につけた。能力を見込んで選んだものの、成長の早さは嬉しい誤算だ。
 日々強く逞しく成長するさまは彼の若さを羨みたくもなる。育成する中で得られることもたくさんあったのは事実だが、私は私自身の限界を感じずにはいられなかった。
 いつか彼は私のそばを離れないといけない。もっと広い世界を知って、大きく羽ばたくのがきっと彼のためだ。


***


 すっかり成人した弟子との試合。国王の前で弟子が立派に成長したことを御披露目する場である。
 安全のための制限はかけられるが、手加減をする必要はない。私は自分の全力をもって弟子の攻撃を受け止めた。
 試合終了の合図。

「……ははは。強くなったな」
「あなたを手に入れるために真剣に取り組んできましたから」

 そう告げて、ズタボロになった私の前に弟子は跪いた。

「待て。それ、まだ有効だったのか?」
「無効になんてしませんよ、お師匠さま」

 にこやかに言われた。
 ここは王の面前でもあるんだが。
 私は助けを求めて国王陛下を見やる。彼もまたにこやかだった。

「魔女を負かしたら婚儀をとのことだったな。私は君たちを祝福すると約束しよう」
「お待ちください陛下……あ、あなた様もご存知だったんですか⁉︎」
「私に刃向かうようなことがあっては困るから、危険回避を兼ねてなにかさせておくのがよかろうと思ってな」

 陛下に脅威だと感じられていたらしい。それがこれである。
 なんとアホらしい。気付かぬ自分もアホだが、国王陛下への忠誠心もどうでもよくなったうえに、弟子をこのままこの国に繋ぎ止めておくのももったいなく感じた。

「ほう……」

 私は瞬時に傷を回復させると、にたあっと笑った。

「では、私は弟子とともに新婚旅行に出立させていただきますね」

 歳は食っても、私は国防の要と言われるほどの存在なのだが。
 陛下が青褪めているが知ったことか。なんか冷めてしまった。

「さあ、行くぞ弟子」
「はい、お師匠さま」

 手を取り合い微笑みを交わすと、私たちはその場を飛び去った。

《終わり》


----------------

ヘマタイトの宝石言葉
【勝利】【前進】【向上心】【危険回避】
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