カブラギ魔対はロマン主義って本当ですか!?

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君の街まで編

#9 君の街まで

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 渦に飲み込まれてどれだけの時が経っただろうか。

 初めは水中にいて、必死に息を堪えていたのだが、一分もしない内に空気を感じ、その途端に体は落下していた。

 二人は地面に叩きつけられ、暫く気を失っていたようだ。

 四方は岩壁に囲まれているが、底に広がるのは所狭しと建ち並ぶ家屋と何棟かのマンションと少し行けば駅と線路まである。

 見たこともない形の車や、少し前、旧暦信仰の敷地内でみた電柱が街中を這っている。


 神南湖には確かに街があった。


 この街の空にはステンドグラスの様に光を反射する水面がある。


 推測するに、ここはリヴァイアサンの巣。

 リヴァイアサン直々の招待でのみ入ることのできる神南湖の真の湖中。

 この街自体がダンジョンであり、リヴァイアサンはここと湖を自在に行き来できるようだ。


 ドガンッ、と激しく音を立てて街から喧騒が聞こえる。

 当のリヴァイアサンといえば、ここに来てから、先に呑まれていたらしい大いなる四腕ザ・フォースと激闘を繰り広げていた。

 カレンもこの戦いの騒音で目を覚ましたのだ。



 「おはよう、火ノ花さん」

 目が覚めると、眼前にユウキの顔。
 彼の膝枕にあやかっていたカレンは咄嗟に上体を起こす。

 ベンチの上で頬を赤らめたカレンは状況を察して、顔を叩いて落ち着かせる。

 「ゆ、ユウキさん、すみませんご迷惑を……」

 全然、大丈夫だよ、とユウキは笑っているが、カレンはいたたまれない。


 「ここに来てはっきりしたね、引っかかってたモノの辻褄が合う」


 そう言ってユウキが指さした先にあったのは、大蛇の骨。
 その大きさは、リヴァイアサンの二回りほど大きく、隣のマンションが摘めてしまいそうなものである。



 大いなる四腕の傷、それにユウキは自分達が『神話級』に対してここまで戦えることに違和感を覚えていた。


 
 この骨の大蛇、成体のリヴァイアサンがここの
 こいつが死んで、その子のリヴァイアサンと大いなる四腕が次の主に名乗りを挙げた。

 「戦い慣れていない幼体のリヴァイアサンに対して、力の大いなる四腕、高く見積っても『災害級』が『神話級』と同等に戦えるのには裏があった」

 リヴァイアサンの最もな特徴は魔法を無効化する鱗と甲殻。
  自らの膂力を武器とする大いなる四腕にとっては無いも同然だ。

 「それでもリヴァイアサンに目立った傷が無いのは流石『神話級』ってわけか」


 それと、と立ち上がったユウキはカレンを手招きする。

 「少し冒険しよう」





 二人は並んで街を歩く。

 どこも生活がそのまま止まったかのように状態は綺麗だ。

 道路標識、軋む枕木、無風の公園、全てが死なずに、生きて時の止まった動物の様に息をしている。

 帰り方もわからない、だがその足取りは少しずつ明るくなっていく。

 見たこともない未知の領域を散策する、解明していくその高揚感が、カレンの気持ちを押し上げていく。

 これが彼らの最も重要視する気持ち。

 これを求めるロマンというモノの一端に触れた気がした。





 しばらく街を練り歩いてたどり着いたのは、大蛇の頭蓋骨の口内。

 そこには一棟のアパートがある。

 ユウキはそのアパートの最奥の角部屋へと入る。

 部屋の中には男女の生活感の溢れるリビングに、数枚の写真立て、その横に置かれた一本のギター。


 「僕はこの近くで目覚めてさ、何かを守るようにこの骨があったから少し探ってみたんだ、この部屋から漂う魔力が他と違う感じがしたから入ってみたら案の定だよ」

 「ということはここって」


 ユウキ達が探し求めたロマンの先。


 この街が"君の街"で、この部屋がその物語の結末。

 正解だ、と言わんとするように写真立ての横に飾られたCDが存在感を醸し出している。

 タイトルは『君の街まで』、その下に『茜音あかねへ』と綴られたジャケット。

 「強い人の思いが詰まった物は魔道具になりやすい、このCDかギターか、はたまたこの部屋か、滲み出る心地の良い魔力にリヴァイアサンが吸い寄せられダンジョンになった」

 「ダンジョンの核ってことですか?」

 どうだろうね、とユウキは付近を物色する。


 ここから、ユウキは自分の興味を、趣味を抑えられなくなった。


 「それにこのギター、千年モノのヴィンテージだよ? すごいなぁ、もう手に入らないモノだよ!」


 ギターを手に取ると、弦に優しく触れる。
 ピンッとなる音は弾き手のせいできっとまともな音では無いのだろうが、そのギターの音色の良さを示している。


 今触れているモノからおよそ千年、音楽も魔法の介入によりその姿を変えた。


 なので、ここにあるCDもギターも現在では見ることすら叶わない。

 ダンジョンとして、その時を止めていたおかげでほとんど劣化はない、けれどもここが千年もの時を過ごしたというその歴史をみっちりと蓄えている。



 「持って帰るんですか……?」

 「当然、コレクションに加えるよ」

 盗みなのではないか、とカレンは疑問に思う。

 だがユウキはその自論を唱える。

 「勿論、縁ある人やその場所が最適ならちゃんと返すよ、だけどさ、何の因果かこれは数千年の時を経て今ここにある、僕らは今、過去と接しているんだ、昔の人が確かに生きたっていう証を僕は感じている、僕は未来を生きる人間として、この過去を感じていたい、半分は趣味だけどね」

 

 偶然見つけたギターケースにギターをしまい、CDをポケットに入れて担ぐ。

 カレンは出る前に部屋を見渡す。

 今回の冒険で探し求めた物語の結末。

 病床に伏した彼女と、思い続けた彼氏の話、その結末はフィクションにすれば思いのほか地味ではある。

 彼らの愛と、希望、病を克服し、二人思い焦がれた街での質素な生活はノンフィクションにおける最高のハッピーエンドだろう。

 これまでに得たことをユウキ達や、現代の人間ではきっと文章に起こすことはできない。

 たとえ、そのままの状態で残っていたとしてもこの過去は彼らだけが歩いた軌跡なのだ。

 カレンは、ただその軌跡に足跡を重ね、揺らめく魔力に愛を感じていた。





 「さて、どう帰ろうか」

 ユウキ達は部屋を出て空に思い馳せた。




 その時だった。

 真横にドンッと激しい音を立てて、まるで隕石が落下したかのように大いなる四腕が飛んできた。

 その様を確認する暇はない。

 追撃するようにリヴァイアサンが大いなる四腕目掛けて突進してきたのだ。

 序盤は優勢だった大いなる四腕も徐々に実力の差が露呈し、危うくなっていた。

 
 その突進は大地を抉り、やがて土煙を抑え上空にリヴァイアサンの姿を顕にする。

 「やっぱり、あいつに聞くしか無さそうだね」

 大いなる四腕はノックアウトされてしまったのか、リヴァイアサンはまだ見える右目に怒りを見せて、視界に入ったユウキ達に向けて吠えた。



 「倒さないと、無理ですかね……?」

  地上では様子見程度だったかもしれない、魔力切れも近い中、どう見ても先程より本領を出している『神話級』を相手取らなければいけない。
 おそらく、もう目への攻撃も警戒されているはずだ。


 「障壁は?」

 「だめですね、たぶんここに落ちた時に切れました」

 「うーん、一つ……秘策があるんだけどね」

 「やりましょう」

 「聞かないの?」

 「いや、作戦は聞きますよ、でも迷ってられません、です」

 「火ノ花さんもカブラギ魂が分かってきたねぇ」

 もうっ、とカレンはそっぽを向く。
 どんな作戦だろうと、今はここを出ることを考えなければ。
 何事も試す価値はある、想定外を想定内にだ。


 「秘策はあいつの口だ、僕が口に入って雷を放出する」


 内側からの攻撃。
 地上での戦いからも分かるように、魔法を消すのは体表の鱗、目への攻撃も鱗の内側への攻撃も通っていた。

 だが、それ故に顔面に対する警戒も激しい、容易に飛び込ませてはくれないだろう。

 「あいつへの攻撃は無効化されちゃうから僕は別に電荷を溜めないといけない、その間に火ノ花さんには隙を作ってもらいたいんだ」

 「私が倒しちゃってもいいんですよね?」

 「強気だね、でも限界でしょ?」

 「限界なんてとっくに通り越してます、幸い魔力酔いはまだですし、さっき掴んだモノに全力を尽くします」

 内側からの攻撃、不意なヒントで思い浮かんだイメージを形に、カレン自身がリヴァイアサンに勝つイメージ。

 今ここで吸収できるもの全てを吸い尽くしてやる。



 カレン達に向けて放たれた水のレーザーを交わして散開する。

 リヴァイアサンとカレン達の第二ラウンドが開始された。
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