7 / 16
君の街まで編
#7 リヴァイアサン
しおりを挟む『災害級』という等級ですら、測りきれない魔獣がいる。
そもそも魔獣と呼べるかすら怪しい。
「奴ら」自身が天災であり、地球の意思である、と言われている。
生きていること自体が、人間だけでなく他の生命にとって脅威である。
約300年で延べ3回しかない発見報告とその脅威度は正に"神話"、故に『神話級』。
討伐成功は、発見報告三件の内一件のみ。
リヴァイアサンは、過去に一度だけ観測され、その大蛇の様な見た目と水を司るその力から名付けられた。
カレンが、顕現したリヴァイアサンを目の前に、死を覚悟した瞬間だった。
リヴァイアサンの頭部が戦闘機のごとき速度で大いなる四腕を、否、彼がいた場所を通過した。
その風圧をカレンが髪に感じる時には、大いなる四腕が湖の上空でもがいていた。
リヴァイアサンはさらにその上空にいる。
目で追う暇もないほどに、リヴァイアサンは頭部を大いなる四腕に向けて急降下、そのまま湖のど真ん中へ突き刺した。
リヴァイアサンの長い胴体がみるみる湖に吸い込まれていく。
初めにリヴァイアサンが飛び出してきた場所から尾びれが抜かれると、その尾びれが湖に戻る前には、再びリヴァイアサンが顔を見せる。
太陽と重なる様に頭部を構え、リヴァイアサンはカレン達を一瞥する。
正しく蛇睨み。
カレンとアイリは指先まで凍ってしまったかのように動けなくなった。
【水魔法】の極致、海獣の名を成すが通りに、その口先から放たれるは水の光線。
空を斬り、音を飛沫に変える人智を超えた魔法。
死を覚悟したからだろうか、カレンの体はずっと緊張がとけ、冷や汗をかきながら膝から崩れ落ちた。
絶望はしない、諦めもしない、死の直前まで挑戦することを辞めない様に顔を上げ、目線だけでも、と、目の前にいる神のごとき存在に一矢報いようとしたことは、彼女にとってこの数日間で得た学びから成長できたと誇れることだった。
いつだって彼らの背中は先を行き、逆光に抗うように希望の影を落とす。
目の前には、腕を組み仁王立ちでカレン達に届くはずだった水を魔法陣で受け止めるアンコがいた。
激しい水飛沫の中、アンコはニヤリと笑う。
自信に満ち溢れた彼女の髪は大きく靡いていた。
やがて、水のレーザーが止み、その銃口がゆっくりと閉じる。
「あなた達、私の後ろにいなさい」
十大アンコの唯一の適性【守護魔法】。
本来、適性が【守護魔法】のみでは魔道士は成り立たない。
【守護魔法】は名の通り、守るだけの魔法。
だがそれでも、彼女の師、鏑木時定は彼女を徹底的に鍛え上げた。
それは、鏑木時定の弟子として魔道士になりたい、という彼女に応える為、ある意味時定の意地だったかもしれない。
その甲斐あってか、彼女は成った。
今では、最強と呼ばれる時定の魔法をも防ぎ切り、絶対防御という名を持つ彼女の障壁は背後に一切の魔法を通さない。
それが『神話級』であっても例外ではない。
そして十大アンコは強敵を前に笑う。
「あれ、ユウキさんは……?」
体勢を建て直したカレンは周りをみてユウキがいないことに気づく。
アンコは強敵を前にして自らの防御への自信と強者へと挑むことの楽しさから笑う。
さらに彼女の【守護魔法】が最大限に輝く時、彼女は誇らしげに強敵へと立ち向かう。
それは護るものがいる時、それと___
「ユウキくんならあそこよ」
アンコの指さした先はリヴァイアサンの頭上。
そこには、バチバチと雷光を放ち、リヴァイアサンに対して腕を構えるユウキがいる。
彼女の魔法が最も輝く時、それは、隣に最強の矛がいる時だ。
アンコとユウキは、互いに絶対的な信頼を寄せている。
二人揃っている時は、お互いに攻撃・防御を任せ、それぞれの役割に全力を尽くす。
そして、"最強"鏑木時定の意志を継いだ者達、ユウキも強敵を前に笑った。
大いなる四腕へとリヴァイアサンが攻撃した時、ユウキはすぐさま攻撃へと行動を移し、周囲の木を足場に蹴り進み、一気に電荷を溜める。
