不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

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不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌・2【短編集】

きさらぎ駅攻略のあとで

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 昼休みに外に出たまま帰らない店長を心配していたら、滅多に鳴らないカフェ百鬼夜行の黒電話が鳴った。俺が恐る恐る受話器を取ると、低い唸り声のような音が聞こえる。

「――はい、こちらはカフェ百鬼夜行です。用件をお伺いします」

 前に伝えられていた通りに対応すれば、唸り声のような音が消え去った。

「よかったよかった、獅子野くんだね?」

 明るい男性の声。店長の声に似てはいる。

「なにがあった?」

 向こうの問いを俺はあえて無視した。
 自分の名を答えないこと、名乗っていない相手の名を口にしないことは頭に叩き込まれている。この黒電話が繋がっているのはこの世界とは限らないから、注意するように仕込まれていた。

「君の電話に連絡を入れたのだけど、繋がらなくてね」
「待て、確認する」

 携帯電話は勤務中も持っていてよいことになっている。受話器を握っていない手で尻のポケットに入っている携帯電話の着信の情報を確認するが、新規の着信はないようだった。メッセージアプリの新着表示も新しいものはない。
 向こうが言っていることが本当だったら、こっちの世界にはいないっぽいな。

「――それで、今どこにいるんだ?」

 おそらく普通の人間が行き来できるような場所には居ないのだろう。俺が尋ねると、向こうはうーんと唸る。

「それがよくわからないのだよ。そもそも僕はバスに乗っていたはずなのに、気づいたら電車の中でね。驚いて降りたら田舎の駅のような場所だった。ええっと、確か駅名はき……ぎ駅? 駅名を示す看板も朽ちているありさまで、よく読めないんだ」
「駅の中なのか?」
「いや、駅構内では電話が繋がらなくて、外に出たところさ」
「あー、それは……」

 かの有名な現代の怪異だとしたら、駅の中にいたほうがマシだったような気がしないでもないが、結局のところ厄介なことが待ち受けているのだろう。
 俺がアドバイスできそうなことはねえな。店長だったら、次元超えて出て来られるだろうし。

「ああ、いや。状況は把握した。あんたなら攻略できるはずだ。こちらの仕事は任せてくれ。レジを閉めるまでやっておく」
「そうだね。少々時間がかかるかもしれないが、逢魔時までには戻れるように善処しよう」
「健闘を祈る」

 そして通話は途絶えた。
 俺はカレンダーを見やる。在庫注文等の予定が書き込まれたカレンダーに書かれている今日の予定はもう片付いたものだけで、そもそも曜日的にも今日は客は来ないだろう。
 外の看板をオープンに切り替えて、俺はランチ後の仕事に取り掛かった。




 最後の客が出ていって、外の看板をクローズに切り替える。店内に戻ったところで俺は驚いた。

「なかなか興味深い体験だったよ」

 店長が帰ってきていた。薄手のトレンチコートが煤けている。

「やっぱりそこから帰ってきたのか」

 ホールの天井のすみに物怪の通り道がある。人間の住む世界とは別の世界と繋がっている場所だ。

「正しいルートを進むには時間がかかりすぎてしまうからね」

 そう答えたと同時に、俺の携帯電話が着信音を何度も鳴らす。驚いて見やれば、店長からの連絡なのだった。

「……ん?」

 ちらっと見えたメッセージ。店長からのものらしかったが、何か様子がおかしい。
 目の前の彼が、携帯電話を持つ俺の手首を掴んだ。画面が暗くなる。

「まだ仕事は終わっていないよね?」
「あんた、誰だ?」

 肌がゾワっとする。
 気配が違う。触ればさすがに察せられるものだ。なんせ今は勤務時間中、過保護な店長の加護が与えられたエプロンを身につけている。

「店長を返せ!」

 俺が威嚇すると、彼は手を離して後方に跳躍した。

「おや、バレてしまったか」
「店長を何処に隠しやがった?」
「彼がいない間に君を誘惑しようと思ったんだが、ふふ、なかなか難しいね」

 ドアベルが鳴る。鍵を掛けたはずなのに開いたのには理由があった。

「獅子野くん、無事かっ?」
「ホンモノのお帰りか。もう少し時間がかかるかと思ったが……隠居したといっても、か」

 対峙していた彼は手を振ると、天井のすみに跳躍して消えた。邪悪な気配もない。

「よかった。なんともなさそうで」

 俺が振り向くと、インバネスコートを着た百目鬼店長がほっとした顔を向けていた。

「さっきの、なんなんだ?」
「僕の熱烈なファン、かな」
「おどけるところかよ」
「新入りが入ったと聞いて、実力を見に来たのだろう」

 店長にもいろいろあるらしい。
 それでこの加護付きエプロンなのか……?
 俺は話題を変える。

「――で、きさらぎ駅から生還したのか? それとも、別のところにいたのか?」
「ああ、おそらくきさらぎ駅というやつだね。報告書にまとめたいから付き合ってもらえるかね?」
「残業代が支給されるなら」
「ならばコーヒーを淹れようか」

 こうして俺は、いつもの日常に戻るのだった。

《終わり》
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