脇役の復讐劇を始めよう

中沢日秋

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第一章 復讐の下準備の下準備

第三話 高慢に溺れる脇役

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 「おい、コイツの服を売ってくれ。」
 「かしこまりました。ではこれでいかがでしょうか?」

 出されたのはこの少年・・にぴったりのサイズの白い麻の長袖の服、革のジャケット、焦げ茶の6分丈のズボン。
 その商品を出す早さに思わず口が開いた。

 「どうやって一瞬で服を用意したんだ?」
 「お客様の要望を先に予測するのは商人の極みですから。」
 「煮ても焼いても食えそうにないジジイだな。」

 この少年は犬の獣人。耳や尻尾、髪の色は汚れすぎて分からん。ドブの底の泥みたいな色になってしまっている。
 とりあえず風呂にでも入れてもう少しましな見た目にしてもらおうかな。

 「ほら代金。ここに風呂はあるか?」
 「一応ございますが。」
 「こいつを入れて洗ってくれ。髪の色も分からん。」
 「承知しました。上がった時に服も着させておきましょう。」

 先に金を払って奴隷をつれてってもらう。
 暇つぶし感覚で商品を見ていると奴隷が帰ってきた。

 帰ってきた奴隷は、濃い茶色い色をした髪と毛並みだった。髪はショートヘアで耳や尻尾の毛は比較的短め、か?

 面白い道具とかはなかったな。なんか意外、って言うか、俺が覚えてるのはあと一年後くらいの商品だった。

 「終わりました。これでしばらくは顔を出さないおつもりで?」
 「ああ。色々としないといけないことが多いんだ。お前も殺そうかとも考えたが、よく考えてみればお前は利益を追いかけてるだけだったしな。」

 こいつは確か後々王族に取り入って俺の邪魔をしてきたんだよな。俺の恨みを買わず、かつ金が良く入るような絶妙な嫌がらせ。

 「ほっほっほ。それは良かった。では、またのご来店をお待ちしております。」
 「じゃあな。」

 奴隷を連れて店を出ると、チラチラ視線は感じるが誰も寄ってこない。本当にありがたい。

 うーん。会話がない。暇だ。

 「喋れるか?」
 「・・・・・・うん。」
 「ステータスを見せてみろ。」
 「・・・・・・ステータスオープン。」


 名前    無し 空腹 疲労 奴隷
 年齢    16
 種族    犬魔獣人『異常種』 女
 職業    獣魔剣士 LV1
 レベル     1
 レベルp  0p
 スキルp  0p
 振り分けp 0p

 HP  98/67
 MP  126/2

 STR 74
 DEX 68
 VIT 53
 AGI 88
 INT 69
 MND 62
 LUK 11
 CRI 45

 ネイチャースキル
 『成長異常LV-1-』『獣化LV-1-』『魔獣化LV-1-』『魔剣化LV-1-』
 『復讐者の奴隷LV--』
 ユニークスキル
 『魔獣人化LV-1-』
 カーススキル
 『三首暴食ケルベロス・グラトニーLV-1-』
 マジックスキル
 『強化魔法LV-1-』
 ノーマルスキル
 『剣術LV-1-』『武舞LV-1-』『加速LV-1-』


 ・・・・・・女?16歳?名無し?三首暴食?異常種?レベル1? はっきり言って超雑魚。俺が軽く叩くだけでミンチになりそうで怖い。

 うーん。成長異常、ね。だから外見が小6程度なのか。納得。
 いや成長異常って言うネイチャースキルがあるから納得はするけど、なんでだ?・・・・・・まあ、言いか。

 とりあえずなんか食わせてやらないとなあ。まあなんかの果物でいいか。

 「おっちゃん。キリコの実を8つとナルの実を2つくれ。これ代金。」
 「ほいっ。お? どこから引っ張って来たんだ?その坊主は。あんちゃん意外に金持ちだったんだなあ。ガハハハ!」