光速の域まで速度上げた時、ユウキはリヴァイアサンへと向かって飛び上がる。
そして放たれるは、溜め込んだ電荷を収束させた【雷撃】。
リヴァイアサンが頭上のユウキの存在に気づく前に、魔法が直撃する。
その余波が水面を駆け、木々を揺らす。
カレンは、二人の勇姿を見て、一体どれだけ遠い背中だろうか、と思い馳せ、カレンが向けた憧れの眼差しにはいつしか柔らかな炎が灯っていた。
共に戦いたい、こんな魔道士に成りたい、カレンが鏑木魔法対策所に求めたモノは確かにあった。
時定を初めとした他と一線を画す魔道士に、食らいつき、強くなりたい、カレンが思い描く目標が今くっきりと心に浮かび上がった。
ユウキは魔法の反動を流し構えを解く。
しかし、その下にはぶるん、と一度身震いしただけのかすり傷一つ付いていないリヴァイアサンがいた。
リヴァイアサンはユウキの方へ向きを変え睨みつける。
「……まじ?」
ユウキにとってもこれ程ダメージが無いのも想定外だったのだろう、現在の彼は空中で無防備、回避すらまともに取れない。
そんなユウキをリヴァイアサンは今にも飲み込もうと大きく口を開け、突き進んでいる。
ダメだ、と思ったその時にはカレンの足は踏み出していた。
勝てない相手だなんてカレン自身が一番身に染みてわかっている。
現れただけで怯み、睨まれただけで死を覚悟した。
しかし、それでも、何かしないと目の前で大切な存在を失ってしまう。
今までのカレンでは踏み出すことの出来なかったこの一歩がきっかけを生み出すはず、焦燥か無謀か、カレンがアンコの魔法陣を飛び出した。
「何か、何か! 一体私は何が出来る! 最大限に想像して"私の魔法"の可能性を!」
徐ろに胸の前で構えた両手の先に赤い炎が灯り、次第に大きく燃えていく。
燃えた炎を左手から右手、右手から左手へと円を描きながら紡いでいく。
イメージしたのはロープか鎖か、そんなことは頭から消し去り、今リヴァイアサンを引き止めるだけの魔法を展開する。
火力の増す炎を、空をなぞってリヴァイアサンへ放つ。
炎の鎖はリヴァイアサンの首へと巻き付く、カレンは炎を掴んで精一杯に引っ張った。
だが、びくともしない、それに火力も足りない、リヴァイアサンは少し速度が落ちた程度、ズルズルとカレンが引き摺られていく。
「なにこれ、重たい……! それに、最も火力を上げないとっ!」
魔法に集中しようとするが、少しでも気を抜けば、一気に持っていかれるだろう。
「キュウン!」
「ふ、フレアちゃん!?」
唐突にカレンの髪からヒョイッと飛び出したフレアがカレンの炎を引いている右手に触れた。
そしてフレアは、力を入れるように全身が赤く光りだす。
すると、カレンの炎は掴んでいた所からさらに勢いを増し、火力を上げていく。
リヴァイアサンまで辿り着き、倍程の大きさに成った炎の鎖は、リヴァイアサンの首を締め付ける。
リヴァイアサンは呻き声を上げて、行動を止める。
瞬時にカレンの方へ向き、尻尾を振り上げた。
苦しみながらも尾びれを叩きつけようとカレンめがけて尻尾を振り下ろす。
「【風刃】ッ!」
リヴァイアサンの苦し紛れの攻撃がカレンに届くことは無かった。
後方から飛び出してきたアイリが【風魔法】薙ぎ払う。
……はずだった。
「ちょっとまって、めっちゃ重いッ!!」
刀で受け止め、鍔迫り合いの様になるかと思われたが、アイリは力負けしている。
変わらず窮地であったが、カレンが注意を引いた隙に電荷を貯め直したユウキが音よりも早く二人を救い出す。
「ちょっと、アイリ何しにきたの!」
「ごめん、ごめん、なんだか飛び出すカレンを見てたら体が動いちゃって」
えへへ、と反省の色の薄いアイリに、「もう!」と小突く。
だが、アイリのあの一手が無ければ、あの一瞬が生まれなければ、ユウキも間に合わずカレンは潰されていたのかもしれない、だから攻めきれない。
「火ノ花さんも、無茶は禁物! ……だけど今回ばかりは助かったよ、ありがとう」
