死にかけ英雄譚は黒髪美少女と共に。

まくしみりー

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二章 華と妖人の国

09.旅と豪傑は聯。

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 まだ月が隠れない早朝、俺とアルテミアは宿屋を後にした。心地いい冷風が頬を撫でる。

「出発って言ってたけど、馬車でも借りるのか?」

「馬車で行けるような距離じゃないですよ。国が違うんですから」

「でもレオは修学旅行って……」

「『転送臨環てんそうりんかん』っていう魔導機が、『烏合の衆』近くにあるらしいです。これはどこに行っても同じだそうですよ」

 テンソウリンカン、魔導機。うむ、ファンタジーらしい単語が出てきたな。

 暗中の街の道を、そこそこ注意しながら歩いていく。

「ほ~……その知識はどこで?」

「レイニャから、色々。外の事は全部レイニャが教えてくれてたもので」

「そんな事するんだったら外に出しとけば良いのにな」

「ほんと、私もそう思います」

 アルテミアは手を後ろに組み、照る月を物憂げな瞳で見つめた。

「ところで、魔導機ってのは?」

「特定の学術を唱えることで機能する装置の総称です。転送臨環の場合は『加速』ですね」

「どういう原理だ、分からん」

「あはは、レイニャも流石に仕組みまでは教えてくれませんでした」

「……」

 相変わらず笑った顔が素晴らしいな、この子は。今まで見てきたファンタジーじゃ絶対に一人は可愛いヒロインがいたり、一人どころか二人、三人、四人とハーレムを築いたり……お約束事、と言うのだろうか。俺はこんな子がヒロインで幸せ者だ。


 そのまま無駄話をしながら歩き続けて、「烏合の衆」に着く。ガッカリしない札幌時計台、この形容に尽きる建物の中に入り、夜番の店員に話しかけた。

「こんばんは」

「こんばんは、竜殺しの狩人さん達。今日はどのような用件で?」

 竜殺しの狩人、だって。はは、は……。

「アステネスに行きたいので転送臨環を使いたいのですが」

「あーいよ。『加速』……は使えるよね、当たり前か。ついてきて」

 夜番の店員の言葉に従って彼の背中を追い、建物内の右横、それなりに大きい観音開きの扉を開けた先には……。

「う、うおぉ……」

「綺麗ですねー」

 ぼんやりと黄緑色に輝く地面に埋め込まれた円盤。巨大さと華麗さが合わさって、初めて見る者に衝撃を与えるには十分だ。

 円盤の中心は俺の頭程の穴が開き、良く見ると穴の奥に光を放つ球体が置かれていて、部屋の天井から穴に向かうように幾何学的な模様が描かれている。魔法を使えるだけあって、こういう所はハイテクだな。

「使い方は穴の近くに立って『加速』を使うだけ。そして使用料として銅貨二枚を頂く」

「二枚、ですね。どうぞ」

「ありがとさーん。では、アステネスへいってらっしゃぁーい」

 飄々とした店員は手を振りながらカウンターに去っていった。


 ──さて。

「加速の学術は共有してますよね」

「あぁ、大丈夫だ。せーので行くぞ」

「はいっ!」

 『加速』程度の簡単な学術ならば、イメージせずとも使えるようだ。名前を思い浮かべるだけでいい。

 いざ、アステネスへ。



「「せーのっ!」」




 体が白光を纏った瞬間、視界は明るすぎる緑色で覆われた。

▼ ▼ ▼

「……ん」

 いかん、記憶が無い。確か転送臨環の上に立って、「加速」を唱えて、それで……。あれ? どうなったんだっけ、俺達。

「あ、ユーヤさん。おはようございます」

「おはよう、何があった?」

「何があったって……気付いたらここにいて、ユーヤさんは倒れてました」

「ここ……ここは、どこだ?」

 今の俺は……机に突っ伏してたみたいだな。感触と色から考えてこの机は木造。という事はどこかの建物の中? 強い学術を使った後のようなダルさを残す頭をゆっくりと振り、周りを見渡す。

 初めて烏合の衆に入った時と同じ、老若男女、有象無象がそれぞれの寝相で熟睡している。大盾を背負った黒い兜の大男や、狐みたいな獣耳を生やしたアサギ色の髪の……待て、キツネ?

 キツネだけじゃない、ネコ、オオカミ、ハムスター、どれも元の世界にしている動物の耳を生やした人間ばかり。もちろん兜を被っている奴は分からないし、獣耳が無い普通の狩人もいる。


