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ユニコーンと誘拐
ユニコーンと誘拐
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家に戻ったとき、トキヤもミレイも部屋にいなかった。そんなわけで俺たちは中央の部屋で二人の帰りを待つことにしたのである。そこまでは今のところごく当たり前の展開だ。
正午を知らせる鐘が街に響き渡る。それでもまだ二人とも帰ってこなかった。
「トキヤが戻ってこないのはよくあることだけど、ミレイが鐘が鳴るまでに戻ってこないなんて珍しいな」
テーブルで本を読んでいたレキは視線を上げてミキに言う。
「そうね。お昼ごはん、どうしようか?」
ぞうきんを握っていた手を休めレキに問う。
ミキが掃除をしていた理由は、物置場と化していた空き部屋を使えるようにするためだ。昨夜は突然だったこともあって俺はミレイの部屋を借りることになったが、今晩もそうするわけにはいかないだろう。ましてや修也までがお世話になろうとしているので、使える部屋は増えていた方が良い。どうやら彼女は俺たちを泊めることに賛成らしい。その気持ちに俺は感謝する。
「そうだなぁ。もう少し待たないか? きっと何かにつかまってるんだよ」
「だといいけど。――ところで、レキ。どうしてあんたは手伝ってくれないの?」
不満そうに埃だらけの頬を膨らませる。手は腰だ。
家に帰ってきてミキは部屋を掃除すると宣言をした。それに対してレキは「いいんじゃないの?」と答えただけで、自分の部屋に引きこもることもせずにテーブルで読書をしている。そんなこともあって俺は修也とはたいして言葉を交わすこともなく、テーブルに腰を下ろしたまま黙っていたのだが。ん、待てよ。
「見張りだから」
――あ、やっぱり。
しれっと答えたレキの台詞に、ミキは頭を抱える。
「そんなことだろうと思ったわ。ったく、余計な心配をしているんじゃないわよ。この家のルールはあたしが守ってるの。そう簡単に破らせるものですか! あたしがちゃんと目を光らせておくから、ちょっと手伝ってよ。棚を動かしたいの」
助けを求めるようにレキの視線がこちらに向けられる。俺にどうしろと?
「あ、だったら僕がお手伝いしますよ。何もしないでいるのもなんですから」
レキが返事をしないでいると、参考書を読んでいた(試験が終わったばかりだというのにご苦労なことだ)修也がぱっと立ち上がってミキに言う。
「いえ。お客様にそんなことをさせるわけにはいきませんよ」
首を一度横に振って答えると、レキを睨み付ける。
「じゃあ、私が手伝います。昨晩からお世話になっていながら何のお返しもできていませんし」
すっと俺は立ち上がりミキににっこりと微笑む。
「気持ちは嬉しいですけど、重労働ですから。――ほら、レキ! あんたがすぐに動かないから!」
つかつかとレキの後ろに立って背もたれに手をかける。
「だって俺、力仕事は嫌いだし」
ミキの手を軽く払って自分から立ち上がる。とても不満そうだ。
「わがまま言わないの! この家のことはみんなで協力するっていうルール、忘れたの?」
「部屋の掃除はミキが勝手に始めたことだろう? トキヤの命令ならすぐに従うけど」
「……何がそんなに嫌なの? 全部ただの言い訳よね?」
きょうだいで通じるものがあったのか(ましてや双子だし)、レキの様子に疑問を感じたらしいミキの怒っていた表情が心配げな表情に変わる。
「……別に」
レキは何か言うのをためらったように口を動かし、ミキが掃除していた部屋に向かって歩き出す。
「あ、もしかして、家に男を入れるのが気に食わないの? 女の子を入れるのには賛成するくせに、そんなのおかしいわ!」
すぐ後ろにくっついてミキが抗議する。レキはうるさそうな顔をする。
「否定はしねーけど、それだけじゃないさ。――とにかく、トキヤが最終決定権を持っているんだからな。ミキがでしゃばってくるところじゃないと俺は思うわけ」
「なにそれ」
ったく、何言ってるんだかわからない、とミキの小言は続く。
立ったままでいるのも何なので、同じく立ちっぱなしで様子を窺っている修也の袖を引っ張って座らせる。
「きょうだいっていいですね」
どこかさみしげに笑んで修也が言う。
「気持ちが通じる相手ならマシだよ」
思わず、うんざりとした気持ちのにじむ声で答える。俺にとって最も畏怖すべき存在の影が脳裏を過ぎったからだ。