アンコの魔法陣の裏でリヴァイアサンについての考察が始まる。
「ユウキさんならどうにかなりましたよね?」
「さぁ、どうかな……、とにかく、魔法が効かないのはきついな」
今も水を飛ばし続けるリヴァイアサンを見れば、ユウキの攻撃だけでなく、カレンが巻き付けた炎の鎖も、アイリの風も、何も無かったかのように、綺麗な鱗が煌めいている。
「肝はあの鱗と甲殻だね、おそらく魔法のダメージだけを消し去るもの、僕の雷にも二人の攻撃も衝撃はあった、完全な無効化ではない」
「剥がせないでしょうか」
「しんどそうだね、できたとしても一人じゃ無理、せめて二人であいつに張り付かないと」
「ね、目はどうかな、あそこなら通るんじゃない?」
「……悪くないね、試す価値はある」
「じゃ、私達二人はサポートに、なんとかユウキさんに攻撃を___」
「いや、二人も主力だ、三人で一斉にあいつの目を突く、アンコ」
「ええ、アレね、分かったわ」
「でも、私のは"炎"ですし、あんまり効かないかと……」
「相手は『神話級』、少しでもダメージソースはほしい、それに火ノ花さんの可能性は【炎魔法】だけじゃないでしょ?」
「そう言われても……」
「よし、二人は実戦訓練と銘打とう、僕とアンコがいる、絶対死なせはしない、安心して挑むんだ」
『神話級』の魔獣となんて戦う機会は滅多に来ない、勝てば大きな自信となる。
ユウキは右手に魔法剣を顕現させ、【風魔法】のカプセルを装填する。
カレンとアイリはフゥーッと深呼吸し、息を整える。
そんな二人にアンコは触れ、声をかける。
「いい? 今私の魔法を付与したわ、ゲームで言うライフが増えたとでも思って」
【守護魔法】の付与。
アンコから離れてしまえば魔力の流れが途切れてしまうので、アンコの張る無敵の結界、とはいかないが、何度か攻撃を防いでくれるアーマーの様になる。
「さっきの水鉄砲からして三回よ、あの攻撃を三回受ければ壊れてしまうわ、危なくなったら戻ってきて、もう一度付与するから」
そして二人は先頭に立つユウキに並び立つ。
「火ノ花さんは風凪さんを、風凪さんは火ノ花さんを、お互いに意識して呼吸を合わせるんだ、そこに僕が合わせる」
アンコの魔法陣が消えたら合図、リヴァイアサン討伐作戦が幕を開ける。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
ギャルといちゃこらしていたらダンジョン探索がはかどった件。うちのお菊がもふもふで可愛すぎる♡
マネキネコ
ファンタジー
日本国内に3つのダンジョンが出現して早10年。日本国政府は各方面と協議を重ねた結果、ダンジョンを国民に開放すると宣言した。つまり現在では探索者ライセンスさえあれば誰でも気軽にダンジョン探索ができる時代になっているのだ。高校生になった僕は夏休みに入るとすぐに探索者講習を受けライセンスを取得した。そして残りの夏休みすべてをダンジョン探索へと費やし、通常は半年以上は掛かると言われていた最初のレベルアップを、僕はわずか3週間あまりで達成した。これはとんでもない快挙といってもいいだろう。しかも他の人に比べると、身体能力がはるかに劣っているチビデブの僕がである。こんな結果をもたらした背景には、なんといっても僕のパートナーであるお菊の存在が大きいだろう。そしてもうひとつ、なぜだかわからないが、ステータスの中に『聖獣の加護』が表示されているのだ。おそらく、この効果が表れているのではないだろうか。そうして2学期が始まり僕が教室に顔を出すと、最近やたらと絡んでくるギャル友から「あんたなんか変わった!? なんていうか雰囲気とか? 背もだいぶ伸びてるみたいだし」と、なんでどうしての質問攻め。今まで異性には見向きもされなかった僕だけど、これってもしかして、『モテ期』というやつが来てるの?
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる