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本部侵攻編
#11 邂逅
しおりを挟む「ドレスコードって、なんだか苦手だなぁ、私」
神南湖の一幕から三日、予定していた集会に出席する為、見慣れない洒落たドレスを纏い、履き慣れないヒールと、カツカツと鳴るその足音のリズムは乱れている。
「そう? 私は結構好きだけど」
紅く染まったレースを花のようにあしらったドレスを着たカレンと、黒いドレスとその胸元に付けられた漆黒のブローチから垂れでる緑のベールが印象的なアイリ。
どれも今日の為に見繕われたオーダーメイドだそうだ。
ユウキと時定はタキシードで決めている。
普段がラフな格好のせいで違和感マシマシのユウキに反し、時定は妙にハマっていて風格を醸し出している。
とあるホテル内、会場へと続く少しばかり長い廊下を四人は歩く。
アンコは昼間に仕事があったので会場で合流すると連絡があった。
おそらくもう着いて先に入っている頃だ。
魔法大臣、大道克己直々の招集、そして今夜の決起集会。
そんなプレッシャーと、そもそも経験のないこんな状況下にカレンは緊張していた。
「そう切り詰めることはないよ、火ノ花さん、今日はたぶん大半がパーティになるだろうからね」
数多くの魔道士達が集い、作戦に向けてその親睦を深める、決起集会はそんな意味も含んだものなのだ。
ユウキや時定が招集されている以上、選りすぐりの実力者もいるだろう、ユウキによれば、今回カレン達に贈られたドレスコードを仕立てた人物も来ているらしい。
彼らと触れ合う事も、魔道士として勉強になるだろうと時定は二人のインターン期間を延長してまで連れてきたのだ。
廊下の先、大扉の前に設けられた受付スペース。
そこには数人のスタッフと、他を凌駕する異彩を放つオールバックで長髪の男性。
彼はこちらを見るやいなや、大股で歩み寄ってきた。
カレン達においては、その威圧感に当てられ多少の恐怖を抱いている。
「鏑木! やっときたか、久方ぶりだな元気だったか」
彼こそが、現魔法大臣、新東京の実質的トップに立つ男、大道克己である。
「変わらずだよ、克己、お前はほんとに変わらぬな」
白髪の割合の方が増え、初老とも呼べなくなってきていた時定に対し、同い年だと言うのに大道は生気に満ち溢れ逞しい印象だ。
二人は熱い握手を交わし、久方の再会を喜ぶ。
「大道さん、お疲れ様です」
ユウキが二人を分け、大道の手を取る。
「ユウキ君、今回はありがとう、君が来てくれれば百人力だ、助かるよ」
大道もその手を握り返し、ユウキに笑みを返す。
「こっちの二人は今インターンでカブラギ魔対に、勉強を兼ねて今回の作戦に」
カレンとアイリははじめまして、と頭を下げた。
「あぁ、聞いている、卒業後はBEEMsへと入隊するらしいね、期待しているよ」
目の前にいるのは魔道士を司る、新東京のトップ。
そんな人物から認知され、多少の期待を抱いてもらえている事実に、二人の緊張は少し和らぐ。
「隠居者の袖を引っ張ってまで、今回は大変なのかな?」
「否、かなり大規模なものではあるが、半分はお前に会いたかったからだ、中々暇がなくてな、色々言い訳つけて呼んだ、伝えるべきこともあったしな」
「ほう」と時定は目を細める。
「神田が殉職した」
その一言に、微笑ましく熱さを孕んでいた場の空気が冷えた。
時定の顔も浮かない表情だ。
「実はこの間、彼の家族から連絡があってな、神田が仕事から戻らないというものだから、心配になって私が引き継いだんだ」
そこで息絶えた旧友を発見した。
神田と呼ばれる魔道士、フルネームを神田宗一郎。
彼は時定や大道と同期にして同じサークルメンバー、そして時代を築いた名のある魔道士だった。
時定の部屋に飾られた写真、そこに写るメンバーの一人。
「……そうか、ユウキ、席を外してくれるかな、先に会場に入っているといい」
ユウキ達に気を使ったのか、時定自身が堪えられないのか、真意は定かではないが彼にとって旧友の死はかなり堪えているのは間違いない。
促されるままにユウキ達は受付を済ませ会場に入る。
大道はまだ少し時間があるようで、近くのソファに時定を誘導し、部下にコーヒーを頼んでいた。
扉を開ければ、そこに広がる煌びやかなパーティ会場。
立食形式に疎らに並べられた円卓を囲うように数多の魔道士達が喧騒を立てる。
高い天井に吊られたシャンデリアが会場全体を暖かい光で包んでいた。
その中に一人、会場にいるほとんどの魔道士が正装を纏う中、その服装から一際目立ち、もはや浮いているまである青年が、待ち構えていたように、入ってきたユウキ達に声をかけた。
「やっときたか、ユウキ、もうお前らだけだぞ、待ちくたびれたぜ」
左目の眼帯に、大きく目立つパイレーツハット、様々な装飾の施されたコートを肩に羽織った青年。
彼の名はカイド、本名を海藤アキラ。
正に、海賊と呼ばれる魔道士である。
『魔道士ランキング』というものがある。
月刊魔道士特集雑誌MAGICの編集部が一般人を対象にアンケートを取り、一年に一回掲載される、魔道士の実力・人気を可視化した人気コーナーだ。
百位から名前を掲載され、トップ10に名を連ねるものは屈指の実力と絶対的な人気を誇る。
"瞬雷"鏑木ユウキは、第四位。
強さはもちろんの事ながら、その優しい笑顔は、特に地元の人達から莫大な支持を得ている。
魔法省非公式ながらもその総評数から影響力は高く、上位に載れば、それだけ仕事が増える。
多くの魔道士が名前を上げるために奮闘する。
魔道士ランキング第六位 "海賊"カイド。
大海に夢を見て、波を駆ける男。
鏑木ユウキと幼馴染みにして、本人は海賊団を自称しているが、俗に海藤グループと呼ばれる、新東京近海全域で発生する魔獣案件、その全てを担う大企業の敏腕社長である。
「アキラ、少しぐらい場に合わせたらどうだ」
「バカ言うな、これが俺の正装だぜ?」
カイドはバサリとコートを翻し、ユウキと話ながら会場の中央へ進む。
ユウキ達は道中、ウェイターからドリンクを受け取り、場の雰囲気を噛み締めながら歩いていく。
「今回はお前だけか?」
「あぁ、本船は今西神楽へ遠征中だ、大道さんがお前らもいるからどうだってな、わざわざ陸へ戻ったんだぜ?」
カイドはテーブルにあったスペアリブを鷲掴み、かぶりつく。
「そういえば、聞いたよ『災害級』渦渦の討伐」
「あれか、ほんとひでぇ嵐だったぜ、久々に骨のある相手だった」
嵐を諸共しない天晴れなる海戦。
進軍するカイドの勇姿は男達の憧れの的である。
ユウキ達が和気あいあいと話していると、一人の男性が話しかけてきた。
「竜胆さん! お疲れ様です」
竜胆タケヒト、"双竜拳"の二つ名と共にランキング第八位に名を連ね、心・技・体をその身に表す武闘の達人。
彼の扱う【竜魔法】は厳密には魔法ではなく、身に宿した適性魔法を【竜気】と織り交ぜ使用する、代々竜胆家に受け継がれし技法。
彼は両拳に炎と雷を宿し、その拳は天を翔ける。
ちなみに、そのガタイと強面でさらに老け顔でもある事から勘違いされやすいが、歳は三十三と意外と若い。
「大道さんが君もいるっていうから、会えるのを心待ちにしていたよ」
ユウキの事をデビュー当時から気にかけてくれており、ユウキもかなりお世話になっている。
ユウキと竜胆、それにアキラも交えて普通に会話しているのだが、カレン達にとってはランキングトップ10が三人も一挙に集い、憧れであった彼らと話すことができているのが、そもそも畏れ多いことだ。
だが、更にそこへ気を負う存在が投下される。
「ユウキは~ん、会いたかったわ~!」
リボンを基調とした黒のふんわりした生地に白のラインのフリルがこれでもかとのったロリータファッション、それでも確かなスタイルを主張する少女がユウキ目掛けて飛び込んできた。
抱きつかれたユウキは、いつものこと、とニコニコしている。
少女は呆れる竜胆を見つけると睨みつけて言った。
「あら、竜胆はんやないの、ウチに負けた竜胆はん」
「相も変わらずだな呉城、いい加減ユウキにベタベタ引っ付くのを辞めろ」
「嫌なら力ずくで剥がしたらええんとちゃう? ま、無理な話やけどね、ウチに負けてるんやし」
クスクスと嘲笑する少女は、ユウキの腕に頬を擦り寄せている。
「火ノ花さん、風凪さん、紹介するよ、こちらが今回そのドレスを仕立ててくれた、呉城カズハだよ」
「ぞぞぞぞ存じ上げております!」
カレンが恐縮するのも無理はない。
彼女は世界きっての有名デザイナーズブランド『KUREHA』のメインデザイナーでありながら、魔道士ランキング第七位を誇るトップ10最年少の逸材である。
ユウキからは何も聞かされず、ただドレスを渡されたカレン達にとって開いた口が閉まらない大物だった。
『KUREHA』はそのデザイン全てをカズハが手がけており、更にオーダーメイドのみで予約は三年待ち、一般の服飾だけでなく、魔道士が身に纏う、いわゆる戦闘服も一級品、数多くの魔道士からお墨付きを貰っている。
ありがとうございます、とカレンは衝撃波が出るのではと思えるほど頭を何度も下げている。
アイリはと言えば、自分のドレスを、へぇー、とまじまじ眺めていた。
「いやぁ、急やったからウチのロゴをつけ忘れたんやけど、喜んでもらえてるようでよかったわぁ」
「忙しいかっただろうに、悪かったね」
ユウキがカズハを労うと、彼女は目を輝かせた。
「ええんよ、ほんの千二百件後回しにしただけやし」
サラッと言われたことに衝撃を受け、カレンはまた頭を上がらない。
というか、上げれば上半身が吹き飛ぶのでは、と上げられなかった。
だが、確かにユウキとアキラに向けられる視線と、カレン達に向けられる視線はどこか違うものがあった。
威圧されているような、笑いながらもどこか睨まれているように感じるのだ。
「ユウキはんのお頼みなら、ウチは火の中水の中、地獄の果てへでも参ります……」
そう、彼女はユウキにほの字なのである。
そんな二人に割って入るのは竜胆だった。
「ふん、ならさっさと地獄で死んでこい」
「なんなん? この人さっきから、けったいな人やわ」
「そのキモい話し方もいい加減辞めたらどうだ?」
「べー、これが素なんやから仕方ないやろ?」
この二人は犬猿の仲なのである。
元はと言えば、カズハが元々竜胆の気にかけていたユウキに執拗に擦り寄って来たのが原因なのだが、初めは優しく注意していた竜胆に、ユウキを誰にも渡したくないカズハが反発し今に至る。
当のユウキが仲裁に入るほどの大喧嘩にまで発展したこともある。
そして、カズハが疎ましく思う存在がもう一人。
「あ、ユウキくんじゃない、着いてたの」
ケーキをこれでもか、と皿に盛り、口にクリームを付けながら頬張っているトップアイドルの姿がそこにはあった。
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