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夜桜・不可思議カフェ百鬼夜行の業務“外”日誌
夜桜日和
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昼休憩。この時間は昼食を取るためのものであるが、わりと自由に過ごしていいことになっている。午後の開店時間までに戻ってくるなら外出もありなのだが、俺はここの賄いを食べて仮眠を取ることが多かった。
今日はあんなに眠かったのに昼食後は妙に目が冴えてしまって、俺は早めにスタッフルームを出た。
カウンターの向こう側にいた店長と目が合う。休憩用の折りたたみ椅子に腰を下ろして、なにやら雑誌を見ていたらしかった。表紙のいい位置に桜の名所特集と書いてある。
「おや、眠れないのかい?」
「寝なきゃいけねえわけでもないだろ」
俺がいつもスタッフルームを占拠して昼寝をしてしまうために、店長はここで休憩をすることにしたようだ。だいたいここで、コーヒーを飲みながら雑誌や本に目を通している。
「お茶を出そうか?」
「いや、水でいいし、自分で出せる」
「そう」
従業員用のグラスを取り出して、俺は水をいれる。氷は入れない。
お茶を断ったのは、俺が極度の猫舌であるために昼休憩中に飲み切る自信がなかったからだ。
「だいぶ暖かくなってきたことだし、アイスティーが出せるのだけど」
「新メニューの相談ならのるが、福利厚生なら求めちゃいねえよ」
はあ、と息をついて水を飲む。
「遠慮することはないのに。君の舌は確かなようだから、いろいろ覚えてほしいと思ってのことだよ」
「アイスティーが充実しても仕方ねえだろ」
「今年も暑そうだから問題ないさ」
そう返して、店長は雑誌をめくった。誌面が桜色だ。
「――花見の予定でもあるのか?」
「ないから見ているんだよ。僕はここから長く離れるわけにはいかなくてね」
「そうか」
遠出をするとしても店長ならひとっ飛びで日帰りする程度のことは可能ではないかと思ったが、そういう使い方は控えているのかもしれない。
俺が納得すると、店長がにこりと笑った。
「獅子野くんがどうしても僕と一緒に花見に行きたいというなら、弁当を用意して夜桜見物に興じるのはやぶさかではないよ」
「酒が飲めねえ癖に、弁当持参でか?」
「君のその容姿で缶ビールを握っていたら補導されてしまうだろう?」
「なんだ、酒はなしか」
幼い外見のために高校生くらいに思われがちなので、外で酒を飲んでいるのを見られたら補導されそうになる。成人しているし、酒は飲めるほうだから残念でならないのだが。
「酒などなくとも、僕は君となら楽しく過ごせると思っているよ」
「そりゃどうも」
俺がグラスを片付けると、店長も立ち上がって雑誌をしまう。
「――桜の木の下には死体が埋まっているというのは、創作の話だったかね」
椅子を折り畳んで壁にかけながら、店長がふわりと告げた。
「急になんだよ」
「あまりにも美しいものを前にしたら、不吉なものを添えてバランスを取りたくなるのだろうか」
「……あんたがそれを言うか?」
俺が店長を見て突っ込みを入れると、意図が伝わらなかったのか目を瞬かせてこてんと首を横に倒されてしまった。
「どういう意味かな?」
「意趣返しだよ、意趣返し!」
店長が俺の外見をいじってきたから、俺も店長の外見について言及してやったつもりだった。
なんで伝わらねえんだよ! 無自覚なのか?
俺は大きく息を吐き出した。
「もう開店の札にしてもいいよな? 行ってくる」
少し早い時間だが、休憩を終えてしまおう。俺は外に向かう。
「ふふ。君には僕の姿が美しく感じられているのだね」
俺の背中に、まんざらでもないような小さな声がぶつかる。
伝わってるじゃねえか。恥ずかしい。
「今夜は花見日和だ」
扉を開けると桜の花びらがふわりと室内に入り込む。
なんだかんだで、店長と一緒に夜桜見物に出ることになりそうな予感がした。
《終わり》
今日はあんなに眠かったのに昼食後は妙に目が冴えてしまって、俺は早めにスタッフルームを出た。
カウンターの向こう側にいた店長と目が合う。休憩用の折りたたみ椅子に腰を下ろして、なにやら雑誌を見ていたらしかった。表紙のいい位置に桜の名所特集と書いてある。
「おや、眠れないのかい?」
「寝なきゃいけねえわけでもないだろ」
俺がいつもスタッフルームを占拠して昼寝をしてしまうために、店長はここで休憩をすることにしたようだ。だいたいここで、コーヒーを飲みながら雑誌や本に目を通している。
「お茶を出そうか?」
「いや、水でいいし、自分で出せる」
「そう」
従業員用のグラスを取り出して、俺は水をいれる。氷は入れない。
お茶を断ったのは、俺が極度の猫舌であるために昼休憩中に飲み切る自信がなかったからだ。
「だいぶ暖かくなってきたことだし、アイスティーが出せるのだけど」
「新メニューの相談ならのるが、福利厚生なら求めちゃいねえよ」
はあ、と息をついて水を飲む。
「遠慮することはないのに。君の舌は確かなようだから、いろいろ覚えてほしいと思ってのことだよ」
「アイスティーが充実しても仕方ねえだろ」
「今年も暑そうだから問題ないさ」
そう返して、店長は雑誌をめくった。誌面が桜色だ。
「――花見の予定でもあるのか?」
「ないから見ているんだよ。僕はここから長く離れるわけにはいかなくてね」
「そうか」
遠出をするとしても店長ならひとっ飛びで日帰りする程度のことは可能ではないかと思ったが、そういう使い方は控えているのかもしれない。
俺が納得すると、店長がにこりと笑った。
「獅子野くんがどうしても僕と一緒に花見に行きたいというなら、弁当を用意して夜桜見物に興じるのはやぶさかではないよ」
「酒が飲めねえ癖に、弁当持参でか?」
「君のその容姿で缶ビールを握っていたら補導されてしまうだろう?」
「なんだ、酒はなしか」
幼い外見のために高校生くらいに思われがちなので、外で酒を飲んでいるのを見られたら補導されそうになる。成人しているし、酒は飲めるほうだから残念でならないのだが。
「酒などなくとも、僕は君となら楽しく過ごせると思っているよ」
「そりゃどうも」
俺がグラスを片付けると、店長も立ち上がって雑誌をしまう。
「――桜の木の下には死体が埋まっているというのは、創作の話だったかね」
椅子を折り畳んで壁にかけながら、店長がふわりと告げた。
「急になんだよ」
「あまりにも美しいものを前にしたら、不吉なものを添えてバランスを取りたくなるのだろうか」
「……あんたがそれを言うか?」
俺が店長を見て突っ込みを入れると、意図が伝わらなかったのか目を瞬かせてこてんと首を横に倒されてしまった。
「どういう意味かな?」
「意趣返しだよ、意趣返し!」
店長が俺の外見をいじってきたから、俺も店長の外見について言及してやったつもりだった。
なんで伝わらねえんだよ! 無自覚なのか?
俺は大きく息を吐き出した。
「もう開店の札にしてもいいよな? 行ってくる」
少し早い時間だが、休憩を終えてしまおう。俺は外に向かう。
「ふふ。君には僕の姿が美しく感じられているのだね」
俺の背中に、まんざらでもないような小さな声がぶつかる。
伝わってるじゃねえか。恥ずかしい。
「今夜は花見日和だ」
扉を開けると桜の花びらがふわりと室内に入り込む。
なんだかんだで、店長と一緒に夜桜見物に出ることになりそうな予感がした。
《終わり》
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