53 / 58
音楽・不可思議カフェ百鬼夜行の業務“外”日誌・2
絶対音感がないと出られない部屋・承
しおりを挟む
そもそもの発端は、一つの依頼だった。
眼帯をつけた青年が俺たちの働く喫茶店に顔を出した。店内に客がいないタイミングでいつも現れる彼は、今回は何も持たずに姿を見せた。
「また依頼か?」
俺がうんざりした気持ちで尋ねると、彼は頷いた。
「ちょっと厄介な案件でね。百目鬼(どうめき)くんはいるかい?」
「おや、ここのところよく来るねえ」
依頼を聞く前にサクッと断って帰らせてしまおうと思ったのに、運が悪いのかはたまた良いのか、店長がスタッフルームから出てきてしまった。
「いま、時間はあるかい?」
「ああ、構わないよ」
店長がご機嫌に眼帯の青年を案内する。ついでとばかりに俺も呼ばれてしまった。
ボックス席に店長と俺が並んで座り、正面には憂鬱そうな面持ちの眼帯の青年が腰を下ろした。
「僕のところのスタッフが、次々と奇妙な部屋に連れ込まれてしまってね」
「行方不明かい?」
「スタッフたちは戻ってきてはいるが、ずいぶんとやつれた顔をしていて。しばらく休暇を取ることになってしまった」
青年の説明に、店長はふむと頷く。
「一人は頭痛がする、耳鳴りがひどいと訴えて、もう一人はしばらく楽譜は見たくないと訴えて、さらに一人はガード下でしばらく過ごしたいと言い出した」
「おや、静かな場所に行きたいという話ではないようだね」
店長の指摘に、彼は深く頷いた。
「彼らが捕まってしまったという場所に僕も乗り込んでみたのだが、あいにく怪異現象には遭遇できなくてね。部屋には電源の入っていないスピーカーと譜面、ほかは紙とペンがあるだけだった。こんな感じだよ」
そう告げるなり、彼は携帯端末を取り出して画像を表示させる。
彼が行ったという怪異現象が起きる部屋の写真らしい。先ほど説明されたものが確かに置いてある。物置部屋にしているのか、ほかにはギターとベース、キーボード、ドラムセットらしきものが一部カバーをかけられた状態で置かれていた。
部屋は六畳はないだろう。窓は細く小さな換気用のもので、人が出入りできるほど大きくはない。照明は天井の中央に一つ、出入り口のドアの横に一つあるようだ。
「見たところ、怪異現象に縁があるようには感じられないね」
「僕もそんな印象だった」
「これは現場を見たほうが早いかもしれないな。なにもないなら何もないで、おまじないのつもりでお札の一つでも貼り付けておこうか」
「それは助かるよ。ひとつ、頼めるかい?」
「君の頼みだ、引き受けよう」
そんな感じで店長が安請け合いをして、俺も巻き込まれ、今に至る。
眼帯をつけた青年が俺たちの働く喫茶店に顔を出した。店内に客がいないタイミングでいつも現れる彼は、今回は何も持たずに姿を見せた。
「また依頼か?」
俺がうんざりした気持ちで尋ねると、彼は頷いた。
「ちょっと厄介な案件でね。百目鬼(どうめき)くんはいるかい?」
「おや、ここのところよく来るねえ」
依頼を聞く前にサクッと断って帰らせてしまおうと思ったのに、運が悪いのかはたまた良いのか、店長がスタッフルームから出てきてしまった。
「いま、時間はあるかい?」
「ああ、構わないよ」
店長がご機嫌に眼帯の青年を案内する。ついでとばかりに俺も呼ばれてしまった。
ボックス席に店長と俺が並んで座り、正面には憂鬱そうな面持ちの眼帯の青年が腰を下ろした。
「僕のところのスタッフが、次々と奇妙な部屋に連れ込まれてしまってね」
「行方不明かい?」
「スタッフたちは戻ってきてはいるが、ずいぶんとやつれた顔をしていて。しばらく休暇を取ることになってしまった」
青年の説明に、店長はふむと頷く。
「一人は頭痛がする、耳鳴りがひどいと訴えて、もう一人はしばらく楽譜は見たくないと訴えて、さらに一人はガード下でしばらく過ごしたいと言い出した」
「おや、静かな場所に行きたいという話ではないようだね」
店長の指摘に、彼は深く頷いた。
「彼らが捕まってしまったという場所に僕も乗り込んでみたのだが、あいにく怪異現象には遭遇できなくてね。部屋には電源の入っていないスピーカーと譜面、ほかは紙とペンがあるだけだった。こんな感じだよ」
そう告げるなり、彼は携帯端末を取り出して画像を表示させる。
彼が行ったという怪異現象が起きる部屋の写真らしい。先ほど説明されたものが確かに置いてある。物置部屋にしているのか、ほかにはギターとベース、キーボード、ドラムセットらしきものが一部カバーをかけられた状態で置かれていた。
部屋は六畳はないだろう。窓は細く小さな換気用のもので、人が出入りできるほど大きくはない。照明は天井の中央に一つ、出入り口のドアの横に一つあるようだ。
「見たところ、怪異現象に縁があるようには感じられないね」
「僕もそんな印象だった」
「これは現場を見たほうが早いかもしれないな。なにもないなら何もないで、おまじないのつもりでお札の一つでも貼り付けておこうか」
「それは助かるよ。ひとつ、頼めるかい?」
「君の頼みだ、引き受けよう」
そんな感じで店長が安請け合いをして、俺も巻き込まれ、今に至る。
10
あなたにおすすめの小説
今さらやり直しは出来ません
mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。
落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。
そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜
高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀!
片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。
貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。
しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。
利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。
二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー?
曄琳の運命やいかに!
香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く
液体猫(299)
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/
香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。
ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……
その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。
香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。
彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。
テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。
後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。
シリアス成分が少し多めとなっています。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】お供え喫茶で願いごと
餡玉(あんたま)
キャラ文芸
身勝手な母親のせいで、血の繋がった父と兄と離れ離れになってしまった小学三年生の知也。
ある日知也は、『新しいお父さん』が家にいるせいで家に居づらく、夜の公園で空腹と寒さを抱えていた。
先の見えない孤独と寂しさに囚われかけていた知也の前に、突然見知らぬ少年が現れる。
高校生くらいの年齢に見える少年は樹貴(たつき)と名乗り、知也を見たこともない喫茶店に連れて行く。
なんとそこは、神様が訪れる不思議な店で……。
◇1/22、番外編を追加します! こちらはブロマンス風味が強いので、BLがお嫌いな方はご注意ください。
◇キャラ文芸大賞参加作品です。応援していただけると嬉しいです。よろしくお願いします!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる