御姉様と喚ばないでっ‼︎

一花カナウ

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ユニコーンと神殿

私があなたを選んだ理由

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「!」

 しばしの沈黙。

 動いたのはユニコーン。

「そうですね。私があなたを選んだ理由を話してもいい頃合いでしょうから、説明して差し上げましょう」

 やんわりと笑む。どこか寂しげだ。

「御姉様の推理、なかなか鋭いですよ。でもちょっと違うんです。それも含めてお話しましょうか」

 ここにいる全員が緊張した面持ちで、一度唾を飲み込んだ。ユニコーンの言葉に耳を傾ける。

「――ミレイさんを選んだのは彼女の優しさを知っていたからです。何故なら、トキヤさんの恋人であった女性の月命日に神殿の前に必ず花を捧げていたのを見ていたから。そしてそこを寝床にしている野犬たちと揉み合ってすべてを手なずけてしまいました。敵(かたき)である相手を、ですよ? そして二度と同じ悲劇が起きないようにしたのです。それをじっと見守っていた。その優しさが、彼女をユニコーンの乙女に選んだ一番の理由です」

 トキヤ、レキ、ミキの視線がミレイに向けられる。ミレイは恥ずかしそうに視線をそらし、頬を染めた。三人の表情からすると、ミレイのその行為については知らなかったようだ。ま、ミレイが家のことを仕切っていたようだし、そのことからすれば家計もすべて彼女が握っていたのだろう。三人は運送屋の仕事で家を留守がちにしていたというのだからますます気付かれまい。

「――そして、今回の件ですが」

 ユニコーンは一度地を蹴ってその場で軽く宙返りをしてみせる、と。

「もともとの取り決めで町から町にある程度の人間を移動させねばならないことになっていたのです。その実行のためにミレイさんを利用させていただきました」

 どこでどう変化したのかわからないが、ユニコーンは人型から馬型に変化(へんげ)を遂げていた。額に角を生やし、真っ白な鬣を風にそよがせている姿はとても綺麗で幻想的である。その白さがまぶしいくらいだ。

「人を、移動?」

 疑問を口にしたのはトキヤ。他のみんなも同じことを疑問に思っていることだろう。もちろん、俺も含めて。

「どの町でもある一定の人間が他の町に移動します。それはほとんど人間の勝手な都合なのでしょうが、我々はその彼らに対し町から町に移る間が安全であるように取り決めをしているのです。なぜなら、一つの町に人間が居座ることになると新しいものが生まれにくくなるから。それを防ぐために他の文化との交流が必要だったのです。たとえて言うなら、一つの畑に同じものを作り続けると土地がやせてしまって作物が実らなくなることがありますが、ちょうどそんな感じですね。ですから、人間が移動することには意味があると我々は考えております」
「ってことは」
「あなた方もその例外ではありません、トキヤさん、レキさん、ミキさん、そしてミレイさん」

 ユニコーンは一人一人の顔を見て名を呼ぶ。とても穏やかで優しい声。

「本来ならば家族単位で移動を認めることはありません。たいてい一人、もしくはカップル単位で移動をすることになります。というのも、家族単位での移動は多くの場合で文化交流の妨げになるからです」

 都内のマンションに住んでいて隣の家の連中が何をしているどんな家族なのかわからない、みたいな感じだろうか? それなら単身でも同じだろうけど。

「しかし今回はそうせざるを得なかった。この町の仕来りが邪魔をするからです。外部の者を嫌うこの町の文化が行う排除はこの周辺の町ではもっとも厳しいものです。陸の孤島となっているこの土地の所為でもありましょう。ゆえに、単身でこの町に人を送ってもらうわけにはいかなかったのです。
 そして人を送ってもらった以上、この町からも人を送らねばなりません。とはいえこの町の人々は簡単に外に出ようとはしませんでした。町の中ですべてが機能していましたからわざわざ外に出る必要もなかったのです。私が過保護だったのもよくなかったようですね。彼らは立派な神殿を私のために建て、ことあるごとに私に願いました。そしてそれを叶えてしまった。――他の町にはこれほど立派な神殿はないのですよ。今は壊されてしまいましたけども。
 そんなこともあり、私は他の文化を取り入れるために彼らを利用しました。運送屋になって外とのやり取りをするよう仕向けたのは私です。それが功を奏して、町の外に興味を持つ若い世代が出てきた。ですが、町の外に出ようと思っても手段がありません。基本的に外に出ることがない彼らは町の外に行くために何が必要なのか知らないのです。まともな馬車も持っていませんし、それを用意しようとなると他の住人が引き止めるでしょう。なんせ古くからの仕来りなんですから。
 となれば最後の手段です。町の外に出ようとする人間に対し、私の力を持って外の町に送り届けるより他にありません。しかしおおっぴらにそれを行うわけにはいきません。私は名目上、町の人間を守る立場にありますから。大多数の人間の意見を叶えなくてはならない存在なのです。そこで私は考えた。ユニコーンの乙女ならそれは可能ではないか、と」
「やっぱり私を利用したかっただけじゃないか! 優しさがどうのって話はただのおべんちゃらだろう!」

