魔導師として宮廷入りしたので、そのお仕事はお引き受けしかねます!

一花カナウ

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5:魔導師として宮廷入りしたので、襲撃されても怯みません!

真意はどこに

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 アルフォンシーヌはハッとして、上体を起こした。メルヒオールの背中が目に入る。

「あたしはメルヒオールさまじゃなきゃ嫌だって言っているのに、なんで殿下を引き合いに出すんですか?」
「いま、君が慰めてほしい相手はリシャール殿下でしょうと指摘しただけです」

 彼はこちらを向かない。どんな顔をして言っているのだろう。
 メルヒオールの声はたんたんとしている。

「なんで! あたしの話を聞いてよ!」

 ふだんであれば敬語、あるいは丁寧な言葉を選ぶのに、今は怒りと悲しみで気が回らない。互いに冷静になるために離れようというわけではなく、彼の言動が拒絶に感じられてしまう。

 どうして?

 メルヒオールの真意が知りたい。リシャールにメルヒオールは愛していないだのといろいろ言われたが、その場では妄言だと考えて否定した。跳ね除けられた。自分たちの間には愛があるのだと信じていたから。
 でも、今は不安だ。
 沈黙が流れ、メルヒオールはアルフォンシーヌに背を向けたまま告げる。

「……俺はわからない」

 彼の言葉は震えていた。

「アルをどうしたいのか。触れれば触れるほどわからなくなるのです」
「え?」

 そんな言葉が続くとは思っておらず、アルフォンシーヌは聞こえてきた言葉を反芻する。聞き違いだと思いたくても、そうなのかと納得できてしまう。
 ショックだった。

「――ああ、宮廷魔導師として一人前になったら妻に迎えたいと考えているのは本当です。ずっとそうしたい、そうあるべきだと、君に再会したときから想っていました。……思っていたんですよ」

 よく見ると、メルヒオールの拳が小刻みに震えている。

「メルヒオールさま、それってどういう意味? リシャール殿下がおっしゃったことを信じるなって……それはメルヒオールさまに不都合なことがあるからって……そういうこと?」

 どうして「思っていた」と繰り返したのだろう。そんな言い方をされたら、そう思わされていたみたいではないか。

 だとしたら、誰に?

 メルヒオールの気持ちはどこにあるのだろう。

「アル、師匠って呼んでください。もう今夜は休みましょう。俺はそこの床で寝ますから、何かあったら声をかけてください」

 ベッドの脇にある空間、その床を指で示す。

「え、でも」

 ベッドは広いのだから、端に寄れば二人とも寝られる。こんな状況で同じベッドで寝るわけにいかないのだとしても、師匠であるメルヒオールがベッドを使うべきではないのか。
 そもそもここはメルヒオールの待機場所だ。床なり長椅子なりで眠るのはアルフォンシーヌの方ではないのか。
 そういう思いからアルフォンシーヌはメルヒオールに手を伸ばす。だが、彼には届かなかった。
 顔がこちらを向いた。眼鏡の奥で、メルヒオールの冷たい青い瞳がアルフォンシーヌの姿を映す。鋭い視線から拒絶の意思を瞬時に読み取った。

「アル。俺に壊されたくなかったら、そこから出ないでください」

 シーツにメルヒオールの手が置かれると、魔法が発動した。人避けの魔法。ベッドの上に範囲を指定しているらしく、文字がうっすらとシーツに浮かんだ。

「メルヒオールさま――」
「俺もきっと、君の魔力に魅せられているだけの愚かな男なのでしょう。君は俺たちの大事な恩人です。――誰も死なせない」

 彼の言葉に決意を感じる。そして、恨む気持ちも察した。

 メルヒオールさまは何をしようとしているの?

 ふと、幼き日のことを思い出す。カスペール家の屋敷に少年二人が訪ねてきたときの出来事。一人はリシャール殿下だったが――。

「ね、ねえ。あの日、あたしたちに何があったの? あたし、思い出したの。リシャール殿下が実家を出入りしていたことを。彼と一緒にいたのは、あなたでしょう? メルお兄さま」

 そうだ。そうだったのだ。
 あの日訪ねてきたのはリシャールとメルヒオール。メルと呼んでいいと自己紹介した彼は、今のように髪は長くなかったし眼鏡もしていなかったが、確かにメルヒオールだ。
 アルフォンシーヌを見やった彼の瞳に動揺が滲み、悲しげに笑った。

「……アル、眠って」

 メルヒオールが魔法を唱えたのが今度ははっきりとわかった。意識が遠ざかる。
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