 おっちゃんはこの奴隷をやはり男の子だと思ったようだ。

 ルナの実は果肉まで紙みたいに真っ白な色をした、顔くらいの大きさで、梨みたいな食感とキウイのような味のする実だ。

 豪快に笑う行商人のおっちゃんに別れを告げて離れる。

 ・・・・・・あのおっちゃんは、最後まで俺に手を出さなかったんだよな。むしろわざと裏切った奴らの足を引っ張ってたくらいだし。あっち側にいたことは気に食わないが。感謝はしてるんだよなあ。

 しばらく黙りこくって会話が無いまま道を進んで行き、宿屋が見え、着いた。

 「2つ日間、ベッドは二つでお願いします。」
 「はい。では、112号室へ案内いたします。」

 この宿屋はけっこう広い。快適だし対応はいいし、ただまあ、主人がクソすぎることを除けばなんだがな。

 「ありがとう。」
 「では、ごゆっくりお休みください。」

 案内役をしてくれた受付が帰っていった。

 「さてと、じゃあ早速一つ質問するぞ。」
 「っ。・・・・・・。」

 ピクン、と反応した。少し動揺しているようだった。

 少年・・・じゃなかった。少女か。少女に聞きたいことがいくつかある。というより、買った理由だし、どう答えようとこいつの悪いようにはするつもりはない。
 同じような奴だからだ。同属や同類ではない。仲間や味方になることもない。

 ただ、同じ道を歩み、手を汚してでも、人の道を外れようとも、復習をするかどうか。それを問う。


 の前に。

 「腹減ってるんだったら素直に言え。さっきからお前の腹の虫がしょぼくれた音を出してうるさい。」
 「ぐふぉっ。こほっ、こほっ。ケホ・・・・・・。」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・いいのか?」

 あれま喋り方が男の子じゃないですか。

 俺はこいつを奴隷として扱うつもりはほとんどないんだから、当然だ。名前が無かろうが外見が幼かろうが対等に扱うつもりだ。

 「当たり前だ。なんだ?無理やり重労働でもさせられて使い潰されるとでも思ったか?」

 コクコクコクコクコク

 無言で何度も頷かないで欲しかった。否定して欲しかった。俺ってそんなに酷いふうに見えるのか?

 「はあ。とりあえず。ほれ、さっさと食え。話はそれから。」

 コクン
 シャクシャクシャクシャクシャクシャクシャクシャク

 5つほど投げ渡したキリコの実を小さな口で必死にほおばって食べる姿は、リスみたいな小動物に見えて可愛らしかった。

 「ぷふぁ~。うまかった~。・・・あっ。」
 「別に敬語とかいらん。普通に話せ。」
 「う、はい。」

 うーん。こいつ、体に心が引っ張られて年相応の性格になってないぞ?外見と性格は合ってるんだけど、実年齢とは全く合ってないんだよなあ。

 「唐突に聞くが、お前は誰が憎い?殺したい?復讐したい?」
 「っ。・・・・・・。・・・・・・・・・・・・ぶ。」

 少しだけ耳に届いた呟くような声に、思わず笑みがこぼれた。

 「・・・俺を裏切った全部。俺を騙した全部。俺を壊した全部。俺から奪った全部。全部、全部全部全部全部全部。全部が憎い、殺したい。生きたまま皮を剥いで血の池に突き落として地獄のような悪夢のような現実の中で苦痛の中で殺したい。」


 静かで、暗い、沈みこみそうなほどに深く低い声が聞こえた。


 「俺も殺したい奴がいる。そいつらは俺から何もかも奪った。騙した。壊した。潰れて砕けて溶けて燃えてどろどろした冷たい熱の固まりになった何かが、俺を突き動かす。蟲を喰わせ、裏切らせ、騙しあいををさせて、身も心も魂もすべてを縛り、奪い、壊し、潰してやりたい。ゴミみたいなこの世界の現実の中で死ねない苦痛を味あわせてやりたいんだ。」

 ああ。同じだ。どこまでも同じでどこまでも違う、こいつの中の静かに燃え上がる炎。一度出てきたその炎は止まることを知らない。戸惑いを知らない。

 「俺は復讐したい奴がいる。お前にも復讐したい奴いる。どうせなら一緒に手を汚して壊してみよう。汚してみよう。潰してやろう。過去も今も未来も夢も現実も全て粉々にした上で殺してやろう。俺はお前にそれをしてやれる。だから、お前の答えを聞かせろ。お前は俺と・・・・・・・・・・・・・―――」




 「―――復讐をしてみるか?」




 その答えは顔を見るだけで分かった。そいつは、俺と同じ顔で笑っていたから。


 「もちろん。同じような闇を持ってるんだったら、、いい復讐が出来そうだし。よろしくお願いします。えと、ご主人様?」

 「ああ。よろしく。」


 そう言って、復習する方法について語り合い花を咲かせて、夜は更け、次の日へと変わっていった。



   *****



 「ふぁ~あ。おーよく寝た。ん。ん? んん?? んんん~~???」

 すがすがしい朝。早くやりたい拷問が多すぎて、逆に頭がすっきりしている。そんな素晴らしい朝。

 素晴らしい朝。のはずなのに。


 布団を丸めた巨大なボールが、俺の上に乗っかっていた。


 ゴソゴソ ゴソゴソ

 「ふぁあ。おはようございます。ごしゅじんさま。」

 「お、おう。おはよ、う?」

 どういうことなんだ?

 布団の塊の中から少女(名無し)が這い出てきた。芋虫のようにもぞもぞと布団を掻き分け顔だけ出して、眠たげな目をしたかわいらしい少女の顔。

 この世界に来たばかりの頃なら眼福なんだけどなー。昨日あれだけ狂った笑い声を上げて復讐について語り合ったからかな、なんとも思わなくなってしまった。
 って、そんなことはどうでもいい。今聞きたいのは何で布団の塊の中にいることだ。

 「何で布団の塊の中に?」
 「えーと。寝るときや体を休める時に体が冷えすぎるとHPが徐々に削られて、何度かしそれで死に掛けまた。」

 ・・・・・・『成長異常』のせいか?わからないことが多すぎる。そして寝起きのせいか括舌が悪い。
 まあいいか。

 「とりあえず起きろ。まずはお前の武器を買ってレベリングだ。最初の復讐は俺が貰っていいか?」
 「はい。んん~、ふぅ。後々でも復讐が出来たらいいよ。その相手が弱いままじゃ倒せないの?」
 「ああ。お前にもかなり協力してもらう。そいつはお前みたいな一見弱そうな奴を嫌っているし、その上その弱そうなやつに負けるなんてことになったら、そいつにとってはもう終わりだろうな。」
 「あくまでそいつにとっては、終わりでしょ。まあ、終わることなんてもうないけど。」

 その通り。終わらせる気なんて毛頭ない。終わらせるときが来るとすれば、それは全ての復讐が終わり、残りの時間をもてあました時だろう。

 「ああ、そうそう。昨日のお前が言っていた例のアイデア・・・・・・、最高だな。使わせてもらうよ。その為には俺もがんばらないとなあ。」
 「うん。俺そんなことされたら心が折れちゃう自信があるよ。」
 「そんな自信はいらねえけどな。」

 まあ、うん。俺は別に生きてても死んでても今は復讐をできればそれで良いや。

 復讐は結局のところは自己満足であって、誰かのためではない。俺達の復讐において契約や縛る物は何もない。単なる口約束だ。


 ただ、決して破ることが出来ない口約束。

 ただ、破れば対価を払うだけ程度の約束。

 ただ、自分が持つ全てというだけの対価。

 ただ、最後に残った復讐心さえ奪うだけ。

 ただ、奪われたが最後、本当の意味で全てを失うだけ。


 俺達は、そういう道を選んだだけで。違う道は全部無視してまっすぐにこの道を進んで行くだけで。裏切るという行為は、俺達を壊した奴等と同じ所へといくから、全てを消されようともしないだけで。


 だから、この道を選んだときから後戻りなんて出来ない。こうやって感傷に浸り、高慢に溺れ、復讐に酔って。


 脇役の俺達の復讐はまだ始まってもいない。これから始まる復讐に、俺達の全てが震えるようで。それがまるで、身を打つ快楽のようで。


 『闇紫高慢ルシファー・プライドを獲得しました。』
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