「血のつながりって、結構すごいものだと思いますよ。僕にはきょうだいがいませんから、余計に憧れを感じるのかも知れませんけど」
こっちを見ないで、どこか遠くに視線を向けて修也が言う。
俺は現実を嫌と言うほど身にしみてわかっているからか、きょうだいに憧れを感じたことはない。姉貴がいなかったらいいと思ったことは実はないのだが(この場面で登場するなよと思ったことは多いけれど)、だからといって、いて良かったと思ったことも実のところない。迷惑な話題ばかりを提供する人間だ、という程度の認識。姉貴が俺をどう思っているのかは定かではない。
「ふぅん」
再び参考書を手にした修也に、俺は相槌を打つことしかできなかった。
ミキとレキが部屋から顔を出したのはちょうどそのあとで、トキヤが階段を駆け上がってドアを開けたのと同じタイミングだった。
「あ、トキヤ兄さん、お帰りなさい。ミレイ見なかった? ――何かあったの?」
顔面蒼白で息を切らしているトキヤに、ミキはすぐに駆け寄る。
「なにごとだ?」
台所に入って水を入れたコップを取ってくると、レキはトキヤに差し出す。トキヤは黙ってそれを受け取ると一気に飲み干す。
しばしの沈黙。
その緊急事態らしい様子に、参考書から目を離して彼らの方を見る修也と俺。昨日から見ているかぎりでは、トキヤは簡単には動じないタイプに見えたのだが……。
「みんな、落ち着いて聞いて欲しい」
テーブルにコップを置いて、重々しい口調でトキヤは切り出す。空気が張りつめる。そこにいる全員の顔をトキヤは見る。
「……って、君、誰?」
修也の顔を見てトキヤははたと頭に疑問符を浮かべる。――つっこむ前に本題に入ってください。
「その話は順を追って話すから。で、兄さんの話は?」
緊張ムードが一瞬途切れたものの、ミキのツッコミで再びシリアスモードへ。
「みんな、落ち着いて聞いて欲しい」
仕切り直しなのか、それとも単に本人が落ち着いていないだけなのか、トキヤは数秒前に口にした台詞を繰り返す。ごくりと唾を飲み込み、皆の顔がトキヤの台詞を聞き逃すまいという真剣なものに変わる。
「ミレイが……」
ためらうようにゆっくりとトキヤの唇が動く。そして黙り込むと俯いてしまう。
「ミレイが、どうしたって?」
先をなかなか言わないのでレキが促す。
トキヤの額に汗が浮かんでいる。それは走ってここに戻ってきたからだけではなさそうだ。ということは、ミレイに何かがあったということ以外に思い浮かぶことはない。嫌な予感がする。そしてそれは的中した。
「――ミレイがユニコーンにさらわれた」
ミキの顔から一気に血の気が引く。
「うそ……よ……」
彼女はそう呟くと、そのまま後ろに倒れる。
正午を知らせる鐘が街に響き渡る。それでもまだ二人とも帰ってこなかった。
「トキヤが戻ってこないのはよくあることだけど、ミレイが鐘が鳴るまでに戻ってこないなんて珍しいな」
テーブルで本を読んでいたレキは視線を上げてミキに言う。
「そうね。お昼ごはん、どうしようか?」
ぞうきんを握っていた手を休めレキに問う。
ミキが掃除をしていた理由は、物置場と化していた空き部屋を使えるようにするためだ。昨夜は突然だったこともあって俺はミレイの部屋を借りることになったが、今晩もそうするわけにはいかないだろう。ましてや修也までがお世話になろうとしているので、使える部屋は増えていた方が良い。どうやら彼女は俺たちを泊めることに賛成らしい。その気持ちに俺は感謝する。
「そうだなぁ。もう少し待たないか? きっと何かにつかまってるんだよ」
「だといいけど。――ところで、レキ。どうしてあんたは手伝ってくれないの?」
不満そうに埃だらけの頬を膨らませる。手は腰だ。
家に帰ってきてミキは部屋を掃除すると宣言をした。それに対してレキは「いいんじゃないの?」と答えただけで、自分の部屋に引きこもることもせずにテーブルで読書をしている。そんなこともあって俺は修也とはたいして言葉を交わすこともなく、テーブルに腰を下ろしたまま黙っていたのだが。ん、待てよ。
「見張りだから」
――あ、やっぱり。
しれっと答えたレキの台詞に、ミキは頭を抱える。
「そんなことだろうと思ったわ。ったく、余計な心配をしているんじゃないわよ。この家のルールはあたしが守ってるの。そう簡単に破らせるものですか! あたしがちゃんと目を光らせておくから、ちょっと手伝ってよ。棚を動かしたいの」
助けを求めるようにレキの視線がこちらに向けられる。俺にどうしろと?