 ――あ、ミレイが怒った。そりゃ怒るかもな。嫌な目に遭わせられたのは町の人間を移動させるのに都合よかったからとなってはな。

「怒らないでください。あなたじゃなければこの仕事は勤まらなかったのですよ? ユニコーンの乙女があなただったからこそ、外の町に興味を持った人間が声を掛けやすかったのは事実です。だってそうでしょう? あなたは町の外の人間だった人物。その上、あなたのきょうだいは町の外で主な仕事をしているんです。ということは町にいながらにして、最も外の町の情報を手にしていた人間はあなた一人だけなんですよ?」
「!」

 ミレイは怒るのをやめ、目を丸くしてユニコーンを見つめた。

「もしも町の中の人間でしたら、私のこの提案に対し首を横に振ったことでしょう。昔、ある年のユニコーンの乙女に提案したことがありました。そのとき彼女は私の言葉に混乱し、自殺してしまったのです。私が町を見捨てたとでも思ったのでしょう。ですから二度とそんな間違いを犯したくはなかった。
 ――どれだけの間、この町は他の町から切り離されていたのでしょうか。うまく外からこの町に人を入れることができても、この町に馴染めずにストレスで病に罹(かか)り死んでしまう。どんなに私が外からやって来た者たちを目に掛けていても、です。そんなことが続いては他のユニコーンから様々な罵声を浴びてきました。ですからどうしてもあなた方にはこの町に馴染んでほしかったのです。久しぶりにやって来た他の町の人間には、どうしてもこの町にいついてほしかった。
 ――それであなたを呼ぶことにしたんですよ、御姉様」

 てっきり俺に触れないで話が終わるんだと思っていたんだが、まだ話は続くのか。

「で、どうして俺が必要なんだ?」
「彼らを引き止めるためです」

 ミレイが言った通りじゃないか。つーか、ここにいる四人をってことだろうけど。

「先はあぁ言って脅かしましたが、町から町に移動するのはそう何回あってもいいことではありません。外から入れた人間はそこを管轄するユニコーンが責任を持って最期まで面倒を見ることになっています。よほどのことがない限り認められないことなのです。ましてやこの町はまだ変化を遂げきっていない。他の町との差をあなた方はよくご存知のはずです」
「そりゃあ、まぁ、そうだけど……」

 気持ちに迷いが出てきたのか、レキが困ったような表情をして呟く。

 俺はこの世界の他の町がどんなものなのかよく知らないからなんともいえないのだが。

「だがな、ユニコーンよ。この状況で町に戻ってみろ、どう考えても非難を浴びることは目に見えている。神殿は壊れてしまったのだからな!」
「壊してしまった、でしょう?」
「う……」

 ユニコーンの的確な指摘にミレイは言葉を詰まらせる。

「証拠隠滅のために爆破なんてことをするからいけないんですよ。全くあなたって人は……」
「うるさい! 私はこの町を出るつもりでいたんだ! 大体、私は貴様が大っ嫌いなんだ! 神殿なんて不要だと思っていたしな!」

 やれやれといった様子で語るユニコーンに対し、ミレイは怒鳴る。相当嫌っているんだな、ミレイの奴。まぁ、愛情の裏返しとも取れるんだけどもさ。

「――そんなわけですから、御姉様。あなたには彼らをつれて町に戻り、住人たちを説得してもらいたいのです。本来の目的からはちょっとずれてしまいますけど、あなたの肩書きを持ってすれば住人はきっと納得してくれるはずです」

 午前中のあの様子からすれば、たぶん俺の言うことを信じてくれるだろうな、確かに。――っと、待てよ。

「おい、ユニコーン。力の解放はどうした?」
「あぁ、それならもう片付きましたよ」

 しれっと答えるユニコーン。俺には何のことだかわからない。

「それも狂言ですよ。じゃないとあなたをここに呼ぶことはできませんし、連絡をとることもできないでしょう?」

 ――うわ、本気で一発殴りたい!

 しかしそこをぐっと押さえつつ。

「さて、それでもあなた方はこの町を出て行きますか? ここを出て行くのなら、私からの加護の力は消え去ります。そしておそらくあなた方を保護するユニコーンはいないことでしょう。この町に変化を与えることのできなかった人間が他の町に変化を与える存在になり得るか、それはとても疑わしいと判断されますからね。覚悟しているならお行きなさい。そして二度とこの町に足を踏み入れることは許しません。――私が万が一許すことがあったとしても、この町の人間は容赦しないことでしょう。それをお忘れなく」

 その台詞を聞いてレキはトキヤに一度目配せをし、それに対しトキヤはミキとミレイに視線を送る。それぞれが何か悩んでいるような表情。

 ――んっと、あれ? なんか視界がぼやけてきたぞ。

 ふと後頭部に手を当てる。ぬるっとした感触。嫌な予感。

 手を目の前に出し、その感触の正体を確認する。

 ――げ。

 道理で意識がぼうっとしてくるわけだ。大丈夫だと思っていたのに……さ。

 トキヤたちの答えを聞く前に俺の視界は暗転し、平衡感覚もなくなってその場に崩れた。
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