「アステネスの『烏合の衆』です、ちゃんと着いたみたいですね。お外とか凄い綺麗ですよ?」

「お外……あ」

 アルテミアが指を差した方向を見てみると、眠気も一瞬で醒める程の美しい光景が広がっていた。

 漆塗りのような鮮やかな赤と黒で彩られた数多の和風な建物が列を乱すことなく並び立ち、その間を縫うように渡り橋が掛かっている。だが美しいのはそれだけではない。

 洗練された華麗さの背景には闇夜と白月が浮かび、前述の全てをピンク色の花弁が気高く飾っている。


「ほあ……」

「ね、キレイでしょ?」

「あぁ……」

 そう言ってアルテミアは微笑む。月の光りが彼女の顔を青白く照らした。


 彼女の言う通り、あまりにキレイすぎて……

「キレイ、だな……」

「……わ、私じゃなくてお外に言ってください」

 しまった、これじゃ俺が変態みたいじゃないか。……まぁ、俺の言う事も間違ってはいないと思うがな。

 端から見ればイチャついているようにしか見えない会話は、和服──のように見える何か──を着付け、猫耳を生やした女性店員に遮られた。

「……あのねぇ、狩人さん方。まだ夜も明けてないんだよ」
 
「ごめんなさい……」

 うむ、店員に止められた。ここは公の場である。

「あんたら新顔だろ、アステネスの事はお勉強してきたかい?」

 怪訝そうな顔つきで問われ、俺は咄嗟にレオが言っていた事を思い出す。

「えーっと、妖人族の国で、ご飯が美味しくて、魔族が強くて、秘境があって……とか」

「大方正解だね。ここに来た以上、何か目的があるんだろ。言ってみな」

 やたらとニヤニヤした面持ちで問われた。ここはとりあえず素直に言っておくか。

「その、秘境に行ってみようかと、思いまして」

「はぁ……やっぱりね。見せてみな、狩人手帳」

「ど、どうぞ」

 ベルトのポーチのカバーを外し、実績を隠蔽したソレを渡す。店員はページをめくった直後、眉をひそめた。

「アルテミア、ユーヤ、魔族を5体討伐、ね。後は──って、これだけ!?」

「まぁ、一応」

 アルタードレイゴスを倒しましたなんてバカな事を言う訳にはいかない。なんせ目立たなくするために隠したんだからなぁ。

「……秘境はそもそも立ち入り禁止だけどさ、秘境以前の問題だよ、あんた達。まずはここらの魔族を狩れるようになってからにするんだね」

 そんなに呆れる事もないだろうに……。アルテミアと視線を合わすと、決まりが悪そうに苦笑いを返してきた。

「あぁそういえば、今日は結構有名なⅠ級狩人が来てるんだ。そこの二人さ」

 店員が指を差したのは、黒いバケツみたいな兜と鎧を着込んだ図体の大きい狩人と、アサギ色の長いクセ毛を一つ結びでまとめたキツネ耳の女性狩人。バケツ狩人の側には巨大なハンマー──長い持ち手の先に縦長の六角柱が円状に並んでいる不思議な形状──と巨大な長方形の大盾。キツネの方は……腰に刀を差している、それだけ。

 さっきまでの俺と同じように、机に突っ伏して寝ている。転送臨環で来た直後なのだろう。

「魔族討伐のために来てくれたみたいだから、運が良ければ色々教えてくれるかもしれないねぇ」

「あ、ありがとうございます……」

 Ⅰ級狩人……生で見るのは初めてだな。ちなみにキツネさんは和服?ではなく、一見普通の「冒険者」って感じの服装だ。

「最近は魔族が増えてるんだ、新人にも熟練にも活躍してもらわなきゃあっちもこっちも安心して暮らせやしない。Ⅲ級にはちと荷が重いだろうけど、頑張るんだよ」

「はぁ……」
 
 秘境は二人で攻略する予定だから、隠れて細々と狩っていくとするかな。


▼ ▼ ▼

 
 そんな訳で色々観光してきた。レオの言っていた事は全て本当の事だったのだと、俺は身を持って感じた。……本当に可愛い子ばかりだし、ご飯も美味しいもんなぁ。


 ……そして今、ここ、烏合の衆に至るのだが。



「キリサガさん! 名前、名前書いてください、ここ、ここにぃ!」

「どけよお前! 俺が先だぞ!」

「なんですかⅢ級みたいな顔のくせに!!」

「ふざけんな俺はⅡ級だぁあぁぁ!」

「貴公ら道を開けろ! 狩人キリサガの話し相手は私だ!」

「調子乗るんじゃねェ!」

 
 店内の喧騒……いや、阿鼻叫喚と言った方がいいな。


「『塔騎士』のヴィクセンさんですよね! お顔見せてもらえませんか!?」

「ちょっとー、ヴィクセンさんは絶対に兜を脱がない人なんだよ」

「ヴィ、ヴィクセンさん、騎士として尊敬してます、だから是非一度お手合わせを!」

「ニクス止めろって、Ⅰ級に勝てるわけないだろ」

「た、確かにそうだけど……」


 こっちは平和だ。それにしてもこの騒ぎ、ちょっと前に店員が言っていた「結構有名な狩人」のせいか。

「有名だとこうなっちゃうんですね~」

「俺はこういうのを避けたくて隠したんだよ」

「でも店員さんにⅢ級扱いされたのはちょっとムカッと来ました……」

「それは仕方ない、ガマン。コツコツ、着実に人助けしてけばいいだろ」

「人助け……あ、今この状況の事ですね」


 ……おっ? 



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