「あ、だったら僕がお手伝いしますよ。何もしないでいるのもなんですから」
レキが返事をしないでいると、参考書を読んでいた(試験が終わったばかりだというのにご苦労なことだ)修也がぱっと立ち上がってミキに言う。
「いえ。お客様にそんなことをさせるわけにはいきませんよ」
首を一度横に振って答えると、レキを睨み付ける。
「じゃあ、私が手伝います。昨晩からお世話になっていながら何のお返しもできていませんし」
すっと俺は立ち上がりミキににっこりと微笑む。
「気持ちは嬉しいですけど、重労働ですから。――ほら、レキ! あんたがすぐに動かないから!」
つかつかとレキの後ろに立って背もたれに手をかける。
「だって俺、力仕事は嫌いだし」
ミキの手を軽く払って自分から立ち上がる。とても不満そうだ。
「わがまま言わないの! この家のことはみんなで協力するっていうルール、忘れたの?」
「部屋の掃除はミキが勝手に始めたことだろう? トキヤの命令ならすぐに従うけど」
「……何がそんなに嫌なの? 全部ただの言い訳よね?」
きょうだいで通じるものがあったのか(ましてや双子だし)、レキの様子に疑問を感じたらしいミキの怒っていた表情が心配げな表情に変わる。
「……別に」
レキは何か言うのをためらったように口を動かし、ミキが掃除していた部屋に向かって歩き出す。
「あ、もしかして、家に男を入れるのが気に食わないの? 女の子を入れるのには賛成するくせに、そんなのおかしいわ!」
すぐ後ろにくっついてミキが抗議する。レキはうるさそうな顔をする。
「否定はしねーけど、それだけじゃないさ。――とにかく、トキヤが最終決定権を持っているんだからな。ミキがでしゃばってくるところじゃないと俺は思うわけ」
「なにそれ」
ったく、何言ってるんだかわからない、とミキの小言は続く。
立ったままでいるのも何なので、同じく立ちっぱなしで様子を窺っている修也の袖を引っ張って座らせる。
「きょうだいっていいですね」
どこかさみしげに笑んで修也が言う。
「気持ちが通じる相手ならマシだよ」
思わず、うんざりとした気持ちのにじむ声で答える。俺にとって最も畏怖すべき存在の影が脳裏を過ぎったからだ。
「血のつながりって、結構すごいものだと思いますよ。僕にはきょうだいがいませんから、余計に憧れを感じるのかも知れませんけど」
こっちを見ないで、どこか遠くに視線を向けて修也が言う。
俺は現実を嫌と言うほど身にしみてわかっているからか、きょうだいに憧れを感じたことはない。姉貴がいなかったらいいと思ったことは実はないのだが(この場面で登場するなよと思ったことは多いけれど)、だからといって、いて良かったと思ったことも実のところない。迷惑な話題ばかりを提供する人間だ、という程度の認識。姉貴が俺をどう思っているのかは定かではない。
「ふぅん」
再び参考書を手にした修也に、俺は相槌を打つことしかできなかった。
ミキとレキが部屋から顔を出したのはちょうどそのあとで、トキヤが階段を駆け上がってドアを開けたのと同じタイミングだった。
「あ、トキヤ兄さん、お帰りなさい。ミレイ見なかった? ――何かあったの?」
顔面蒼白で息を切らしているトキヤに、ミキはすぐに駆け寄る。
「なにごとだ?」
台所に入って水を入れたコップを取ってくると、レキはトキヤに差し出す。トキヤは黙ってそれを受け取ると一気に飲み干す。
しばしの沈黙。
その緊急事態らしい様子に、参考書から目を離して彼らの方を見る修也と俺。昨日から見ているかぎりでは、トキヤは簡単には動じないタイプに見えたのだが……。
「みんな、落ち着いて聞いて欲しい」
テーブルにコップを置いて、重々しい口調でトキヤは切り出す。空気が張りつめる。そこにいる全員の顔をトキヤは見る。
「……って、君、誰?」
修也の顔を見てトキヤははたと頭に疑問符を浮かべる。――つっこむ前に本題に入ってください。
「その話は順を追って話すから。で、兄さんの話は?」
緊張ムードが一瞬途切れたものの、ミキのツッコミで再びシリアスモードへ。
「みんな、落ち着いて聞いて欲しい」
仕切り直しなのか、それとも単に本人が落ち着いていないだけなのか、トキヤは数秒前に口にした台詞を繰り返す。ごくりと唾を飲み込み、皆の顔がトキヤの台詞を聞き逃すまいという真剣なものに変わる。
「ミレイが……」
ためらうようにゆっくりとトキヤの唇が動く。そして黙り込むと俯いてしまう。
「ミレイが、どうしたって?」
先をなかなか言わないのでレキが促す。
トキヤの額に汗が浮かんでいる。それは走ってここに戻ってきたからだけではなさそうだ。ということは、ミレイに何かがあったということ以外に思い浮かぶことはない。嫌な予感がする。そしてそれは的中した。
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